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異世界に転移した日本で生きるオタクの話  作者: 山田太郎
第一章
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一日目・放課後デート

 授業も終わり放課後となると俺はすぐ隣で帰る準備をしているジャンヌさんを見る。


「ジャンヌ。放課後どっかに遊びに行こうぜ」

「遊び?・・・・・あぁ!放課後デートと言う奴だな!」

「ま、そうだな」


 少しでもジャンヌさんに日本での良い思い出を作ってもらうために俺の恋愛経験ゼロの脳みそから叩き出した答えがこれだった。

 カップルが放課後にゲームセンターに行ったりカフェでお茶したりするシチュエーションはアニメや漫画にも良くあるものだ。


「デートって、やっぱり二人とも付き合ってんじゃねぇか」


 話が聞こえていたのか教室から出ようとしていた山田が戻って来て会話に割り込んで来る。


「にしても、朝にあんな事があったのに二人ともケロッとしてるな」


 他意など山田には無いのだろう。普通はあんな事があれば誰だって塞ぎ込む。


「要はアイツの探してる奴を見つけりゃ良いんだろ?」

「え、でもそれって・・・・・」


 山田が困惑するようにジャンヌさんを見る。


「山田君、ボクは大丈夫だよ」


 子供を諭す様にジャンヌさんは呟く。


「そ、そう?じゃあ俺は唐辛子料理の大食い大会に行ってくるからまた明日な!」


 これは俺の個人的な感想ではあるのだが、山田の方がよっぽどケロッとしているのではなかろうか?


「面白い人だね」

「ただのバカだろ」


 俺は走り去る山田を見送って帰り支度を整える。ジャンヌさんは既に用意が出来ているようでまるで犬かの様に胸を躍らせながら本当に踊っている。


「よーし、ジャンヌ行くぞー」

「やっとかい!待ちくたびれたよ!さぁ、無知であるボクに放課後デートと言うのを教えてくれ!」

「分かったからあんま騒ぐなって!」




 楽しげに話しながら教室を出ていく二人の一方で教室に零を迎えに来ていた陽奈は放課後デートと言う言葉が聞こえるや否や近くの柱に身を隠して二人の様子を伺っていた。


(放課後デート?誰が?零とあのクソエルフが?は?)


 既に陽奈の頭は真っ白だった。中学生になるまでは天野家も大阪にある本家の邸宅で過ごし陽奈の生活のサポートをしていた。

 その中でも歳が同じで一緒に学校に行っていた零とは特に仲が良く子供ながらに一緒に大きくなったら結婚しようなどと言ってしまっていた。

 思い出すだけで恥ずかしいが今でもその気持ちは変わらずに大人になれば自分は零と結婚するものだと思っていた。

 しかし、今つい昨日ぽっと出て来た見ず知らずのエルフにずっと好きだった相手が奪われてしまった。


(と、とにかく後つけやな!零の事やから行くとこまで行ってまうかも知れへん!)


 意を決し陽奈は二人の後をついて行った。




 陽奈が後をつけ始めてから十五分ほど経ち二人がゲームセンターに入っていくのを確認する。


「ゲームセンター?デートやろ?」


 陽奈が言葉を漏らすのも最もだ。もっとお洒落な店に行く者だろう。これではただの放課後に友達と遊びに行ってるだけだ。

 しかし、流石長年零と過ごしていただけありその原因はあっさり理解できた。常日頃からモテたいモテたいとボヤく零は知り合いの女子が身内と昔一緒に遊んでいた妹分しかいない為拗らせに拗らせたモンスター童貞なのだ。そんな彼がちゃんとしたデートを出来るわけが無いのだ。

 だがしかし、陽奈は一つ失念していた。いや、知らなかったのだ。ジャンヌ・タイタニアと言う少女が箱入り娘であり、娯楽に飢えている本質的には自分の幼馴染と同じ種類なエルフだと言うことを。

