慈愛の変態
どうしてこうなった?
ジャンヌさんが俺に別に好意を抱いていないのは分かっていたし俺も口では呼び捨てするものの流石に内ではさん付けで呼んでいた。
確かにジャンヌさんは見た目俺のタイプで一週間でも付き合えて同じ屋根ね下で過ごした仲ではあるが親しき仲にも礼儀ありだ。
だから俺がジャンヌさんに向かってエッチしたいなんて言う訳がない。直近で言ったのはジャンヌさんと廃神社で星を見ていた時に流れ星が流れた時に急いでお願いした時くらいで・・・。
「あ」
「どうした変態」
陽奈が俺をまるで汚物でも見るような視線を向けながら尋ねてくる。
「いや、何でもって変態!?」
「初めて会って一週間くらいしかない奴にエッチしたいは変態以外のなんでも無いやろ」
「いや、あれは違くて流れ星があったから男の願いを口走っただけで」
「世の中の全男に謝れ!」
そう言いながらも陽奈はどこから持ってきたのか手に持った包帯を作り俺の手を形造り足を固定する。
「保つんはたったの三分間だけや。それ以上はウチの力が保たん」
「上等だ。三分あればあのバカぶん殴って一発KOよ」
俺は腕と足の動きを確認しながら立ち上がる。
「いいか、色々誤算はあったがこれが正真正銘の「XYZ」の最終タスクだ。あの王子を再び倒し、メガロギアを奪取せよ」
「了解だ大佐」
「大佐?」
姉ちゃんの不思議そうな顔を背に俺は健太を見る。
王子が居るのは遥か上空だ。そこまで行くには健太に運んで貰うか陽奈の言霊しかない。
だが陽奈は俺の身体を作ることに力を使っているためそれができない。
「健太、あそこまで俺を運ぶのに何秒?」
「え?三十秒くらいですかね」
「二秒で行け。でないと焼く」
「え!?」
困惑する健太を意に返さずに俺の背中を陽奈が叩いてくる。
「ソイツで行くんやったらマリアンヌの言霊で行く方が早い」
「え?貴女言霊使えるんですか?」
「はい」
不服そうにマリアンヌさんが頷くと舌打ちをして俺にメンチを切ってくる。
「まっっっっっっことに不服ではありますが愛するお嬢様の為にこの力を使うといたしましょう」
そう言うとマリアンヌさんが再び口を開く。
「お嬢様の元に行きなさい」
マリアンヌさんがそう発すると何かに首を引っ張られた感覚と共に浮遊感に襲われて空を飛んだ。
メガロギアの方を見れば右肩部分で火花が光っている。浮いた身体が今度は横に引っ張られる感覚と共に見えたのはジャンヌさんと王子が剣を交えあっている。
王子の剣は俺と戦っている時に使っていた剣。ジャンヌが使っていたのは何か光り輝く剣だ。俺の有り余る妄想から保管するにあれはきっと光の剣なのだろう。
「うおぁ!ジャンヌ!どけぇ!」
「え!?うわぁ!」
ジャンヌさんにぶつかると予想しそう叫んだが時既に遅く、俺はジャンヌさんにぶつかって押し寄せてしまう。
「れ、零?こんなところで・・・。恥ずかしいよぉ・・・」
今まで見たことの無いジャンヌさんの頬を赤らめた顔に何か来るものが無いわけでも無いが今はそんな事を言ってる場合ではない。
目の前では茫然自失の王子が、胃の中では飛んでいる最中にシェイクされた大量の内容物が出かかっている。
「いや、マジ待って。・・・・・あ、無理かも」
「え?」
我慢できずにジャンヌさんの顔面を俺の下呂で汚してしまう。全ての内容物を吐き出し終わりゲロ塗れのジャンヌさんの顔を恐る恐る覗く。
「零・・・・・」
「ご、ごめん!でも今俺ウルトラマンばりに活動制限があって後二分くらいしか」
「やっぱり君はボクの見込んだ男だ!」
「え?」
俺がジャンヌさんの上から降りるとジャンヌさんが起き上がり剣を握り王子を見る。
「見ましたか王子!これがボクの好きな零です!ボクの顔に堂々とゲロを吐くような男です!」
「女性にゲロをぶっ掛けるとは・・・外道が」
「喧しいわ!とにかくテメェはぶっ飛ばす!」
何故か俺が責められる立場に回っているのは気にせずに王子に向かって走る。既に時間は半分もない。
「剣相手に生身が通じると思うか?」
「無理だろうな。でも」
俺と王子の目の前にジャンヌさんがいきなり現れて王子の剣を弾く。
「王子、ボク剣術は得意なんです。貴方にタイタニア邸に閉じ込められたこの十年、暇を持て余すために剣を降りましたから」
「このッ!非国民がぁぁぁぁぁぁぁ!」
王子が仰け反りながら弾かれた剣に手を伸ばし掴み取るとジャンヌさんを斬りつけようと剣を振り下ろす。
「選民思想強めのファシストが!国に技術革新起こす前に知識に化学革新しやがれぇ!」
俺はジャンヌさんの背中から腰を低くして飛び出して左手を突き上げ、その拳が吸い付くように顎に当たり王子の身体が宙に飛び地面に倒れ伏す。
そして今度こそ王子が立ち上がることはなかった。
「やっぱ、電気で水が蒸発はねぇよ。うん」
「零!」
「うわ!じゃ、ジャンヌ?くっせ!」
ジャンヌさんが俺に抱きついてくるがゲロ臭くてあまり近付いて欲しくはない。・・・・・まぁ、そのゲロは俺のゲロな訳だが。
俺は倒れた王子に近付いて右手の指輪を奪い取る。
「それ、零が持っててよ」
「いいのか?」
「うん。君になら預けられる」
「んじゃ、遠慮なく」
俺が指に指輪を嵌めた時だった。
不意に目の前に影が現れ、口の中で酸っぱい物が暴れ回る。しばらくそれは俺の口の中で暴れ回り外へと出ていく。
「ぷはっ」
影が離れていくとその正体はジャンヌさん・・・いや、ジャンヌだった。
「えっと・・・」
「これが初キスだと、ボクは嬉しいな」
そう言ってジャンヌは下から来たルリの背中に飛び乗る。
俺はそれを呆然と眺めながら酸っぱさの残る口に手を当てる。
俺のファーストキスはゲロの味だった。




