断じて!断じて故意ではなく!
『本日はお暇でしょうか?』
…………渚からの1件の通知。先日の荷物持ちの件があったため、嫌な予感しかしない。
『要件はなんでしょうか?』
『ちょっと助けて欲しいんですけど』
具体的な内容を教えろよ。
『何をして欲しいんだよ』
『組み立て式の棚を組み立てて欲しくて……』
組み立て式の棚?昨今の組み立て式の家具って女子1人でも組み立てれるようになってない?
『1人で組み立てれない棚ってどれ位でかいの買ったんだよ』
『そんな大きくはないんだけど、3つくらい買ったのよ』
3つか……。そりゃ猫の手も借りたい状況だわ。
『わかった。そっち行けばいい?』
『来て!助けて!』
『はいはい。ちょっと待ってろ』
後でなんか奢らせたろ。
▢
「いらっしゃーい!」
「……………………」
渚の家のインターホンを鳴らして、渚が出てきた。出てきただけなら良かった。問題は渚の格好である。オーバーサイズのTシャツ1枚着てるだけ。下履いてない。もう一度言おう、下を履いていない。シャツ1枚である。思春期真っ盛りの男子高校生には目に毒。
「?どうしたn………………。〜〜~~~〜!!!」
どうやら自分の格好に気づいたらしい。顔を真っ赤にしながら服の裾を引っ張ってしゃがみ込んだ。
でもね渚さん、その姿勢はその姿勢で胸元が見え……待って。裾を引っ張ったせいで肩の方が下に行って、肩が見えたんだけど、何も無かった。何も無かったんだよ。本来肩が見えた時に見えるはずの……ストラップが。
「ちょ、ちょっとまってて!!すぐ着替えてくるから!!」
そう言って、渚はとてつもない速さで家の中に戻って行った。あまりに急いでたせいで服の裾が捲れたのは黙っておこう。
「………………黒かぁ」
▢
「で、組み立てるのはどの棚?」
「これこれ。結構あるよ?」
「確かに1人じゃ大変だな」
あれから着替えてきた渚に案内されて渚の部屋に来た。前来た時よりスペースが出来ている。どうやら今回組み立てる棚に変えるために先に捨てたらしく、入っていたであろう服などが置かれている。
「じゃ、お願いね」
「はいはい」
そうして、棚の組み立てが始まった。
「遥〜それ取って」
「ん」
「サンキュー」
「渚ー、これってこうでいい?」
「いーよそれで。ありがと」
棚を組み立ててるが、目線の先には女物の下着の上の方。立ち位置と姿勢的に目をそらすことも出来ない。気まずい。ちなみにストラップレスは無かったです。
それからも、ネジのボルトがどっか行ったり、組み立てが甘くて板が渚の頭に直撃したりして(たんこぶできてた)、3時間くらいかけて棚を完成させた。
「終わった〜」
「疲れた〜〜」
思ったより時間かからなかったな。お陰でまだ外は橙色だ。
「遥、カステラあるけど食べる?」
「いいの?」
「休日にここまでやってくれたんだから遠慮しないで」
「ならお言葉に甘えて」
「じゃ用意するからちょっとまってて」
そう言って渚が出してきたのが、とても綺麗なカステラ。めちゃくちゃ美味しそう。
「いただきまーす。……美味しい」
「ほんと?」
「ほんと。めちゃくちゃ美味しい」
「そんだけ喜んで貰えたら、作者冥利に尽きるなぁ」
作者……?もしかしてこれって…………
「えっ手作り?」
「うん」
「マジすか」
「マジです」
凄。カステラってそんな簡単に作れるものだったっけ?もしやこいつこういうのが得意だったりするのか?
「凄いな。お店と遜色ないレベルだぞこれ」
「いやぁそんなに褒めても洋菓子しか出ないって」
「出るんかい。将来はこういう路線の職業に着きたかったり?」
「あ〜、まぁね。そっち関係の仕事がいいなぁとは思ってるけどね……」
「…………?」
また、なんか悲しそうな顔してる。悲しそうというか、諦観?のような感じがする。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
気のせいか。
カステラを食べ終わった頃には、外も暗くなり始めていたので、そのまま解散となった。
「今日はありがとね〜」
「来客の時は、服をちゃんと着ような」
「〜〜〜!!あーもう帰れ帰れ!じゃあね!」
どうやら痴態を思い出したらしく、あの時と同じくらい顔を赤くして帰宅を促してくる。
「黒………あ」
渚が思い出したのなら俺ももちろん思い出してしまう。あのとき見た目の保養になる物の色まで。
「みみみ、み、」
「いや、見ようと思って見た訳じゃなくてですね?渚が急いで振り返った時に裾が捲れて見えたと言いますか……」
俺は必死に言い訳をする。実際事故である。故意じゃない。故意じゃないんだ!
「他には何か見た?」
「い、いや」
「見た?」
「…………渚が服の裾を引っ張った時に、肩が丸見えになって、本来あるであろうストラップが無かっ」
「死ねッ!」
「ゴフッ!?」
腹パンもらって、勢いよく扉が閉められる。俺はそのまま腹部の痛みを感じながら、家に帰った。




