夏祭り
「みんな準備出来たー?」
「あとちょっと待ってくださーい!」
「はいはーい」
3日目のバイトも無事に……いや、鈴名と陽菜さんはソワソワして使い物にならなかった。まぁ無事にとは言えないが海の家でのバイトも終わり、ついに夏祭りへと行く時が来た。
「優芽、ちょっとそこにあるゴム取ってくれないか?」
「う、うんわかった!」
「陽菜姉、変じゃない?」
「うんうんいいよいいよカッコいい」
………………心配だなぁ。
「それじゃ、行こうか。みんな忘れ物ないね?」
「大丈夫でーす」
恭弥さんが道を案内してくれるらしく、俺たちはそれについて行くことになった。
「……2人とも、大丈夫?」
移動中にコソッと聞いてみた。
「「大丈夫じゃないです」」
本当に心配だ……。
▢
「おおー!」
「人多いね〜!」
ついに祭りをしているところに着いた。とてつもない人の数だ。見てるだけで人混み酔いしそうだ……。
「よし、じゃあ僕はここで。帰りは陽菜に連れて帰って貰ってね」
「はーい」
そう言って、恭弥さんは人混みの中に消えていった。常連さんと楽しむらしい。こっちもこっちで楽しませてもらおう。
「どれから行こっか?」
「分かってないねぇ遥君」
「え?」
やれやれと言わんばかりに陽菜さんは首を横に振る。周りを見ると、全員陽菜さんと同じ反応をしている。
「どれから回るとかないのよ」
嫌な予感。
「まさか」
「目に付いたもの片っ端から回るに決まってんじゃん?」
「マジすか……」
「よし、じゃあ行こー!」
陽菜さんはそのまま黄野の手を取って歩き始めた。
「ちょっと陽菜さん!……も〜、行こっ湊!」
鈴名はそう言って海瀬の手を引っ張って行った。
「はぁ……心配要らないかもなこれ」
もうそれ出来るなら大丈夫だろ。あとはどうやっていい感じに分裂するだけか考えないとなぁ。回りながら考えておくか。
「それじゃ、俺達も行くか?」
冗談半分で、手を差し出しながら渚に聞いてみた。
「……!ふふっ、迷子になったら困るしそうしよっか」
渚は最初は少し驚いた顔をしたが、笑って俺の手を取った。そしてこっちを見て、からかうように、それでいて嬉しそうにで微笑みながら、こう言った。
「……離さないでね?」
「あ、ああ」
反射的に顔を逸らしながら答えた。赤くなっている顔を見られたくなかった。今のは…めちゃくちゃずるいと思う。
そこからみんなと合流するまで、熱い顔をどうやって冷ますかだけを考えていた。
「射的やりたーい!」
「射的かぁ」
みんなで回ってて、鈴名が提案した遊びを見て、少し憂鬱な気分になる。
「どしたの遥」
そんな俺を見かねた渚が声をかけてくる。
「射的苦手なんだよ。自分で引くレベルの下手さしてるから俺はパスで」
「そんなに下手なら逆に見てみたいんだが」
からかってくる黄野。こいつムカつくな。おうおうお前の気持ち全部バラしてやろうか。
「そんなに言うならやってみろよ」
「おうやってやるよ」
そう言って黄野は店主にお金を渡し、銃を構える。そして引き金を引く。…………外れた。綺麗に全弾外したぞこいつ。
「やーい下手くそ〜」
「お前相手なら当たると思うんだけどなぁ」
「物騒なことを言うな」
「やれやれ2人とも。お姉さんに任せなさい!」
陽菜さんが店主にお金を渡して、銃を構え、撃った。…………全弾命中。凄い。
「どんなもんよ!」
「「おお〜」」
思わず俺たちは拍手をしていた。そして、陽菜さんは店主から落とした景品を貰って、さらに先に進み出した。
「ほらほら行くよー!花火までそんなに時間ないんだから!」
「早いなぁ」
緊張を誤魔化すためにあんなに元気に振舞っているんだろうか。もしくはシンプルに楽しんでるか。多分後者だなあれは。
それからも、みんなでやりたい屋台や食べたい屋台を言い合って楽しんだ。
「遥それ何?」
「ん?チュロス。いる?」
「ちょーだい!」
「ほら」
「いただきまーす。…うん美味しい!」
「…………お前らさぁ」
「「?」」
「自覚ないならいいわ……」
なんてこともあったり。
そして、ついにその時がやってきた。花火が始まる約6分前。このあたりで別れておかないと間に合わないんだけど……どうやって別れるか決めてなかった!祭り楽しみすぎたわ!ヤバいわよ!
「どうしよ………あっ」
色々考えていると、花火が始まるため、沢山の人が我先に花火をいい場所で見ようとして、人の流れが出来ている。使えるかもしれない。
「陽菜さん、鈴名。ちょっと耳貸して」
かくかくしかじか……と、あえてこの人の流れに混ざって逸れようという計画を話した。
「よしならさっさとやろう」
そう言って陽菜さんは喜野の手を引っ張って進み始めた。
「花火始まっちゃうよ!みんな急ご!」
全員が陽菜さんについていき、人混みの中に入った。そして陽菜さんと鈴名と俺は、あえて人混みに身を任せ、逸れることに成功した。そしてそれぞれ、もう合流できないと決めつけて、事前に決めていた穴場(3つあるならもはや穴場じゃない気がするが)に向かった。ここからは、彼女たちが頑張るしかない。俺に出来るのは、ただ成功を祈るだけだ。