ちょっと恋のキューピットになってきます
「で、その時タカがさ〜」
「へぇー、そんなことが」
「陽菜姉」
「他にも〜かくかくしかじか」
「ほほう?それはまた……」
「陽菜姉ストップ」
「あいだだだだだだだだだ!!」
本人の許可なしに喜野の過去を暴露し続ける八神さんを、物理的に(頭を掴んで)止めた。
「なに、恥ずかしかったか?」
「幼少期の黒歴史を掘り起こされて恥ずかしくないやつは居ないだろ」
「あだだだだだ!!」
そりゃそうだ。俺も母親や椿さんにそんなことをされたら悶え死ぬ自信がある。
「まぁ俺としては喜野をイジるネタができて喜ばしいけどな。いやぁまさかあのミスターパーフェクトたる喜野さんの昔があんなだったなんて」
「お前もこうなりたいか?」
そう言いながら喜野は現在進行形で頭を掴まれている八神さんを指で指す。
「すみませんでした」
「分かればよろしい」
「あだだだだだだだ!」
「そういや2人は何年の付き合いなんだ?」
「確か……10年くらい?」
「あだだだだだだだだだだ!」
「へぇー、いいなぁ幼馴染み。俺も欲しかったなぁ」
「そんないいもんでもないぞ。無断で部屋入ってきて漁るし、ダル絡みしてくるし」
「ええい!いい加減離せ!」
さすがに限界だったらしい。惜しいな、まだもう少し続けたかったのに。
「乙女の頭を鷲掴みにすな」
「陽菜姉が乙女だったら一ノ瀬も乙女になるぞ」
「私の女子力は男レベルだって言いたいの?泣くよ?」
「言葉にしないと伝わらないか……」
「さすがに私も怒るぞー?」
「ふふっ」
ラノベによくある典型的な夫婦漫才を見せられて、思わず笑ってしまった。
「「?」」
「いや、ほんとに仲良いんだなって」
俺が言ったことに2人が反論しようとしたその時、八神さんのスマホが鳴った。
「あ、美香からだ。ごめんちょっと席外すね」
そう言って八神さんはトイレの方に歩いて行った。
そうだ、あの人が居ないうちに聞いておきたいことを聞こう。
「なぁ喜野」
「ん?」
飲み物を飲もうとしてる喜野に呼びかける。
「片想い歴は何年よ」
「10ねnゴホッゴホッ!」
喜野は驚きすぎて飲み物吹き出した。
にしても、10年……ねぇ?
「一目惚れか……」
「いーちーのーせー?」
目が笑ってない笑顔で俺に呼びかけてきたけど、すごいな全然怖くない。
「素直に答えたお前が悪い」
「はぁ……そうですよ一目惚れですよ拗らせてますよ」
「拗らせてるとまでは言ってないが。八神さん可愛いし彼氏とか居たりするんじゃない?」
「居ないらしい。というか今まで一度も彼氏が出来たことないらしい」
今まで一度も恋愛をしていない……?おや?おやおやおや?これはもしや?
「俺もトイレ行ってくるわ」
逃げたな。なんて思ってたら入れ違いで八神さんが帰ってきた。
「あれ?タカは?」
「トイレですって」
「ああ。で、聞いてよ!友達がさぁ、合コンに誘ってきたんだけど」
「はぁ」
おかしいな?俺今日この人と知り合ったよな?距離の詰め方ヤバ。これが陽の者……
「行くんですか?合コン」
「いーや行かない行かない。何回か誘われたりしてるけど断ってるし。高校の時から好きな人がいるって言ってるのに」
「へぇー」
好きな人がいると。そして今まで彼氏がいたことは無いと。2人の初対面はそれぞれ5~6歳と8~9歳。つまり……
「八神さん」
「ん?」
飲み物を飲もうもしてる八神さんに呼びかける。
「片想い歴何年ですか?」
「3ねnゴホッゴホッ!」
デジャヴ。ここまでそっくりとかもうくっ付いちゃえよ。3年ってことは……
「一目惚れじゃないんですね」
「当然のように話進めないで?!てかなんで分かったの?!」
「喜野から、今まで彼氏いたことないって聞いてて、ずっと好きな人がいて、その人は同じ高校大学に居なくてってなると、やっぱり喜野かなぁと」
どうやら予測は当たっていたらしく、みるみる八神さんの顔が赤くなっていく。
「で、どこを好きになったんです?」
「最初はかわいいなって思ってたんだけど、タカが成長するにつれてどんどん男らしくなって……気付いたら好きになってて」
顔を赤らめながら八神さんは説明してくれた。
「3つも離れてるから、同じ学校にも通えなくてさ。タカは学校で人気者らしいし」
「まぁ、めちゃくちゃ人気ですね」
「私じゃ無理かなぁ……」
諦観混じりに八神さんはつぶやく。安心してください。彼にとっては貴方しかいないんですよ。
「なんか、こうイベントというか、仲が進展することとかないんですか?」
「毎年、夏休みに少しだけうちの別荘の海の家で働いてもらって、そこの近くの祭りで花火見てるけど」
「なぜ仲が進展しない……?!」
「家族みんなで見てるから……!」
くっ、親の誘いなら断りにくいか……。にしても花火か……これ鈴名のやつに使えないか?友達を連れてけばこの2人も2人きりになれるかもしれないし。
「八神さん。それって俺とか他の友達って行けます?」
「え?大丈夫だと思うけど……どうして?」
「こっちにもまぁ少し事情があるんですけど、俺と友達合わせて4人なんですよ。で、俺たちが行くことで祭りを学生だけで回ることが出来るんですよ。そこで、俺が上手いことやれば」
「2人きりで花火が見れる……」
「はい。どうです?」
「帰ったら土下座してでも頼んでみる」
「お願いします」
よし、これで一石二鳥だ。鈴名のお願いも叶えられるし、この2人の仲も進展するし。
「2人でなんの話してんの?」
ちょうどそこで喜野が帰ってきた。どうやら熱が冷めるまでトイレにいたらしい。
「いつもタカが来てくれてるやつに遥くんとか遥くんの友達呼ぶって話」
「ええ……?」
「人数多い方が楽しいだろ?」
そういいながら、俺は喜野に含み笑いを向ける。
「……!俺の仕事も楽になるしアリ」
「OK貰ってからなんだけどね。ならさっさと帰りますか」
「そうですね」
「じゃ、お開きだな」
結構話していたらしく、もう日が傾いていた。俺たちはそのまま店を出て、世間話をしながらショッピングモールを後にした。
「じゃ、またね遥くん」
「はい、また」
俺だけ最寄りが違うため、ここでお別れである。2人に別れを告げて、改札を通り、スマホを開くと3人にさっきのことの提案をする。
3人ともふたつ返事で了承した。優しいなこいつら。その後、鈴名にだけ花火で2人きりになる案を教えた。俺が渚を連れ出せば、2人グループが自然とできる。鈴名からは最高だのなんだのといったスタンプがめちゃくちゃ来た。
自分自身が恋愛することなんて無いだろうけど、他人の恋愛を見守るのってめちゃくちゃ面白いな。




