07 鑑定
今日はマーリエラさんと一緒に、王都内のとある場所に向かっております。
マーリエラさんのお悩みについて相談したノミネスコ老師から紹介されたのは、
鍛治師・魔導具技師・錬金術師などに造詣が深い刀剣研究者の方。
ラジカリモさんは、生涯を刀剣の研究に捧げた研究者で、
ノミネスコ老師の悪友、もとい、飲み友達だそうです。
「お師匠さまにお礼しなくては……」
そうですね、今度お酒でも持っていきましょうか。
でも、いかに師匠とはいえ、お酌の席でセクハラ関連なことをされそうになったら、ちゃんと通報してくださいね。
「もちろんです、司法省ハラスメント監査部門は、それはそれは厳しいのですよ」
「ノアルさんも、くれぐれも通報されること無きように」
肝に銘じます……
着いたのは、街外れにある、いかにもって感じの建物。
その名も『エルサニア秘宝館』
「なるほど、秘宝の研究者であるラジカリモさんに相応しい場所なのですね」
えーと、たぶん"秘宝"違いかと。
「?」
後ほどご説明させていただきます……
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「早う、見せい」
ご挨拶もそこそこに、ナイフにかぶりついたラジカリモさん。
年齢を感じさせない凄まじい集中力で鑑定中です。
「……こりゃ、鍛治師も魔導具技師も手に負えんだろ」
「ワシも、タマゴの状態で見るのは初めてだ」
タマゴ、ですか?
「"つくも神"、知っとるか?」
えーと、長年大切に扱われた器物に宿る神様、でしたっけ。
「坊主の居た世界ではそうなのか」
「ワシらの世界では、モノに宿る精霊の一種、だな」
つまり、このナイフたちには精霊が宿っている、と。
「"つくも神"と成るには、いくつかの道筋があるそうだ」
「長年大切に扱われて、主人に報いようとして成るモノ」
「無念を晴らそうと、怨みを募らせて成るモノ」
「そして、最初から"つくも神"と成る宿命を持って生みだされたモノ」
つまり、このナイフたちは、まだ生まれていない"つくも神"予備軍、
だから"タマゴ"……
「無事に生まれるよう込められた強い"想い"に守護されたタマゴは、生まれるまでは何人にも傷付けられぬ、と言われておる」
なるほど、『鑑定』を弾くのはもちろん、そもそも研ぐなど不可能だ、と。
それで、いつ頃"タマゴ"から孵るのでしょう。
「んなもん分からん」
「ワシだって、見るのは初めてだ」
「ただ、"つくも神"と持ち主とは人智を超えた密接な繋がりを持つ、という言い伝えが本当なら、そこの嬢ちゃんが愛情持って接すれば、良い結果も生まれるだろ」
つまりは、マーリエラさんがこの子たちのお母さん的な……
「どうしましょう、今までみたいにナイフとして扱っても構わないのでしょうか」
「ナイフであることが本分なのだから、これまで通りでよかろう」
「そもそも、傷や破損とは一切無縁なのだし、闘いでガンガン経験値を与えることこそが成長に必要なのかもしれん」
つまり、これまで通りで大丈夫ってことですね。
「無事に生まれたらまた来てくれ」
「それまで、ワシもいろいろ調べておこう」
「あと、ノミネスコの爺さんに礼でも言っといてくれ」
はい、今日はありがとうございました。
それで、今回の鑑定のお礼は……
「嬢ちゃんはともかく、坊主の方は修行不足のようだな」
「これでも使って鍛え直せ」
おっと、これって……
「あの爺さんが稽古をつけとるってことは、厄介事に首を突っ込む仕事なんだろ」
「生まれてくる"つくも神"が片親にならんよう、せいぜい精進しろ」
お礼どころか、スゴいのをいただいちゃいました。
タダモノじゃないですよね、この短槍。
「付与も何も無しの、ただ頑丈なだけの短槍だ」
「知り合いの鍛治師が習作として打ったもんだから、気にせずガンガン使え」
「コイツを使いこなせるようになるのが、礼だと思えばいい」
……ありがとうございます、ラジカリモさん。
でもどうして、俺が短槍使いだと?
「手を見れば分かる」
「と言いたいところだが、ここの玄関の解析魔導具なら、マジックバッグの中身などお見通しだ」
さすがは秘宝館、業物チェックはお手のものですか。
「もっとも、嬢ちゃんのナイフはお手上げだったが……」
「用事の方はもういいだろ、久しぶりに本腰入れて調べたいことが出来た」
はい、本当にありがとうございました。
俺たちは『コレクショニア』っていう冒険者パーティーしてますので、
何か探し物とかありましたら、お気軽にギルドの方に指名依頼を。
「それじゃ、ノミネスコの爺さんにいい感じの嫁でも見つけてくれ」
それは無理難題過ぎますよぅ……