白い花
「みんなと逸れてしまったな」
「そ、そうだね」
私は上擦った声で返事してしまった。緊張している。それもめちゃくちゃに。でも仕方ないと思う。長年一緒にいた幼馴染に、告白しようとしているのだから。
私は臆病だから、どうしても断られた時のことを考えてしまう。いつも通りの関係に戻れるのならまだいいが、私も彼女も女だ。昨今では同性愛者は珍しくない……が、誰しもがそれを受け入れるわけじゃない。もし、「そんなふうに見られたくない」って拒絶されたら、立ち直れる自信がない。
「花火が始まってしまうな、もう合流は諦めて、ここで二人で見ようか」
「うん」
ああ……でも、やっぱり好きだなぁ。
『ヒュ~~~~~~~~~~~~、ドン!!!』
躊躇っている私の背中を押すように、花火が上がる。タイムリミットはこの花が散りきるまでだと再認識させられる。
花火を見上げるあなたの横顔を見る。その顔はとても楽しそうで、見てるこっちまで楽しくなるような笑顔だった。そんなあなたに見惚れていると、その顔が、こちらを向いた。慌てて私は顔を逸らす。あからさまにもほどがある。こんなんじゃ告白なんて……
「優芽」
「な、何?」
「どうしたんだい?さっきからちょっと変…というか」
気づかれてるーーー!まあさっきから挙動不審だったもんね……。
「い、いや大丈夫。なんでもない」
………っどうしよう。いつ告白しよう。タイミングがない。
「もう一つ聞きたいことがあるんだが、いいかい?」
「もう一つ?」
他に聞きたいことってなんだろう?
「どうして優芽は、昔から私だけを、普通に名前で呼ぶんだ?」
そんなの、決まってる。その理由は………!
「ずっと、特別だったから」
「え……」
あぁ…言っちゃった。もう、一度口に出したらもう止まらない。
「ずっと、好きだったから」
涙まで出てきた。恰好つかないなぁまったく。
「好きです」
もう花火の音は聞こえない。ただ視界がうるさいだけだ。カラフルな光に照らされる、想い人の顔を見る。あなたは、とても驚いた表情で固まっていた。それすらも愛しくて、思わず笑ってしまう。私は何も言わず、ただ、目の前の人からの返事を待っている。
しばらくして、彼女は口を開いた。
「……………ごめん」
ダメだった。私じゃ駄目だったんだ。悲しみに押しつぶされそうになった。周りなんて気にせずに大声で泣きたかった。でも、その前に、これだけは聞いておきたかった。
「理由、教えてくれる?」
「優芽には、私なんかよりも、もっといい人がきっといるから」
そういって、自嘲気味に笑った。
……………遥っちの言った通りだった。この理由は、ホントに、ムカつく。
「ざけんな」
「優芽?」
「ふざけんな!」
急に大声を出した私に驚いたのか、湊は肩を跳ねさせた。でも、そんなの知ったこちゃない。こうまでしても、ぜんぜんこの気持ちは晴れないんだから。
「ほかの理由なら素直に諦めようと思ってた!なのに…なにが”もっといいひとがいる”だ!」
涙が溢れてくる。けど、それを気にすることなく、言葉を紡ぐ。
「もっといい人なんているわけない!初めて会ったときからずっと、好きだった。私の中には、湊しかいないの!湊が、私の1番なの!」
泣きじゃくりながらそう叫んだ優芽を見て、私は今更、犯した過ちについて理解した。私では彼女に釣り合わないと思っていた。だからあんな断り方をした。
私は、学校でワーキャー言われているが、その称賛があまり好きじゃなかった。私は、みんなが思っているような人間じゃない。ほんとはもっと内気で人見知りだ。そのせいで、小学校のときはろくに友達がいなかった。けれど、そんな私に、優芽は声をかけてくれた。朝が来るのを嫌って、明けない夜を望んでた私を変えてくれた、太陽みたいな人だった。
「優芽」
「みな……と?」
顔を上げた優芽が、驚いた表情を浮かべる。彼女の濡れた瞳に映る自分を見て初めて気づいた。私は、泣いていた。拭っても、拭ってもとめどなく溢れてくる。
「ごめん、ごめん優芽」
他にもっと言わなきゃいけないことがあるはずなのに、私の口からは、これしか出てこなかった。
「湊」
私の名前が呼ばれたかと思ったら、次の瞬間には抱きしめられていた。
「ゆ……め」
私は何も言わない。ただ黙って、最愛の人を抱きしめる。
「……ほんとはずっと、お礼を言いたかったんだ」
優芽を抱き返した。ああ、やっと、言いたいことを言える。
「あの日、声をかけてくれてありがとう」
「私も言いたかった。あの日、私を拒絶しないでくれてありがとう」
あの日、私は、この人に、恋をしたんだ。
私たちは、何も変わっていない。
内気で恥ずかしがりやなのも/ いつも明るく引っ張ってくれるのも
たま~に見せる可愛い一面も/ 私にだけ特に甘いのも
控えめながらも楽しそうな笑顔も/ 私をからかうような笑みも
想いの暖かさも
お互いの大切さも
あの日から、変わっていなかった。
それから、私たちは泣いた。抱きしめあいながら、周りのことなんて考えずに泣きじゃくった。どれくらい経ったのだろうか。いつの間にか涙は枯れていた。お互いに腕を離し、見つめあう。そして、さも当然のように、唇を重ねた。
永遠に続いてほしかった時間が終わりを告げた。
「恥ずかしいな…こういうの」
顔を赤らめるあなたが可愛くて、思わずもう一度想いを重ねた。
「んっ!?……ぷはっ。ゆ~め~!」
「ごめんごめん、可愛くてつい」
「か、かわっ!?」
ああ、本当に、そういうところが。
「好きだよ」
「私も、愛してる」
「湊………それはずるい」
「じゃあ、戻ろうか、みんなのところへ」
「うん」
そうして、私たちは2人で夜道を歩いた。
百合はいいぞ




