すぐに呼びましょ的なあれ①
ジャンヌさんが初めて家に来た翌日。
チュンチュン、とスズメの鳴き声を耳に入れながら俺は目を覚ます。一階に降りて一回身体を伸ばし、風呂場の洗面台で顔を洗う。
姉ちゃんは既に学校に出勤しているはずなので今この家には俺とジャンヌさんしかいない。
「おはよう!いい朝だな!」
リビングに入った瞬間既に制服姿のジャンヌさんが朝のニュースを見ながら俺に向かってそう言った。
朝からとても元気なエルフさんだなぁ・・・、と思いつつ寝起きの頭に響かないように耳を塞ぐ。
「ご機嫌っすね」
「あぁ!何せ産まれて初めての学校だ。気分はいいぞ」
「産まれて初めて?」
俺はジャンヌさんの言葉に引っ掛かり聞き返す。先ほどの満面の笑みとは裏腹に今度は暗い顔をしながら下を向く。
それを見てあ、これ聞いちゃダメな奴だ、と感じた空気を読める男でありたい俺は別の話題へと挿げ替える。
「じゃ、ジャンヌさん朝ごはん何がいいですか?言っても大したものは作れないですけど」
俺の言葉に反応したジャンヌさんがふたたび明るい顔をして朝ごはんを考え始める。
しばらくして何かを思いついたのかジャンヌさんはキッチンに入り戸棚から何かを取り出して俺に見せてくる。
「・・・・・カップ麺?」
出されたのは姉ちゃんが何時やらがしても良いように一応買いだめしておいた非常食のカップ麺だった。
「ボクの国には無いものだ!是非食べてみたい!」
そうスか、と俺はため息つく。あまり身体に悪い物を留学生に食べさせたくは無いのだが本人が食べたいと言っているので仕方ないだろう。
「分かりました。準備するんで待ってて下さい」
俺はジャンヌさんの持っていたカップ麺を手に取ってキッチンへと向かう。
水を鍋に入れコンロに置き沸騰するのを待ちながら俺は登校の準備する。時間割は既に昨晩終えているため後は制服を着るだけだ。
「一つ聞いてもいいだろうか?」
ニュースからNARUT◯のDVDに切り替えていたジャンヌさんが俺を見ながら呼びかける。俺も制服を食卓の椅子に掛けてジャンヌさんを見た。
「昨日の彼女。蘆屋陽奈と言ったな。彼女は何者なんだ?」
少し話すかどうかを悩みながら俺は再び制服を用意するために手を動かす。おそらく彼女が留学している間彼女の正体、ひいては俺の母方の一族がどういう一族なのかを隠し通すことは現実的に難しいだろう。
だが、これはジャンヌさんが知らなくてもいいことで知ったらもう抜け出せないところまで堕ちることになる。
「やっぱ無理。教えられない」
「理由を教えてくれ。じゃないとボクは納得できない」
「これは蘆屋一族の問題だから」
「なら、ボクは君と結婚する」
ジャンヌさんの言葉にリビングの時が止まった。ザ・ワールドとかスタープラチナとかそんな物理的なものと言うよりはどっちかと言うと無領空処を食らったように何時までも情報が完結せずに動けない。
ジャンヌさんは今結婚すると言ったのだろうか?会って二日目の何の取り柄もないこの俺に。
「いやいや、いやいやいやいや!何言ってるんスか!?ジャンヌさんが俺と結婚?」
「そうだ。ボクは蘆屋一族の秘密が非常に気になっている。でも君はその秘密は身内にしか教えないと言う」
「だから結婚ってアホか!そう言うのは本当に好きな人として下さい!」
言いたいことだけ言って俺は踵を返してグツグツ言い始めた鍋に向かう。
しかし、急に後ろから肩を引っ張られ壁に叩きつけられる。いきなりのことに目を瞑っていると横で何かがバンと壁に叩きつけられる。ゆっくりと目を開けるとそこにあったのは腕だった。腕の先を追っていると次第にジャンヌさんの顔が至近距離から見えてきた。
「好きだよ、ボクは。君のこと」
綺麗でカッコよくって、多分女の子だって惚れそうな顔立ちで彼女は総合迫ってくる。そして、それよりも問題なのは今現在俺の理性をガンガン削っていく女子が持つたわわな二つの果実、すなわちおっぱい。至近距離岳あって彼女のおっぱいが俺との間で潰れている。
思考すべきことはたくさんあるのにおっぱいが邪魔で纏まらない。
「じょ、冗談でしょ?身長もない。金もない。学もない。そんな俺がジャンヌさんみたいな綺麗でカッコよくって素直な人に好かれる訳ないじゃないですか」
「そこだよ」
「え?」
「君のその見てくれで判断しないところが好きなんだ」
何とかしてこの状況を脱出しなければならない。でないと俺は確実に理性が飛ぶ。
俺はライトノベルによくある鈍感主人公などと言うものではない。こんなことをされれば本当に間違いが起こるかもしれない。
「わ、分かった!分かったからいったん離れて下さい!」
「その敬語もできれば取って欲しい」
「取る!取るからほんと離れろ!」
ようやく離れたジャンヌさんがふたたびソファに座りふたたびテレビを見始める。本当に何を考えているのか分からない。
いきなりプロポーズしてきたりかと思ったら話が急に終わってテレビ見だすし。
だが、結局考えてもわかるわけもなく、時間の無駄だと察した俺はカップ麺を作るためにふたたびキッチンへと足を向かわせた。