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可惜夜(あたらよ)に君を想う  作者: ウエハース
第一章 一ノ瀬遥と愉快な仲間たち
3/69

どうしてそうなるんだ

何も見えない。文字通り真っ暗だ。そんな中、ボードに伝わる雪の感触だけを頼りに滑る。

「……っ!」

何度もバランスを崩しそうになる。この雪のせいでガタガタになっているようだ。人1人抱えてさらに不安定な状態だけれど、速度を緩めることは出来ない。1分1秒でも早くあの明かりまで行かなければならない。人の命がかかってるんだ。

運んでる俺の方も限界が近い。濡れた服、そしてこのスピード。服が凍ってもおかしくないけれど何とか耐えている。カイロを貼っていて良かった。

「絶対助けてやるからちょっと待ってろ」

そう言って、スピードをさらに速めた。

そうこうしてるうちに施設の明かりが近くなってきた。施設の前に人影がぼんやりと見える。どうやら施設も蒼野を探していたらしい。その人影が手に持っていたライトをこちらに向けてきた。ライトを振りながら俺に呼びかけてきてるようだ。

「おーい!こっちこっちー!」

田村先生だ。田村先生は俺のクラス担任で27歳。最近の悩みはそろそろ婚期を逃しそうなことらしい。

俺はその誘導を目印に突っ込む。

「って一ノ瀬!?あとそれは…」

「先生話は後!とりあえず蒼野を医務室に運ぶから手伝って!」

「それ蒼野!?わ、わかった!」




「あ〜あったまる〜」

あれから蒼野を医務室まで運んで寝かせてた後、俺の惨状を見た先生に「とりあえず風呂!蒼野は私がやっとくから!」と言われ、風呂にぶち込まれた。奇跡的にヒートショックは起きなかったが、起きたらどうするつもりだったのか。

そして、俺は着替えて医務室で温かいお茶を飲んでいる。冷えた身体によく沁みる。ちなみに先生は蒼野の体を拭いて、生徒やほかの教師に報告に言ったらしい。

「それにしても、遥君がここに来るのは久しぶりですね」

「まぁ、慣れれば怪我とかもしなくなりますしね。というかよく来る方が怖いでしょ」

「ははっ、そりゃそうだ」

この人はこの医務室で客の治療とかを担当してる近藤那奈さん。スノボ始めたての頃はしょっちゅうお世話になった人だ。怪我しすぎてめちゃくちゃ怒られたのも懐かしい思い出だ。

「結構ギリギリでしたね。遥君がいなければどうなっていたことか……」

「何とか間に合って良かったです。俺まで死ぬかと思いましたよ」

「この天気で服1枚はキツイですしね。凍傷もほとんど無くてホントに良かったですね」

2人とも死んでてもおかしくなかったんだよな。落ち着いて振り返ると結構やばい状況だった。

「にしても、こんなに可愛い子を連れてくるなんて、遥君も隅に置けませんねぇ」

と、ニヤニヤしながらからかってきた。

確かに、蒼野はかわいい。ゴーグルなどを外しているので、蒼野の顔がよく見える。

サラサラの茶色い長髪。普段はポニーテールにしてるから、下ろしている姿は少し新鮮だな。

そして整った顔立ちにそれなりに高い162cmの身長。学年問わず人気が出ている。

「ただのクラスメイトですよ。関わりなんて全くないんで」

教室で話すこともなく、本当にただのクラスメイトだ。

「やれやれ、それでも男ですか」

「どこをどう見たらそれ以外に見えると?」

「───ん………ここ、は」

2人で軽口を言い合っていると、この場にいるもう1人の声が聞こえた。どうやら起きたらしい。

那奈さんが蒼野の元へ近寄って、容態を確認する。

「大丈夫ですか?どこか違和感などはありますか?」

「いえ、特には無いです。あ、でも背中が少し痛いですかね」

「分かりました。それでは湿布を取ってくるので少し待っててください」

「ありがとうございます」

「……………………………」

「……………………………」

気まずい沈黙が流れる。うんなんか言ってくれないか?

そして、こっちを見たかと思うと、蒼野は口を開いた。

「一ノ瀬はなんでここにいるの?」

「なんでって、山の中で倒れてた蒼野をここまで連れてきたの俺だもん」

「………え???」

めちゃくちゃ訝しげな目で見てくる…そんな目で見てくんな。

「そんな目で見られても本当だよ本当」

「うっそだぁ!!」

爆速否定はやめてくれ。ちょっと悲しいから。

「本当だってば!人1人抱えて滑るの結構大変だったんだからな!なんなら俺も死にかけたんだからな!」

「いーや嘘だね、だって一ノ瀬にメリットないじゃん」

なんでこいつ信じないかなぁ!

「お前最後の方ちょっと意識回復してただろ。その時に誰かに抱えられてた感じしなかったか?」

「………したわ。誰かに抱えられてる感覚したわ」

「それ俺やね」

「マジ?」

「マジ」

「えっ、もしかして一ノ瀬って……良い人?」

今まで悪い人と思ってたってこと?酷くない?

「失礼な。別に当たり前のことをしただけだろ」

「かぁ〜いい人だねぇ。友達も沢山居るんだろうなぁ」

蒼野にそう言われて、おもわず肩が跳ねる。

「えっ……」

彼女の反応を見て、スっと目を逸らす。

「嘘、でしょ……?」

蒼野は哀れみの目で俺を見てくる。そんなで見るのはやめて欲しい。シンプルに自分が惨めになるから!

「いないの……?」

「………いません」

「えっ入学から約1ヶ月なのに居ないの?」

具体的な数字を出すのはやめて頂きたい。

「陰のものには難しいんですよね……」

「そうなんだ、へ〜〜〜〜!」

「おうおう、言いたいことがあるなら聞こうじゃないか」

「湿布持ってきましたよ、って何してるんです?」

「「いや別に」」

なんでハモるんだ。

「………よし、これで大丈夫でしょう」

「ありがとうございます」

「まぁこれから心配なのは遥君なんですけどね」

「えっ?」

想像すらしていなかったというふうに疑問の声をあげる蒼野。

「まぁ、熱出しますよね。あんだけ濡れて、冷えたら仕方ないとは思いますけどね」

「えっ、じゃあ明日のスキーと明後日の散策は?」

「その時間は家で寝込んでるだろうな」

「そんなことって……」

「別に友達居ないし、顔見知り多いから1人で回る予定だったから大丈夫だよ。元々毎年来てたんだし」

「でも………」

どうしたんだこいつ。カースト上位なんだし絶対回る友達とか沢山いるだろ?こんな俺の事なんか気にしなくていいのに。

「じゃ、じゃあ!私と友達になろう!連絡先教えて!写真とか送ってあげる!」

「……………………は?????いやいやいやいや待て待て待て待て」

どこをどうしたらその結論が出てくるのか、これが分からない。

「いいじゃんどうせ連絡先家族しか居ないんだし」

「決めつけんな!いやまぁ合ってるけども!」

「じゃいいよね、スマホ借りるね〜。これをこうして、と」

「ちょっ、人のスマホ勝手に使うなよ」

「はい、これで追加されてるからこれからよろしくね」

「えぇ……」

分からない……これが陽なのか?このアホみたいな距離の詰め方が陽たる所以なのか?あとこれ男子に知られたらヤバいよな?よし隠そう、うん。オレハマダシニタクナイ。

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