2.最初っからクライマックス
色々なコースをたくさん滑って疲れたな。やはりスノボは楽しい。夢中になっている間に周りも暗くなってきた。
「今何時だ?」
腕時計を見ると時刻は16時半。集合は17時とか言ってたっけか。あと2回は滑れるか。でも雪が酷いし、念の為1回だけにしておこう。
そう思い、俺は今日ラストのリフトに乗って、コースの頂上まで行った。
□
「ん?」
いつも最後に滑る時は、コースの縁に沿って滑るようにしている。何か見つけられるかもしれないからだ。
案の定、何かを見つけた。コース外の左側の林に伸びているスキー板の滑った跡だ。今は16時45分。集合まで時間が無い。
だけど、この雪だとすぐに跡が消えてしまうだろう。周りは誰も居ないし、このままだと誰にも気づかれないだろう。
「どうしたものか……。杞憂の可能性だってあるしな……」
ま、杞憂ならそれでいいし、とりあえず行ってみるか。十分帰れるレベルだし。
俺はその跡を辿って滑り出した。
最初から少し疑問だったことがあった。誰だってこんな林に突っ込んだら焦る。焦るとコントロールを失ってどこかしらの木にぶつかるはずだ。そうすれば、命の危機、とまではいかないくらいで済んでいた。
けれど不思議なことに、この跡が続いているところは、木々が乱雑に生えていなくて、まるで獣道のようにまっすぐで少し広い道が出来ていた。
つまり、木にぶつかって止まろうとしても止まれない。奥の方まで進んでしまっているかもしれない。杞憂ではない可能性が出てきて、進むスピードをあげる。
「…見つけた」
跡が途切れている。その先あったのは高さ5m程の小さな崖だ。逆にすごいなここまで綺麗に行けるの。下を覗いてみると、その下には雪が積もっていて、その中央に倒れている人影があった。クラスメイトの蒼野渚だ。
「蒼野ー!聞こえるかー!」
呼びかけるが返事は無い。どうやら意識を失っているようだ。
俺はそれを確認した後、近くにあった長めの尖った枝を蒼野に当たらないように下に投げた。その枝は、自らの体の7割程を雪に埋めて止まった。俺ならだいたい腰より少し上ってところか。
雪の厚さの確認は済んだ。あとは助けるだけだ。周りを探し、下に降りれる斜面を探した。
すると、右側に斜面と言うには急すぎる場所を見つけた。周りを見ても他に行けそうなところは無い。覚悟を決めて慎重に下へと降りていく。もはや落下に近い時間をどうにか耐え、下へとたどり着いた。少し遠くに蒼野が見える。
彼女の元へ行くにはこの積もった雪を掻き分けて行かなければならないが、迷ってる時間はない。俺は上着を脱ぎ、その白い絨毯に足を踏み入れた。
「いっっっ?!」
クソ冷たい。氷と何ら変わらない冷たさだ。服が濡れて寒さが加速する。それでも俺はかき分けながら蒼野がいる所まで進んでいく。
1分くらいかけて、蒼野のところまで着いた。まずは容態の確認だ。体温はそこまで下がっていないようだ。スキー板を外すため、右手を蒼野の足元まで伸ばす。そのせいで胸元までも雪に沈む。カイロ貼っててよかった。じゃなきゃ今頃死んでる。数分試行錯誤して、何とか両足の板を外せた。あとは掘り出して、持ってきたスノボに乗せるだけだ。
「よい…しょっと!」
服が濡れているせいでなかなか重かったが、何とか乗せれた。
「ハッ、ハッ、ハッ」
行きと同じように雪をかき分けながら進む。
そして、ついに抜け出した。脱いであった上着で蒼野を包む。気休め程度だがないよりはマシだろう。あとは連れていくだけだが、ここまで降りてきた道は人1人抱えていては使えない。
けれど、この林はコースの斜面に沿っているため、恐らく崖に沿って進めば、上がれるところが見つかるかもしれない。ボードを背中に背負って、蒼野を抱えて走り出した。
1歩が重い。こいつより俺の方が死に近い気がしてきた。
□
崖は少しコースの方に寄ってそびえ立っていたため、自然とゲレンデに近づいていて、上がれるところを見つけた頃にはゲレンデまで目と鼻の先だった。お陰様ですぐに林を抜け、ゲレンデへと到着した……が、問題はここからだ。
今日は、夕方か深夜にかけてここら辺は天候が悪くなる予報だった。そして、予報通りに強風が吹き荒れ、まるで吹雪のようだ。一応5月なんだが。しかも日が落ちてあたりは真っ暗だ。……ホントに5月だよな?
目を凝らして見てみると、微かに下の方に施設の明かりが見える。どうやら結構進んでいたらしい。ここを滑ってあの明かりまで行かなくちゃならない。その前に蒼野の様態を確認する。移動中も何回か確認していたが、少しずつ体温が下がっている。それに俺の体力も限界が近いらしい。まだ身体が動くうちに行くしかない。
俺は覚悟を決め、蒼野を抱え、スノボに足を通し、暗闇へとその身を躍らせた。
不定期許してぇ…
あと俺はスノボなんもわかんないです。スキーがかろうじて程度。何となくで書いてます。