青春というものは不思議なものだ
『混合リレーに出る選手は所定の位置に着いてください』
運営による案内のアナウンスが競技開始の時間が迫っていることを知らせる。混合リレーは女子3男子1で出る都合上、男子だけスタートの位置が違う。もう1度だけ言うぞ?男子だけ、スタートの位置が違う。
「フシュー……フシュー……」
「コロス……」
「コウナイヒキマワシ………」
もう純粋に怖い。あとなんだよコウナイヒキマワシって………校内引き回し……?
……………帰っていい?俺の命日が今日になりそうなんだけど。
『第1走者は準備してください』
渚を見る。……緊張でガッチガチじゃねぇか。なんかさっきまで考えてか事がバカバカしくなるほど面白い。笑いを堪えるのに必死なんだけど。
あ、こっち見た。んで笑いそうなのバレた。おいおいそんな目で見るなよもっと笑いそうになるから。
「位置について、よーいドン!」
聞きなれた空砲の音と共にリレーが始まった。
「いけええええええ!」
「頑張れーーーー!」
さっきまでの頼りない渚はどこへやら。速い速い。一気に先頭に躍り出た。さすがは女子の中で足が速いほうの渚さん、ぶっちぎりで第2走者にバトンを渡す。
第2走者は鈴名。あいつも決して遅くはないようで、渚のリードを保ったまま走っている……が、ここで女子陸上部の登場です。
「「「うおおおおおおおおおおおおお!」」」
下手したら俺たち男より速いレベルで爆走してる。元々あったリードが少しづつ縮んでいく。というかなんでランダムなのにピンポイントで陸上部なんだよ。ズルいぞー!
なんていってるうちにそろそろ第3走者にバトンが渡る。渚が稼いだリードは陸上部パワーで半分以上縮んでしまったけど、ここで海瀬がリードを保ったまま来てくれればこっちの心労も些か緩和されるんだが…………はいここで陸上部の登場です。
「「「いっけええええええ!」」」
………………ふざけんなよ?なんで陸上部が2人も固まってんだよ!てかあとあの女子国体出てなかったっけなぁ!?国体レベルはもはやルール違反だろ。抜かされて、リード稼がれて、アンカーに回ってく…………待って、待て待て待て。なんかリード思ったより縮まってないな?えっ海瀬様……すき……イケメン過ぎるだろそれは。
……心臓が早鐘を打つ。ここまで緊張したことなんて人生で1度もないぞ。でも、勝ちたいよなぁ。俺は負ける戦はしない主義だ。自分が負ける可能性があるやつはだいたい即座に諦める。今回だって、普通なら諦めてただろうよ。
後ろを見る。
海瀬と陸上部の子は横に並んでいる。ほんとにすげぇよ海瀬。おかげで『勝てる』ようになった。あとは俺が死ぬ気で走るだけ。スポーツ系でも無いのに何を熱くなってるんだか。でもまぁ、青春なんてこんなもんだろ。勝つって言ったんだ。男に二言は無い。勝ってみせるさ、必ず。
───バトンを受け取る。無我夢中で走る。
「行けー!」
「頑張れーーー!!!」
歓声は俺の耳に届かない。俺が要求するのはゴールテープだけだ。走って、走って、走って。
けれど、200mは伊達じゃない。ラストのカーブ辺りで体力が尽きそうになる。どうして男子は100じゃなんだろうかと場違いながら思う。
でも、そんな疑問はカーブに置いていかれる。カーブを超えた最後の直線。横を見れば、陸上部が2人居たクラスのアンカーがいる。向こうも必死だ。でもな、いいことを教えてやるよ。あの人気者3人に「勝って」なんて言われたんだ。なら、勝つ勝てる勝てないとかじゃない。勝つに決まってる。男に二言は無いんだから。
▢
…………ゴールの空砲が鳴る。
あぁ、らしくない。本当にらしくない。こんな風に熱くなるタチじゃないんだけどなぁ。でも、今は、今だけは───
ゴール付近まで来ていた3人と目が合う。それを見て、俺は、笑顔──後で渚に「無邪気な子供みたいなすごい嬉しそうでこっちまでも嬉しくなるような笑顔してた」って言われるレベル──でVサインを3人に向けていた。




