「最強の戦闘員」
「行きます!」
隼人は一気に間合いをつけて、刀身を振った。ソラシノが軽やかな動きで避けて、攻撃は一向に当たらない。
しかし、これも隼人にはとって予想の範疇である。
「影焔!」
隼人の刀身から漆黒の炎が音を立てて、現れた。
「ほう。そうか」
ソラシノが何か納得したような素振りを見せたが、構わず剣を振っていく。しかし、それでもかすりもしない。
「いけー! 松阪!」
「頑張れ!」
隼人に向かって他の生徒達が声援を送り始めた。突然の出来事に隼人は驚きつつも、戦闘に意識を戻した。
「くそ! 全く届かない」
影焔の身体能力強化ももろともしないソラシノにさらなる奥の手で対抗することにした。
「火力が足りない!」
隼人は手のひらを切って、血を燃え盛る刀身に垂らした。音を立てて激しく燃え上がる刃と血液が沸騰したような熱さを感じながら、全速力で走っていく。
「げりゃああああ!」
隼人は喉から血が吹き出るような勢いで叫び声をあげて、切り込んだ。
「いい動きだね。それじゃあ、特別に見せてあげるよ。俺の異能」
ソラシノが懐から刀剣型の聖滅具を取り出した。ひと呼吸置くと、勢いよく刀身を振るった。
その瞬間、黒い電流が剣をまとい始めた。
「現場以外で使うのは君が初めてだ」
「黒い雷!?」
「轟け。影雷」
ソラシノの言葉とともに四方八方に黒い電撃が散り始めた。隼人は慌てて後方に下がった。
攻撃の威力の高さとそれ以上に自身が扱う技と酷似している事に驚いた。
「行くぞ」
ソラシノが静かに呟いた瞬間、視界から彼の姿が消えた。すぐさま隼人は背後に強烈な気配を感じて、振り返ると刀身がすぐそばまで迫っていた。
「早い!」
隼人自身、『影焔』の効果で身体能力が飛躍的に上昇しているが、適正率が最高クラスのソラシノはそれ以上の速さで迫ってくるのだ。
異次元の速度に抵抗しながら、反撃の隙を計らって行く。
「やるな。松阪隼人」
その言葉を聞いた時、隼人の視界からソラシノの姿が消えた。突然の出来事で動揺していると顎下に冷えた感覚を抱いた。
ソラシノの剣先が隼人の喉元にあったのだ。
「勝負あったね」
ソラシノが再び、笑みを浮かべた。格が違う。隼人は心底、実力の差を感じた。
「これが対策本部最強」
圧倒的な実力の差。隼人のこの日、それを強く感じた。そして、それとともに一つの大きな謎が頭に浮かんだ。
授業が終わり、生徒達が下校する中、隼人は校門を出ようとした北原ソラシノの後を追った。
「北原さん!」
「おや。松阪君。どうしたの?」
ソラシノが少し驚いたような様子で隼人の方を見ていた。隼人は胸に渦巻く疑問を口から吐いた。
「北原さん。さっきの剣術って」
「ああ、君のお祖父さんから教わったものだよ」
隼人の予想は当たっていた。黒い異能の類は祖父以外からは見たことがなかったからだ。
「教えて下さい。どうしたら貴方みたいに永久的に異能を出したままに出来るんですか?」
「無理だよ」
「えっ?」
「そもそも適正率の高さは遺伝で決まっているし、それに応じて使用できる時間も決まってくる。それは努力ではどうしようもないものだ」
「君だって相当自分に負荷がかかっているってくらい分かるだろ? 俺達が使っている剣術はそれくらい危険なものだ。だから先生は他の戦闘員達に教えなかった」
「じゃあ、どうやって鳥籠を壊滅できるっていうんですか」
「その答えは君が一番よくわかっているはずだ」
虚を衝かれる。隼人はそんな感覚に陥った。
「広く生きろよ。青年」
ソラシノが口元に笑みを浮かべると、そのまま学園を去っていった。一方、隼人は彼から言われた言葉を何度も己の中で咀嚼していた。
「分かっている。でも俺はもう」
隼人は事切れそうな程、弱々しい声を吐き出した。
その日の夜。北原ソラシノはこぢんまりとした雰囲気の居酒屋に行った。瓶ビールを片手にとある人物を待っていた。
引き戸が動く音を聞いて、目を向けるとそこには初老の男性がいた。
「おお、北原くん。久しぶりじゃないか」
「お久し振りです。先生」
「連絡をよこすものだから何事かと思ったよ」
彼は自身の師であり、松阪隼人の祖父である松阪シライを待っていたのだ。
「名字が同じだと思ったら、まさかお孫さんだったとは」
「はは。そういえば会ったことなかったね」
「会わなくて良かったんですか? たまには顔を見せてもいいんじゃないですか?」
「今の隼人には自分で考える時間が必要だ。わしが口を出すのは隼人の成長の妨げになってしまう」
シライが眉を垂れ下げて、少し虚しさを覚えるような表情を作った。
次の日、隼人は教室で朝礼が始まるのを待っていた。その間、様々な生徒達から挨拶されるようになっていた。
徐々に周囲の環境が変化している。隼人はそれを肌で感じていた。
しばらくすると星野奏が入室して来た。
「えー。皆さん。突然ですが今日から転校生がやって来ます。みなさん仲良くしてあげてくださいね」
教室の扉が開くと一人の少女が入ってきた。毛先がピンクと緑色に染まった黒いボブヘアー。陶器のように真っ白な肌。
「えーと。今日からこの学校に転入しました。白峰揚羽と言います! みなさんよろしくお願いします!」
可愛らしい挨拶とともにクラスメイト達が湧いた。
隼人はその顔に見覚えがあった。正体に気づいたと同時に転校生の少女と目があった。
その瞬間、向こうも気づいたのか、パッと花が咲いたような笑みを作ってきた。
「あっ! クラブにいた男の子だ」
隼人は一悶着くる事を微かに感じ取った。
ありがとうございました!




