06 メンテ
マーリエラさんのナイフメンテナンスの進捗は、
あまり芳しくない模様。
先日のジョウトさんとの激しい打ち合いでもキズひとつなかった業物なのですが、
当のマーリエラさんですら困惑するほどのメンテフリーっぷりに、
一度、王都の著名な鍛治工房でがっつり見てもらうといいですよ、と、俺から助言したのです。
ただ、そっからが問題だったようで。
鍛治業界でも名匠と言われるほどの親方たちが、揃って匙を投げちゃった。
『こんな素材も分からんようなシロモノ、メンテなんて無理難題』
『これは鍛治師じゃなく、魔導具技師の領分』
てな感じで、軒並みアウト。
それならばと、著名な魔導具技師たちを訪ねると、
『魔導付与も呪法も、一切痕跡無し』
『つまりは、あくまで素材の問題なので、これは鍛治師の領分』
てな感じで、そっちもアウト。
ごめんなさい、マーリエラさん。
俺が余計なこと言ったばかりに……
「司法省で一番の鑑定士さんですら詳細不明と言わしめたこのナイフたち、いかに名匠の方々といえどお手上げになるのも道理」
「そもそも、今すぐにメンテナンスが必要、という状況ではありませんので……」
これほどの業物なら、出自が分かればあるいは……
「わたしも、知りたいです……」
マーリエラさん?
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ウン年前、巡回司法省エルサニア王都本部の訓練生女子寮の前に、魔導結界で守られた小さな籠。
籠の中には生まれたばかりの赤ちゃんと、ナイフがふた振り。
マーリエラと名付けられ、女子寮で育てられることとなった赤ちゃんは、
司法官としての最高の教育を受けてすくすくと成長。
その後、決して強制されたのではなく、本人の希望で特務司法官の道へ。
「特務司法官を選んだ理由ですが、自らの出自を知りたいという気持ちも、無かったわけではありません」
「この組織で働けば、いずれは何らかの情報も、と」
「ただ、幼い頃から司法省のみんなが応援してくれているのは分かっていましたが、少々息苦しかったことも……」
「そうして、エルサニア王都から離れてケルミシュ村の潜入任務を選んだおかげで、今では素敵な家族と過ごせるようになりました」
「全てが運命、なのでしょうか……」
マーリエラさんの運命がより良い方向に進むよう、これからも全力でお手伝いさせてください。
「……」
この後無茶苦茶、夫婦しました……