 からくも零は恋人が自分と趣味が合わないと言う悲惨な事態は回避できた。

 そして、二時間が経過した頃零とジャンヌがゲームセンターから出て来て再び歩き出す。

 今度は何処に行くのか、そう思いながら陽奈が後を着いていくとそこはただの公園だった。


「休憩しようぜ」


 そう言って零は学校のカバンをブランコの近くに置いて二つあるブランコの内右のブランコに座る。

 それを見習ってジャンヌもカバンを零のカバンの隣に置き左のブランコに座った。


「夕陽が綺麗だね・・・」

「もう六時半で辺りは暗いんですけど・・・」

「雰囲気で言ってみただけだよ」

「あっそう」


 カップルらしからぬ会話に思わず零を殴り飛ばしそうになる陽奈。


(そこは君のほうが綺麗だよ、やろが!)


 陽奈のヤキモキする感情を他所に零とジャンヌは話を続ける。


「まさかさっきのゲームでボクが勝ったのをまだ根に持っているのかい?」

「あ?んなんじゃねぇよ。ただ、あの今日は俺もう何万回って聞いたしゲームでも何百回ってやってやっと運が良ければオール優のフルコン出来るくらいになったのにそれを一発で出来るんだからやっぱ世の中才能なんだなって」


 口を尖らせながら零がブランコを漕ぎ始める。ある程度高くなったところでブランコから砂場に飛び込み顔面から着地する。

 口に入った砂を吐き出しながら体についた砂を払う。


「そんなことは無いよ」


 しかしジャンヌは零の呟きを否定する。


「才能なんて言葉は努力が出来ない者の言い訳だ」


 ジャンヌもブランコを漕ぎ始め、次第に高さが上がっていく。零と同じくらいの高さになった辺りで跳び足から砂場に着地する。


「確かに人には出来る事と出来ないこともある。エルフは魔力の扱いに長けてはいるけど人間みたいに技術があるわけじゃ無い」

「説得力ねぇ言葉だな」

「いつか分かるよ」


 ジャンヌが笑いながら砂を払い落としカバンを持ち上げる。


「さぁ、帰ろっか。そろそろ夕飯の時間だ。ボクは今日の晩御飯に熱々のピッツァを所望するよ!」

「残念ながら今日の晩飯は二日前に寝かしてたカレーだ」


 そう言いながら零も立ち上がりカバンを持つ。


「えー!」

「うるっせぇ!カレーは寝かしたほうが美味いんだよ!」


 楽しそうに他愛ない会話をしながら自分たちの帰る場所に向かって行く二人の背中を陽奈はぽつんと一人で眺める。


「何やってるんやろな、ウチ・・・」


 自分を振り返り惨めな気持ちになる。零がジャンヌと付き合っていないと言う淡い期待に縋り、結局自分はジャンヌに負けたのだとその事実だけが残った。

 隠れていた場所から身体を出して公園のベンチに座る。

 あまりに悔しくて涙が頬を伝わりかけた時だった。足音が聞こえて来た。


「何やってんだよお前」


 そこにいたのは先程ジャンヌと共に帰った零だった。


「な、何でおんねん!」

「や、何でも何もずっとつけて来てたじゃん」


 気付かれていた。そんなそぶりは全く無かったはずなのに零は陽奈に気付いていたのだ。

 陽奈は何と言えばいいか分からず零から顔を逸らす。零もそんな陽奈を見て頭を掻きむしりながらため息を付き言う。


「帰るぞ。今日はカレーだ」


 その一言に陽奈は零に視線を向ける。そして気付いた。確かに零には突出して何かがいい訳ではない。夢はモテモテになることなどと男なら誰しも思うことだ。

 だが、今電灯に群がる羽虫を見ている少年は誰と恋人になろうとも自分の扱いを変える事はなかった。


「零・・・・・」

「ん?どした?」

「零は強いな」

「なんだそりゃ?」


 不思議そうな顔をしながら笑う零を見ながらいったい零は自分とジャンヌ、一週間後にどっちを助けるのだろう、とただそれを考えながら少なくとも今はこの関係に甘えようと思考を切り替えて零と共に夕飯を食べに向かった。

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