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可惜夜(あたらよ)に君を想う  作者: ウエハース
第三章 恋の裏方と気付き
33/78

断じて!断じて故意ではなく!

『本日はお暇でしょうか?』

…………渚からの1件の通知。先日の荷物持ちの件があったため、嫌な予感しかしない。

『要件はなんでしょうか?』

『ちょっと助けて欲しいんですけど』

具体的な内容を教えろよ。

『何をして欲しいんだよ』

『組み立て式の棚を組み立てて欲しくて……』

組み立て式の棚?昨今の組み立て式の家具って女子1人でも組み立てれるようになってない?

『1人で組み立てれない棚ってどれ位でかいの買ったんだよ』

『そんな大きくはないんだけど、3つくらい買ったのよ』

3つか……。そりゃ猫の手も借りたい状況だわ。

『わかった。そっち行けばいい?』

『来て!助けて!』

『はいはい。ちょっと待ってろ』

後でなんか奢らせたろ。





「いらっしゃーい!」

「……………………」

渚の家のインターホンを鳴らして、渚が出てきた。出てきただけなら良かった。問題は渚の格好である。オーバーサイズのTシャツ1枚着てるだけ。下履いてない。もう一度言おう、下を履いていない。シャツ1枚である。思春期真っ盛りの男子高校生には目に毒。

「?どうしたn………………。〜〜~~~〜!!!」

どうやら自分の格好に気づいたらしい。顔を真っ赤にしながら服の裾を引っ張ってしゃがみ込んだ。

でもね渚さん、その姿勢はその姿勢で胸元が見え……待って。裾を引っ張ったせいで肩の方が下に行って、肩が見えたんだけど、何も無かった。何も無かったんだよ。本来肩が見えた時に見えるはずの……ストラップが。

「ちょ、ちょっとまってて!!すぐ着替えてくるから!!」

そう言って、渚はとてつもない速さで家の中に戻って行った。あまりに急いでたせいで服の裾が捲れたのは黙っておこう。

「………………黒かぁ」






「で、組み立てるのはどの棚?」

「これこれ。結構あるよ?」

「確かに1人じゃ大変だな」

あれから着替えてきた渚に案内されて渚の部屋に来た。前来た時よりスペースが出来ている。どうやら今回組み立てる棚に変えるために先に捨てたらしく、入っていたであろう服などが置かれている。

「じゃ、お願いね」

「はいはい」

そうして、棚の組み立てが始まった。

「遥〜それ取って」

「ん」

「サンキュー」

「渚ー、これってこうでいい?」

「いーよそれで。ありがと」

棚を組み立ててるが、目線の先には女物の下着の上の方。立ち位置と姿勢的に目をそらすことも出来ない。気まずい。ちなみにストラップレスは無かったです。

それからも、ネジのボルトがどっか行ったり、組み立てが甘くて板が渚の頭に直撃したりして(たんこぶできてた)、3時間くらいかけて棚を完成させた。

「終わった〜」

「疲れた〜〜」

思ったより時間かからなかったな。お陰でまだ外は橙色だ。

「遥、カステラあるけど食べる?」

「いいの?」

「休日にここまでやってくれたんだから遠慮しないで」

「ならお言葉に甘えて」

「じゃ用意するからちょっとまってて」

そう言って渚が出してきたのが、とても綺麗なカステラ。めちゃくちゃ美味しそう。

「いただきまーす。……美味しい」

「ほんと?」

「ほんと。めちゃくちゃ美味しい」

「そんだけ喜んで貰えたら、作者冥利に尽きるなぁ」

作者……?もしかしてこれって…………

「えっ手作り?」

「うん」

「マジすか」

「マジです」

凄。カステラってそんな簡単に作れるものだったっけ?もしやこいつこういうのが得意だったりするのか?

「凄いな。お店と遜色ないレベルだぞこれ」

「いやぁそんなに褒めても洋菓子しか出ないって」

「出るんかい。将来はこういう路線の職業に着きたかったり?」

「あ〜、まぁね。そっち関係の仕事がいいなぁとは思ってるけどね……」

「…………?」

また、なんか悲しそうな顔してる。悲しそうというか、諦観?のような感じがする。

「どうしたの?」

「いや、なんでもない」

気のせいか。

カステラを食べ終わった頃には、外も暗くなり始めていたので、そのまま解散となった。

「今日はありがとね〜」

「来客の時は、服をちゃんと着ような」

「〜〜〜!!あーもう帰れ帰れ!じゃあね!」

どうやら痴態を思い出したらしく、あの時と同じくらい顔を赤くして帰宅を促してくる。

「黒………あ」

渚が思い出したのなら俺ももちろん思い出してしまう。あのとき見た目の保養になる物の色まで。

「みみみ、み、」

「いや、見ようと思って見た訳じゃなくてですね?渚が急いで振り返った時に裾が捲れて見えたと言いますか……」

俺は必死に言い訳をする。実際事故である。故意じゃない。故意じゃないんだ!

「他には何か見た?」

「い、いや」

「見た?」

「…………渚が服の裾を引っ張った時に、肩が丸見えになって、本来あるであろうストラップが無かっ」

「死ねッ!」

「ゴフッ!?」

腹パンもらって、勢いよく扉が閉められる。俺はそのまま腹部の痛みを感じながら、家に帰った。



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