ウワサ、コワイ
「ほれほれ〜、好きな物頼んでいいぞぉ〜」
メニューを叩きながら誇らしげに言う蒼野。
「ファミレスで言う言葉じゃねぇだろ。」
「いーじゃんいーじゃんほら頼んでよ。」
奢ってもらう立場なため、あまり強く言うわけにもいかず、言われた通りにメニューを見る。
「ファミレスなぁ…来るの久々だわ。」
「そうなの?普通友達と来たりしない?あっ、そういえばそうだったねごめんね」
何かに気づいたような反応を見せた。何に気づいたのかは100%わかるが。
「お?なんだ俺に言いたいことがあるなら言えよ?ほら言ってみろよ。」
「いやぁ……友達いな…」
「ん?」
口にしようとしたので、圧をかけて黙らせる。
「イヤナンデモナイデス。」
「よろしい。」
「目が笑ってない笑顔のお手本みたいな顔してた……」
なんか言ってる。それにしても本当に久々だ。ほんの数日前まで友達すら居なかったのにな。……どうして俺は学校1の人気者と2人きりで飯を食べに来てるんだ?やばい今更実感してきた。というか女子と2人でご飯食べることすら初めてだったな。
「何にしようかな〜〜」
……………顔良いなこいつ。いや顔良いな。え、なんで俺なんかがこんな美人と居るんだ?
「ほら!一ノ瀬もさっさと決めて!」
綺麗な顔を眺めていると、もう注文を決めた蒼野に急かされた。どうやらとても腹が減っているようで、「お腹空いてるから」とさらに急かされた。
「お、おう。なら……俺はこれにするかな。」
「おっけー。すみませーん!!」
□
料理が届くまでの間に何故か俺と蒼野の会話は弾んでいた。
「一ノ瀬って頭良い?」
「良い…とは思うぞ。中学は模試の順位1桁だったしな。」
「いや普通に良いじゃん、良すぎるじゃん。そんなに頭いいんだぁ〜へ〜」
なんだその顔は。なにか企んでるなこのニヤつき具合は。
「だったらなんだよ。」
「そんな君には私に勉強を教える権利を授けよう。」
「お断りさせていただきます。」
「ジュースかなんか奢るからー!ホントにヤバいのピンチなの!」
おねがい!と手を合わせてお願いしてくる。
勉強教えるって言ったって俺人に教えた経験ないしなぁ。どうしようかなやってもいいよな。
うーーーーーーん。
「おーけー。やってやるよ。」
「ありがとう!!!神!!!!」
いつの間にか次の予定が決まってしまった。蒼野ほどの女子と2人きりになることなんて世の男子たちが渇望するシチュエーションだろう。これもほかの奴に知られたらただじゃすまないな。
「いらっしゃいませ〜。」
なんか人が増えてきた。もう13時過ぎになったため、お昼を食べに来たのだろうか。制服着てる人が多い。てかうちの制服じゃん。…………うちの制服!?
「……ねぇねぇ蒼野さんや。」
「ど、どうしましたか一ノ瀬さん。」
あっノってくれるのか。いやそうじゃなくて。
「今さ、1時過ぎじゃないですか。」
「う、うん。」
「大体の学校がもう部活終わってる時間じゃないですか。」
「はい。」
「ここうちの学校から結構近いじゃないですか。」
「あっ……」
蒼野も同じ結論に達したらしく、口を開けて固まった。
「絶対蒼野のこと知ってる人来るじゃん。学校1可愛いって評判だし。」
「いや、絶対来るって決まったわけじゃないじゃん!もしかしたら来ないかもしれないし!」
「残念ながらうちの制服着てる人を目視で確認しております。」
「……………………」
どうしようかと考えを巡らせていると、後ろから声が聞こえた。
(おい、あれって蒼野さんじゃないか?)
「「!!!!!」」
俺たちは目を合わせる。今ならフラグ回収全1名乗れる気がする。記録5秒。世界記録だな。
(ホントだ、一緒にいるやつって確か…)
(ああ、うちの学校の可愛さトップ3と仲良いとかいうハーレム気取り野郎だな。)
「ゴホッゴホッゴホ!」
「ふふっ……」
おいコラ何笑ってんだ。それよりも、え?何俺そんな風に言われてたの?ハーレム気取り……?
(しかももう3人とヤッてるらしいぞ。)
(おいおい4Pかよ。羨ま……最低だな。)
噂の尾ひれの付き方がエグい。ゲテモノ誕生するレベルの尾ひれ数。もう蒼野とか机に蹲って肩震わせて笑ってる。人の気も知らないで……
「お待たせしました。こちらご注文の料理でございます。それではごゆっくり。」
「よし蒼野、さっさと食べて出るぞ。羞恥心で俺が死ぬ。」
「ハーレム…気取り……4P……ふふっ。」
「あおのー?」
「はいすみませんさっさと食べます。」
その後は2人でご飯を腹にかき入れて逃げるようにお店を後にした。何が好きで自分の尾ひれ付きまくった噂聞かなきゃならんのだ。
「いやー、面白かった!尾ひれの付き方ヤバすぎ!」
いいもの見たと言わんばかりにひとしきり笑ってたのは、一発ぶん殴ってやろうかと思った。
「俺は全く面白くなかったけどな!てか俺あんなふうに言われてるの……?」
「言われてるらしいねぇ。」
他人事のような受け答え。
「誰の人気のせいだと思ってんだよ。」
「帰ってゴロゴロしようかな〜」
「話を聞け」
「何も聞こえませーん。じゃ私こっちだから。」
「あ、ちょ、おい!」
……行ってしまった。
あれほど噂されているのなら、もう友達を作るとかのレベルではない気がする。
あの3人の人気度を今一度再確認した日だった。




