異端児③
エルフの国アルヴンは自然と共存した様な国で国の中心には世界で最も巨大な世界樹と呼ばれる木が聳え立っている。
世界樹の根元にあるのが首都アールヴは首都と言うこともあって最も栄えていた。
でも光るところには必ず影があるもので街の路地裏ではエルフと別の種族の血が混じったエルフたちが生活していた。
そして、ボクもその一人だった。
そんなボクに転機が訪れたのは五歳の時、貴族の子供達に虐められていた子猫を助けた時だった。
何時もの様に貴族の子供達に飽きるまで殴られて蹴られてをされ続けた。
そこに通り掛かった老人、今のボクの祖父がボクを拾ってくれた。
祖父はアルヴンでも王族に次いで富と財力を持ったタイタニア家の当主だった。
名前はエルフェン・タイタニア。王族以外ではもっとも力を持っていても、そしてどんな者にでも分け隔てなく接する最も異端な人物だ。
そしてボクもその日から異端児としての生活が始まった・・・・・かに思った。
ボクはエルフの中でも特段綺麗な容姿をしていたらしい。噂を聞きつけた王子がボクを他の男と合わせない様に祖父にボクを部屋に閉じ込める様に命令した。
祖父は最初は拒んでいたけどしばらくしてボクに謝りながら邸から出ない様に使用人達に指示を出した。
それから時は流れて十年が経過した。屋敷の外に出られないボクは祖父が用意してくれる娯楽だけが楽しみになっていた。
そんなある日、世界に異変が起こった。何も無かった海に島国が出現し、ボクの元には祖父がすぐ様取り寄せたマンガやテレビ、ゲームが届いた。
そこにあったのは今まで知らなかった世界。砂漠や海、マグマ、耳では聞いていても目で見たことの無かったものが鮮明に映し出されていた。
だから、ボクは興味を持った。こんな物を作れる日本という国に、そこに住む人々に。
でも事はそう簡単な物でも無かった。
王子の命令がある限りそれは絶対で破ったならばそれは反逆罪だ。
そう簡単に切り出せるわけもないし、出来ても許可されるとは到底思えない。そう思っていたのに祖父はボクの気持ちを汲んでくれたのか秘密裏に日本への留学を進めてくれた。
そんなことをすればどうなるか分かってるはずなのに。
「日本に渡ってからは祖父がどうなったのかは分からない。ただ渡る前に祖父からこれを渡された」
ジャンヌさんがポケットから取り出したのはキラキラと輝いた指輪だった。
「指輪?」
「うん。よく分からないがこれが何者からもボクを護ってくれると、そう言っていた」
「何者からも、ねぇ・・・」
指輪を見ながら俺は覚悟を決める。
「ジャンヌ、お前には悪いけど俺は陽奈を優先する」
分家が本家を庇う事は当たり前の事できっと事情を知っているなら誰しもが俺の選択は正しいと言うだろう。
しかし、それはジャンヌさんにとっては死刑宣告と同じ事だ。俺は今、ようやく十年も奪われていた自由を取り戻せた少女に向かってこの自由を見ず知らずの一族のために諦めろ、とそう言っている。
「酷いことを言ってるのは分かってる。でも俺は陽奈を護らないといけない立場なんだ」
何を言ったって言い訳でしかない。
「うん、良いよ」
それなのにこの健気な少女は笑いながら俺を許した。
「でも、一つだけお願いがあるんだ」
「・・・・・言ってくれ」
まるで地獄に垂れてきた蜘蛛の糸の様な言葉だった。自分を見限り、別の人間を助けようとしている俺の罪悪感と言う名の業を救う一言に俺は縋った。縋ってしまった。
「一週間だけで良い。ボクの・・・恋人になってよ。恋と言うのが何なのか、知りたいんだ」
ジャンヌさんが立ち上がって俺の前で手を差し出す。暗い体育倉庫の入り口から光が差し込んでまるでジャンヌさんが地獄から罪人を救い上げる天使に見えた。
「いや、少し違うな・・・。ボクと契約してボクの彼氏になってよ。うん、これだな!」
さっきまでの神々しさは何処へやら、こんな状況でもアニメネタを挟んでくるジャンヌさんの呑気さに少し呆れながら俺も笑みをこぼす。
ジャンヌさんの手を俺も取り、弁当と課題を携えて立ち上がる。
「それでいいなら何処までもお付き合いしますよ。お姫様」