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可惜夜(あたらよ)に君を想う  作者: ウエハース
第三章 恋の裏方と気付き
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決戦前夜

「づがれだ〜〜!」

1日目はあのまま何事もなく終わり、2日目はほんとに何も無かった。普通に忙しかっただけ。

「まだ明日もあるんだぞ」

「現実逃避中に現実を突きつけないで遥」

「現実逃避する前に片付け手伝えバカ」

机に突っ伏してだらけてる渚に乾いた雑巾をぶん投げる。

「ぶっ!?」

顔面にクリーンヒット。

「遥っち」

「なんだよ」

鈴名が近寄ってきた。雑巾投げるのはやり過ぎた?

「投げるなら濡れてるのじゃなきゃ」

「酷っ!?」

「考えたけどやめた」

「考えたんだ!?」

「ほらそこー、喋ってないで手動かして!ご飯食べるの遅くなるよー!」

陽菜さんからそう言われた瞬間、全員の雰囲気が変わった。

「よし俺こっち」

「私こっち」

「なら私は向こうかな」

「………そんなに早くご飯食べたい?」





「「「ご馳走様でした」」」

「いやー美味しかったねー」

「うんうん」

今日の晩御飯はカルボナーラ。パスタとクリームがとても絡みあってて美味しかった。

「あ、そういや明日の祭りの準備しなきゃ」

「確かに」

明日は帰ってきてからすぐに祭りに行くため当日に準備する余裕がない。なので今のうちに準備しておこうという訳らしい。

「女の子たちは浴衣着る?」

「着れるなら着たいですけど……あるんですか?」

「ふっふっふっ、あるんだなぁこれが。しかも人数分」

「人数分!?」

人数分ということは4人分あると。なんであるんだよ浴衣って結構高いでしょ。

「おばあちゃんがそういう仕事でしてるから毎年1着作って送ってくるんだよね……」

「すごいなおばあちゃん」

「タカの家にも来るんだっけ?」

「マジ?」

まさかの毎年2着。パワフルすぎるな陽菜さんのおばあさん。

「毎年甚平が送られてくるんだよ」

「へぇー、今回それ持ってきたのか?」

「持ってきたぞ、2着」

ん?

「2着?」

「俺とお前の分だよ。逃がさないからなお前も着ろよ甚平」

「マジすか」

「マジ。俺と体型あんま変わんないからいけるだろ。ちょっと後で着てみてくれよ」

「わかった」

まさか俺の分まであるとは。まぁ仕事で着たことあるし大丈夫だろ。

そして、みんなで明日の祭りの準備を終えた。女子たちは浴衣を決めるのに結構悩んでたようだったが、チラッと見ただけで結構な種類があったから仕方ない。

「よし、準備おしまい!寝よう!明日も早いからね」

「「「おやすみ〜」」」

………あっ、そういえば明日が決戦の日では?うーん、見た感じ緊張してるような感じはしなかったし大丈夫……か?

そんなことを考えながら眠りについた。





つきたかった。

「……………」

寝れない。かれこれ1時間はこうだ。隣で寝てるやつは45分前には寝息をたててた。

「夜風にでも当たりに行くか」

そう思い、寝てる人達を起こさないようにそっと階段を下り、外に出た。

コツ……コツ……コツ……。車も何も通らない闇に、自分の足音だけが響く。都会みたいに明かりだらけじゃなく、道を照らすのは等間隔に置いてある、あまり明るくない街灯だけ。

少し遠くに聞こえるさざ波の音を聞きながら、海沿いの道を宛もなく歩き続ける。誰ともすれ違わない。こんな時間にこんな何も無いところを歩いている人なんて、俺みたいに夜風に当たりに来た人か、はたまたなにか別の目的がある人か。大体前者だ。

「あれ?」

今いる所から少し先の街灯に照らされている、人影が2つ見えた。その人影に近づくために少しスピードを上げ、そしてたどり着いた。

「何してるんですか2人とも」

「あ、遥っち」

「遥くん」

人影の正体は、陽菜さんと鈴名だった。

「2人とも寝れなくてさ」

どうやら2人とも俺と同じ理由で夜風に当たりに来たらしい。

「緊張してますね」

「そりゃするよ。明日の今頃にはもう告白し終わってるんだって考えると、ねぇ?」

「はい。ドキドキが止まらないんですよね」

そりゃそうだ。今まで友達やただの幼馴染みとして過ごしてきたんだ。もし断られたらその関係すら消えてしまう。誰だって告白するのは怖いものだ。たまに伝えるだけ伝えておくって断られる前提で告るタイプもいるけど。

「断られたらどうしようって、ずっと頭の中にあるんだよ〜!湊は優しいから多分友達のままで居てくれるけど、向こうが良くてもこっちがダメなんだよ〜!」

「うんうん、分かるよ優芽ちゃん。私もタカに断られたらどうしようって気が気じゃない」

「遥っち、なにかないのいい感じに緊張ほぐすやつ」

いい感じのやつか……うん、ないな!あったら真っ先に教えてる。

「残念ながら、そういったものは持ってないよ」

「無いかぁ」

「でもちょっとしたアドバイスみたいのなら言える」

俺の言葉を聞いた2人が食いつくようにこちらを見ている。

「なになに!」

「教えて!」

「でも、これ告白して返事された後のやつですよ?」

「「後?」」

「はい。俺……というか母親からなんですけど」

そう。さすがに年齢=彼女いない歴の俺1人では恋愛相談なんて不可能なので、交際経験どころか結婚している大先輩の母親に相談していた。

「告白して、OKかダメか言われるじゃないですか」

「うん」

「そこで、もしダメだったときはその理由を聞けって」

「「理由を?」」

「断る理由はたくさんあります。シンプルに好きじゃないから、とか友達のままでいたい、とかほんとにたくさんあります」

「ほうほう」

「その理由の中に、『自分よりいい人がいるから』的なニュアンスの断り方があるじゃないですか」

自分より幸せにしてくれる人がいるから、とか自分じゃもったいないから、とかのやつ。

「あるね」

「その理由だけは絶対に納得するなって言ってました」

「なんで?」

「母いわく、『いい人も何も自分の中の1番が貴方だから告白してんじゃん』らしいです。他にいい人が居るとかどうでもいい、誰よりも貴方が好きだから、貴方じゃなきゃ駄目だから告白してるんだ、って」

「「!!」」

全くもってその通りだ。貴方しかいない、貴方じゃなきゃ駄目だから告白してるのに、「他に自分よりいい人がいるよ」なんて言われたら怒っていいと思う。断り方としては、傷つけないようにしたとしても最悪。

「まぁ他の断られ方したら、もう諦めるしかないのかもしれませんけど、この断り方なら全然怒っていいと思いますよ」

「うん……うん、なんか元気出た!ありがとう遥っち!」

「なんか一気に楽になった感じがする。ありがとう!」

「それなら良かったです」

「ってもうこんな時間……!そろそろ戻らなきゃ明日朝起きれなくなっちゃう」

スマホの時計には0時と表示されていた。結構話していたらしい。

「なら、帰りますか」

「だね〜」

そうして、俺たちは世間話をしながら家に帰った。変わったことは特になく、強いて言うなら、暗くて顔は見えなかったが、誰かとすれ違ったことだろう。





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