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可惜夜(あたらよ)に君を想う  作者: ウエハース
第三章 恋の裏方と気付き
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白い花

「みんなと逸れてしまったな」

「そ、そうだね」

私は上擦った声で返事してしまった。緊張している。それもめちゃくちゃに。でも仕方ないと思う。長年一緒にいた幼馴染に、告白しようとしているのだから。

私は臆病だから、どうしても断られた時のことを考えてしまう。いつも通りの関係に戻れるのならまだいいが、私も彼女も女だ。昨今では同性愛者は珍しくない……が、誰しもがそれを受け入れるわけじゃない。もし、「そんなふうに見られたくない」って拒絶されたら、立ち直れる自信がない。

「花火が始まってしまうな、もう合流は諦めて、ここで二人で見ようか」

「うん」

ああ……でも、やっぱり好きだなぁ。

『ヒュ~~~~~~~~~~~~、ドン!!!』

躊躇っている私の背中を押すように、花火が上がる。タイムリミットはこの花が散りきるまでだと再認識させられる。

花火を見上げるあなたの横顔を見る。その顔はとても楽しそうで、見てるこっちまで楽しくなるような笑顔だった。そんなあなたに見惚れていると、その顔が、こちらを向いた。慌てて私は顔を逸らす。あからさまにもほどがある。こんなんじゃ告白なんて……

「優芽」

「な、何?」

「どうしたんだい?さっきからちょっと変…というか」

気づかれてるーーー!まあさっきから挙動不審だったもんね……。

「い、いや大丈夫。なんでもない」

………っどうしよう。いつ告白しよう。タイミングがない。

「もう一つ聞きたいことがあるんだが、いいかい?」

「もう一つ?」

他に聞きたいことってなんだろう?

「どうして優芽は、昔から私だけを、普通に名前で呼ぶんだ?」

そんなの、決まってる。その理由は………!

「ずっと、特別だったから」

「え……」

あぁ…言っちゃった。もう、一度口に出したらもう止まらない。

「ずっと、好きだったから」

涙まで出てきた。恰好つかないなぁまったく。

「好きです」

もう花火の音は聞こえない。ただ視界がうるさいだけだ。カラフルな光に照らされる、想い人の顔を見る。あなたは、とても驚いた表情で固まっていた。それすらも愛しくて、思わず笑ってしまう。私は何も言わず、ただ、目の前の人からの返事を待っている。

しばらくして、彼女は口を開いた。

「……………ごめん」

ダメだった。私じゃ駄目だったんだ。悲しみに押しつぶされそうになった。周りなんて気にせずに大声で泣きたかった。でも、その前に、これだけは聞いておきたかった。

「理由、教えてくれる?」

「優芽には、私なんかよりも、もっといい人がきっといるから」

そういって、自嘲気味に笑った。

……………遥っちの言った通りだった。この理由は、ホントに、ムカつく。

「ざけんな」

「優芽?」

「ふざけんな!」

急に大声を出した私に驚いたのか、湊は肩を跳ねさせた。でも、そんなの知ったこちゃない。こうまでしても、ぜんぜんこの気持ちは晴れないんだから。

「ほかの理由なら素直に諦めようと思ってた!なのに…なにが”もっといいひとがいる”だ!」

涙が溢れてくる。けど、それを気にすることなく、言葉を紡ぐ。

「もっといい人なんているわけない!初めて会ったときからずっと、好きだった。私の中には、湊しかいないの!湊が、私の1番なの!」

泣きじゃくりながらそう叫んだ優芽を見て、私は今更、犯した過ちについて理解した。私では彼女に釣り合わないと思っていた。だからあんな断り方をした。

私は、学校でワーキャー言われているが、その称賛があまり好きじゃなかった。私は、みんなが思っているような人間じゃない。ほんとはもっと内気で人見知りだ。そのせいで、小学校のときはろくに友達がいなかった。けれど、そんな私に、優芽は声をかけてくれた。朝が来るのを嫌って、明けない夜を望んでた私を変えてくれた、太陽みたいな人だった。

「優芽」

「みな……と?」

顔を上げた優芽が、驚いた表情を浮かべる。彼女の濡れた瞳に映る自分を見て初めて気づいた。私は、泣いていた。拭っても、拭ってもとめどなく溢れてくる。

「ごめん、ごめん優芽」

他にもっと言わなきゃいけないことがあるはずなのに、私の口からは、これしか出てこなかった。

「湊」

私の名前が呼ばれたかと思ったら、次の瞬間には抱きしめられていた。

「ゆ……め」

私は何も言わない。ただ黙って、最愛の人を抱きしめる。

「……ほんとはずっと、お礼を言いたかったんだ」

優芽を抱き返した。ああ、やっと、言いたいことを言える。

「あの日、声をかけてくれてありがとう」

「私も言いたかった。あの日、私を拒絶しないでくれてありがとう」


あの日、私は、この人に、恋をしたんだ。


私たちは、何も変わっていない。

内気で恥ずかしがりやなのも/ いつも明るく引っ張ってくれるのも

たま~に見せる可愛い一面も/ 私にだけ特に甘いのも

控えめながらも楽しそうな笑顔も/ 私をからかうような笑みも

想いの暖かさも

お互いの大切さも

あの日から、変わっていなかった。

それから、私たちは泣いた。抱きしめあいながら、周りのことなんて考えずに泣きじゃくった。どれくらい経ったのだろうか。いつの間にか涙は枯れていた。お互いに腕を離し、見つめあう。そして、さも当然のように、唇を重ねた。

永遠に続いてほしかった時間が終わりを告げた。

「恥ずかしいな…こういうの」

顔を赤らめるあなたが可愛くて、思わずもう一度想いを重ねた。

「んっ!?……ぷはっ。ゆ~め~!」

「ごめんごめん、可愛くてつい」

「か、かわっ!?」

ああ、本当に、そういうところが。

「好きだよ」

「私も、愛してる」

「湊………それはずるい」

「じゃあ、戻ろうか、みんなのところへ」

「うん」

そうして、私たちは2人で夜道を歩いた。


百合はいいぞ

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