人生初の恋愛相談
それから、これということもなく時間が過ぎていった。いつの間にか海瀬と鈴名も加わってたりもしたんだけど……後半、渚と2人で残りの2人に勉強教える羽目になった。本末転倒じゃない?
「だーかーらー、ここはこの式を使うんだって!」
「ひ〜〜〜!渚っちの鬼!助けて遥っち!」
「悪いが俺も渚側だ。ほら、手が止まってるぞ?」
「鬼ーーー!」
鬼だなんてそんな……ただ悲鳴を上げてる鈴名を2人で無理やり勉強させてるだけなのに……
「海瀬を見習えよ。ほら、何も言わずに熱心に机に向かって…………寝てない?」
「寝てるね」
「おーい、湊〜?」
「ん……なんだい優芽」
「寝てたよね?」
「寝てないが」
「流石に無理あるだろ」
男女問わず人気のある王子様の正体は、割と抜けたところがある女の子でした。第一印象とはかけ離れすぎてる。
「湊も集中する!もう明後日テストなんだから!」
「そういう渚は大丈夫なのかい?」
「もちろん。ちゃんと夜勉強してるし」
「遥は?」
「俺も勉強してる。中間学年1位を舐めるなよ?今回も取るからな」
「いーや、今回は私だね!」
「俺が取るんで諦めてください」
「嫌に決まってんでしょ」
なんてこともありながら、迎えたテスト期間。4人で勉強したところが結構出てて、あの2人でもなんとかなって、それなりの点数にはなるんじゃなかろうか。
□
ほんとになんとかなってらぁ。テストは全部で9教科。
海瀬、620点
鈴名、638点
この2人、前回教科平均45とかじゃなかったか?成長し過ぎだろ。そして肝心の俺たちはというと……
俺、889点
渚、891点
「ちくしょおおおおおおおお!」
「ふっふーん。私の勝ち!学年1位の座は貰ってくよ。」
「次で取り返すだけだ」
「楽しみにしてるね、学年2位さん」
「煽るねぇ……」
学年2位を強調してきやがって!
「あ、おーいそこの4人、手空いてる人いる?」
「タムセンじゃん」
「どうしたんです?」
「いやーちょっと運んで欲しいものがあるんだけど、いける?」
「ちなみに何を?」
「ん?これ」
そういう田村先生が抱えているのは……書類?バカみたいな量あるけど?あれを運べと?
「これを、全部シュレッダーにかけるから運んでほしくて」
「みんなこの後の予定は?」
「バイト」
「無し」
「無し」
「外食」
…………俺と鈴名が予定無し。
つまり、拘束確定。バイト入れとけばよかった……
「じゃ、よろしく〜」
「じゃ、また明日」
「「薄情者ーーー!」」
「よろしくね、お2人さん?」
「「はーい……」」
□
「はぁ、はぁ、遥っち〜あと何往復?」
「あと3〜」
「3!?もう無理〜動けないってば〜」
「少し休憩するか?」
「する!」
あれから俺たちはただ運び続けた。まずおかしいのが教室の配置。職員室が1階なのに対してシュレッダーとかがある部屋が4階。ちなみに書類の重さは、だいたい2Lペットボトル2本分くらい。つまり、これといって筋トレをしてない俺たちにとって地獄。
「暑っつ」
「夏にこれはキツいって〜」
「分かる。汗ヤバい」
「……………………」
「……………………」
静寂。お互い疲れすぎて会話する気すら起きない。エアコンの音とシュレッダーの音が、部屋に響く。
「遥っち」
「ん?」
「相談してもいいですか」
「ジャンルによる」
「恋愛相談……なんですけど」
「お疲れっしたーー」
無理無理。俺に恋愛相談なんて出来る訳ない。年齢=彼女いない歴の俺には無理よ。
「ちょっ、待って!割と切実なので!」
「他に人居ただろ……」
「だって、湊のこと好きって知ってるの遥っちだけだし……」
「あー、そうか……そうだよな」
多様性化してるとは言っても、同性が好きだなんてそんなポンポン言える訳じゃないしな……
「話は聞くけど、いいアドバイスは諦めてくれ」
「聞いてくれるだけでも助かります」
「それならいいけど……」
「まず簡潔に言うとですね、距離を縮めたいです。はい。1歩先に進みたいんですよ私」
「で、そのために何をすればいいかって?」
「そう!なんかない!?」
「なんかって言われてもなぁ……夏休みにどこかに一緒に出かけるとか?」
「私もそれ考えたんだけどさぁ、もし湊誘っても、あの人優しいから『渚も誘ってみるよ』とか!言うの!」
断定してない?こういう時普通『言いそうだし』とかじゃなくて?
ハッ!こいつまさか……
「もしかして……」
「今まで何度も誘ってるのに毎回コレなんですよ!」
やっぱり実体験なんすね。キャラ壊れてる壊れてる。
「100%善意で言ってるのと、恥ずかしさもあって断れないと」
「仰る通り」
「2人で行きたいって言えないなら、もう先に『渚っちは行けないんだって』とか言ってみれば?」
「遥っち、そんなことが出来てたら相談してると思う…?」
「別にそれくらい出来るだろ!?」
「無理!それはなんか違うじゃん!こう、なんていうか友達を、さぁ!」
「OK、言いたいことは何となくわかった」
どうやらこの方法は鈴名の良心的にダメらしい。まぁ友達を騙すことになるんだし、そりゃそうか。
「そうなると……夏休みにみんなでどっかに出かけるしかないのかなぁ」
「みんなで?」
「そう、みんな。俺が渚引っ張ってけばいいじゃん?」
「天才?」
「学年2位ですから」
「1位じゃないのちょっとダサいね」
「俺も言ってて思った」
「ならどこに出かけるか、だね。ありがとう遥っち!あとは頑張ってみるよ!」
「お、おう。役に立ったのなら、良かったけど」
「よし、そうと決まればまずこれを片付けよう!」
「元気〜」
エリクサーでも飲んだのかってレベルで元気になるじゃん。モチベ爆上がりしてる。なんか……嫌な予感するから俺も場所探しとくか……




