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「黒炎の隼」  作者: 蛙鮫
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「騒つく」

 

『お前の、お前達の一族のせいで!』


 結巳は勢いよく目を覚ました。ふと近くを見ると月明かりに照らされた隼人の横があった。


「夢か」

 数時間前に構成員に言われた言葉が夢に出たのだ。もちろん逆恨みの可能性もある。


 しかしそれなら聖堂寺に限定するだろうか。何故、忌獣対策本部ではないのか。


「そう言えば」


『ぜっ、絶対に許さないぞ。おまっ、えらだけは、絶対に。せっ、どう、じ』

 彼女は数ヶ月前のことを思い出した。ハンプティ・ダンプティの際、幹部である鎌鼬が事切れる前に発した言葉。


 途切れ途切れだったが、間違いなく聖堂寺を罵っていた。


「許さない。聖堂寺か」

 かつて言われた怨嗟の言葉を吐いて、布団に横たわった。不穏な現実から逃れようと彼女は再び、夢の世界に足を踏み入れた。




 翌朝、隼人はホテルのベッドの上で数時間ぶりに携帯を開いた。そこには家族から無数の連絡が受信されていた。


「うわー。やっぱりかかってくるよな」

 苦笑いを浮かべながら、静かに電源を落とした。本当は今すぐに自分の安否を報告したい。


 しかし、聖堂寺の目がある以上、家族も管理下に置かれている可能性がある。ここで情報を漏洩させれば対策本部に割れる恐れがあるのだ。


「家族?」


「ああ。きっと対策本部から連絡が入ったんだろうな。そっちは?」


「私は携帯置いてきたわ。聖堂寺は携帯に発信機が入れられているから」


「箱入りのお嬢様は大変ですな」


 隼人は結巳の境遇に苦笑いを浮かべながらも、内心、彼女を心配していた。昨日の夜から少し浮かない様子なのだ。


「昨日の事、気にしているのか?」


「えっ?」

 彼女が虚を衝かれたのか、目を大きく見開いた。


「気にすんなよ。恨まれているのなら俺らもそうだ。聖堂寺に限った話じゃない」

 聖堂寺に限らず、対策本部で戦う戦闘員は皆、鳥籠にとって煩わしい存在に他ならないのだ。


「昨日の構成員とハンプティ・ダンプティの時の鎌鼬の言葉と被るのよ。許さない、聖堂寺って」


「つまり聖堂寺に焦点を絞って、憎しみを吐いているのには理由があると?」


「そんな気がするの」

 結巳が伏し目になりながら、頷いた。


「聖堂寺は自分の家について、どれくらい知っているんだ」


「百年前に対策本部を立てた事くらいかしら。あと他の人達に色々と顔が効くくらいかしら」


「もしかしたらその以前に何かあったのかもな」

 対策本部ではなく、聖堂寺に対して憎悪を吐かれていた。それは聖堂寺自体に何かあるとしか思えない。


「聖堂寺について詳しく知っている人は?」


「今は兄さんと母」


「首長は今の状況下で絶対聞けないし、美香さんは今、実家にいるんだっけ」


「ええ。京都の方に」

 二人とも、違った理由で聞けそうにない。


「なら、忌獣討伐の道中で知っていくしかないか。さあ、行こう。チェックアウトまでもうすぐだ」

 隼人は結巳を叩いて、出発を促した。



 宿泊したホテルを後にした隼人と結巳は人の目をつかない道をただ進んでいた。


「人目につかずに歩くのってやっぱり苦労するわね」


「指名手配犯ってわけじゃないけど、職員に見つかったら間違いなくお声はかかるだろうな」

 今のところ、対策本部から目立った動きは確認出来ないが、周囲を警戒するに越したことはない。



 隼人の携帯が鳴った。ニュースサイトの通知だ。忌獣対策本部の動向を追う為に通知をつけているのだ。


「お前の兄貴。首長様様だぞ」

 隼人は苦笑いを浮かべて、結巳に画面を見せた。そのニュース記事には破壊した鳥籠のアジトの数と駆除した忌獣と構成員の数が書かれていた。


「こんなにも」

 結巳が目を見開きながら、文字に刻まれた事実に震えていた。


「多分。学園の生徒も導入しているからだろうな」

 金剛杵学園の生徒を導入して、戦闘員の水増し。光とそれを容認する対策本部の狂気に戦慄していた。


「それで今回はどこに行くの?」


「ここから近いのはこのアジトだな」 

 隼人は先日、構成員から聞き出したアジトの中から現在地に近い場所を結巳に見せた。


「今日の夜。このアジトを叩く」


「分かったわ」

 自分達が戦い、忌獣や信徒を倒せばその分、戦闘員や学生達も戦わずに済む。

 いち早く戦いが終わるのを願いながら、隼人は一歩を踏み出した。



 町外れにある公園。幹部である北原ソラシノは鶏マスクが特徴の庭島玉男と缶コーヒーを片手にベンチに腰を下ろしていた。


 普段から対策本部の幹部として多忙な日々を送っている彼らだが、新首長誕生から一層疲労を感じていた。


「松坂君と結巳様がいなくなったんだとよ」


「あの二人には今の対策本部は居心地が悪いだろうね」


「そりゃあ、俺達も同じだろう。あんなのただの暴力だ」

 庭島が勢いよく熱いコーヒーを飲んだ。彼自身、今の光に支配された対策本部のやり方には反対的な考えを持っているため、学園を去った二人の気持ちが痛いほど理解できた。


「なあ、ソラシノ。聖堂寺家に申し立てるってのは?」


「無理だ。対策本部が潰される」

 ソラシノは庭島の提案を即座に切り捨てた。


「美香さんやその旦那の輝さんは温厚だったけど聖堂寺家は元来、独裁的な方針で対策本部を先導して来た。聖堂寺が右を言えば、右を向いて、死ねと言われたら死ぬ。そう言う方針なんだよ」


「つまり現首長は元々の対策本部の在り方を行なっているに過ぎ無いと」


「そうだ」

 ソラシノの言葉で庭島が黙り込んだ。


「俺達だけでは無理だ。発言権の強い人が必要だ」


「そんな人いるのか?」


「もう呼んでいる」

 ソラシノはそう言うと、ちょうどのそのタイミングで本人がやってきた。隼人の祖父、松阪シライだ。


「やあ、北原君。そちらの方は」


「同僚の庭島です」


「初めまして」


「松阪シライ。松阪隼人の祖父です」


「松阪シライってあの迦楼羅と激戦を繰り広げた」


「はは。昔の話ですよ」

 庭島が肩を震わせながら、たじろいでいる。鶏マスクをつけていてもソラシノは今の彼の表情が簡単に想像できた。


「さて。北原君。私のここに呼んだのは単なる老兵との交流というわけではないのだろう?」


「はい。俺達と一緒に今の対策本部を変えましょう」

 ソラシノは早速、本題を切り出した。それと同時にシライの顔が少し険しくなった。


「やはり、それか。隼人の事もあったしのう。参加させてもらう。ただ、聖堂寺に意見するという事がどういう事かは分かっているのか?」


「ええ。ですがこの状況が続くのは耐えられそうにありません」

 ソラシノは芯のこもった鋭い眼差しをシライに向ける。隼人と結巳が離脱したようにここでもまた一つ、革命の一歩が踏み出されていた。


ありがとうございました!

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