表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
可惜夜(あたらよ)に君を想う  作者: ウエハース
第三章 恋の裏方と気付き
40/70

太陽と喜び

遥(君)のおかげで、陽菜姉(隆人)と2人きりになれた。しっかりしろ、俺(私)。ここで頑張らなくてどうする!


「ここ、懐かしいね」

花火が始まるまでの、永遠にも等しい数分をやり過ごすために、タカに話をふる。ここは、山にある神社。昔、ここで私はタカに告白された。

「ああ、覚えてる。2人で初めて花火を見た場所だ」

あの日、まだ小さかった俺は、ここで陽菜姉に告白した。陽菜姉は子供の言ったことだと思ってからかってきたっけ。「もっと大きくなったらね」なんて言ったり。でも俺は、あの時から、本気で好きだった。

今も変わらず、ものの見事に拗らせている。

「……本当に大きくなったね。いつの間にか身長も抜かされてたし」

あの時のタカと今のタカを比べた感想を口にする。私の後ろにいつも付いてきていた子が、自分よりも大きくなって、隣にいる。

「何年経ってると思ってんだよ」

あれからずっと、俺はこの人を好きなままだ。それが、今日で終わるのかもしれない。

……それは、怖いな。

「てかいつまで陽菜姉呼びを続けるつもりなのさ」

「さぁ、特に決めてない。ふとした時に変えたりするかも」

「なにそれ」

陽菜姉って呼ばれてる間は、そんな風にすら見られないってことなのかな……。

『ヒュ〜〜〜~~~~~~~~~、ドン!』

「あ、始まった」

花火の音が聞こえて、私たちは同じ方向に顔を向ける。

「そういや、他の奴らは大丈夫かな」

「みんな各々見てるんじゃない?合流する時間なんて無かったし」

「まぁそうか」

それから、しばらく会話が消えた。

「………………」

「………………」

気まずさはない。ただここに響くのは、火薬が爆ぜる音だけだ。

「ねぇタカ」

「……何、陽菜姉」

「向こうでも、こういうの誘われたりしないの?同じクラスの子とかから」

ああ、臆病だな私。今いい感じの子が居たら、告白せずに大人しく身を引こうとしてる。タカの幸せを願っている。でも心のどこかでは、いて欲しくないとも思ってる。

……我ながら、どうしようもないな。

「誘われることはあるよ。色んな子から」

「っ!……そっか」

いるんだ……やっぱり。

そうだよね、遥君が言ってたみたいな人気っぷりならそういうことも沢山あるよね。

これは、勝ち目ないかなあ……。

「……でも全部断ってる」

「……………え?」

どうしてって思ってる顔だな、陽菜姉。

「なんで?」

「みんなあんまり知らないから。行っても楽しくないし」

いや、嘘だ。もっともらしい理由を後付けしているだけだ。本当の理由なんて、言えたらここまで来てない。

「そっ…か……」

私は思わず安堵した。そっかぁ、いないんだ……。

「そういう陽菜姉は、ないの?」

「私?ないよ、そういうのは」

ううん、嘘だ。誘われる。誘われるけど全部断ってる。目の前のタカが好きだからなんて言えるわけない。

「王子様は、誰かに告白されたりしたの?」

やめておけばいいのに。

「もちろんあるよ。でもそれも全部断ってる」

「なんて言って断ってるの?」

「………好きな人がいるって」

「……その人も幸せ者だね、そんなにタカに想われてて」

───ああ、早く終わってくれないかな、花火。

私が、泣く前に。

「でもその人は好かれてる自覚が全くないんだよ」

聞きたくない。

「その人はさ、いつも元気で明るくて」

言いたい╱聞きたくない。

「でもちょっと抜けてるところがあって、それもまた可愛くて」

もっと言いたい╱聞きたく、ない

「今までずっと一緒にいてくれて」

俺がどんなに╱聞きたく……ないよ

「昔1度告白したけど、子供だからってあしらわれて」

あなたを想っているのかを╱聞きた……え?

「それでも、今もずっと好きなままで」

目が合った。

その目は涙で潤んでいて╱彼の姿は滲んでいて

「とても大切で」

そんなあなたも大好きで╱そんな私を見て微笑んで

「他の誰にも渡したくなくて」

いつしか、あしらわれた想いを╱全然勇気が出なくて

「誰よりも、愛しいんだ」

前よりも重くなった想いを╱臆病で私が言えなかった言葉を

俺(彼)は、告げる。

「好きだよ、()()

見たことない程泣いている╱もっと彼の姿が滲んできた

あなたからの返事を╱彼は、嗚咽すら出てる私からの返事を

待っている。

「わた……しも」

上手く声が出ない。

「あなた、が」

でも伝えたい、私の、想いを。

「好き、好きだよ、隆人」

滲んだ視界に、確かに見えた。あなたの、涙を。

「………!」

思わず抱きつく。彼はそんな私を優しく抱き返してくれた。

「好き、好き、……大好き!」

「俺も、大好きだよ、陽菜」

それから、お互いに気が済むまで抱きしめ合った。



  ▢


「あと俺たちだけだって。早く行こう、陽菜」

手を差し出す。

「うん!」

その手を握り返す。

「ねえ、隆人」

「なに?」

「離さないでね」

「もちろん。離してって言われても離してやらないから」

そうして、みんなの元へ歩き出した。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