この3人は俺をなんだと思ってるんだ
『キーンコーンカーンコーン……』
帰りのHRの終了を告げる鐘の音がなる。俺は今日バイトも無いから家に帰ってゲームのイベントを回る予定だ。
「帰ろ帰ろ」
「遥さ〜ん」
「…………」
帰ろうとした矢先に、聞き覚えしかない声が聞こえ肩を掴まれた。
「なんでしょうか渚さん?俺早く帰りたいんですけど」
「今度私たち海行くじゃないですか」
「ええ、そうですね」
「で、水着がいるんですよ」
未来を予知した俺は渚を無視して帰ろうとする。しかしとてつもない速さで残りの2人が俺の行く手を塞ぐ。
「まぁまぁ一ノ瀬。話だけでも聞いてくれないか?」
「そうそう遥っち。別にそんな変なことじゃないし」
「俺はこの後予定があるんだが」
「ゲームのイベント周回でしょ?」
なぜ知っている……?!
「誰から聞いた……?」
「喜野くん」
「……………」
言ったわ俺。昼休みにあいつと飯食べてる時に「今日完全オフだからゲームのイベントでも回ろうかな」って言ったわ。
件の喜野を見ると、申し訳なさ半分面白さ半分の目で見てきている。あいつ今度八神さんのことで弄り倒してやる。
「俺に何をしろと?」
「「「荷物持ち、お願い」」」
「えぇ……」
女子のショッピングってそういやめちゃくちゃ買うんでしたね。しかし、だからといって俺の貴重なオフを消されてたまるか!
「「「お願い」」」
「………はい」
無理でした。この3人からの有無を言わさぬ笑顔を向けられては断れるわけがない。卑怯だぞー!
「じゃ、行こっか」
ちなみにクラスメイトはいつもの反応が数名。あとは「またか……」みたいな反応をしている。受け入れられてるのが納得いかん。助けが来ないってことじゃないか。
▢
「これとか良くない?」
「いいね、それ!でも渚っちにはこっちの方が似合うと思うけどなぁ」
「こっちはどうだい?」
あれから強引に連れてこられた俺は案の定引きずり回されて両腕には3人の服の入った紙袋が所狭しと並んでいる。
「……………」
気まずい。女性物の水着のお店に来ているんだけど、すんげー気まずい。周りを見ればそれはもう素晴らしいデザインの水着がたくさん。しかも……
「遥はどう思う?」
「お前達は俺に何を求めているんだ……?」
そう、俺店内にいるんだよね。こういうのって店の前で待ってるのが普通なんじゃって思うよね。俺も思う。
「え?普通に男子目線の意見が欲しいんだけど」
「お前ら3人なんでも似合うじゃん……」
「そういうのはいいから〜、遥っちの意見が欲しいの。渚っちにはどれが似合うと思う?」
そう言って鈴名は2つの水着を見せてくる。
片方は黒を基調としたレースアップ。そしてもう片方がシンプルな白いオフショルダー……らしい。らしいというのは今鈴名から説明を受けたからだ。女性用の下着の名称とか知るわけない。
「どっちって言われてもな……」
元が良すぎてどんな水着でも着こなしてしまうせいで、どっちも似合うで終わってしまう。しかし、そんなのでこいつらが納得するわけが無いので、ここで結論を出さなければならない。
「…………こっちかなぁ」
そう言って俺はレースアップの方を指差す。
「ほほう?ちなみに理由は?」
「シンプルに好みだから」
「へぇ?遥ってこんなのが好きなんだ?」
「はいそうですよ!」
からかうような視線を3人から向けられ、逃げ出したくなる。バカ正直に理由答えなければよかった。
「ならこれにしようかな。じゃ買ってくるね」
「お、おう」
あれ?そんなあっさりと……。てか俺が選んだのでいいのかよ!?なんかこう嬉しいような恥ずかしいような。
「2人はもう買ったのか?」
「ああ、渚だけ悩んでてね。一ノ瀬のおかげでサクッと決まったが、結構悩んでたんだ。助かったよ」
「は、はぁ」
まぁ……役に立ったのなら良かった……のか?
「おっまたせ〜!さ、今日の目標も達成した事だし、帰ろっか!」
「やっと帰れる……」
▢
「じゃ、私と湊こっちだからバイバイ」
「おー、また明日な〜」
「またね〜」
渚と海瀬と別れて、鈴名と2人きりになった。普通の男子高校生なら、ここでドキドキしたりするんだろうが、そんな訳もなく。俺たちが話すのは今度の夏のことだ。
「で、向こうも2人きりになりたいから、いい感じに俺が渚を連れ出すから、あとはそっち次第になる」
「なるほどなるほど。でもそんな2人きりになれるの?そういうのって穴場みたいなやつがないと無理なんじゃ?」
「なんか、穴場が3つくらいあるらしい」
「それほんとに穴場……?」
既に鈴名には八神さんのことを伝えてある。もちろん許可は取ってるぞ。
俺たちが考えているプランは、花火が始まる少し前まではみんなで一緒に回る。そして、指定の時刻になったらそれぞれが何かしらの理由をつけて2人きりで穴場に向かう。そして花火を見て……という感じだ。我ながらなかなかのプランだ。
「いや〜ありがとね遥っち。色々やってくれてさ」
「別に、他人の恋を応援するのって意外と楽しいもんだぞ」
「ほんとに…ありがとね」
「……どういたしまして」
ここは素直に受けとっておくべきだろう。
「じゃ、私こっちだからバイバイ遥っち」
「ああ。また明日」
こんな風にプランを練っていると、いつも頭の片隅に1つの懸念が現れる。八神さんはいいんだよ、あそこ両想いだし。でもこっちは鈴名の片想いなんだよな。もし……。いや、そんなもの考えても仕方ない。というかそんなことを考えるのは失礼だな。上手く行くとも。絶対に。




