偽愛の逃避行
ボクはただ逃げたかった。
お祖父ちゃんがボクを逃してくれたのを利用して誰かと恋仲になって、留学中に結婚すれば日本に居住権を得られるから。
零には悪いけど誰でも良かった。
期間が一週間に絞られたのは誤算だったけど幸いホームステイ先はHENTAI大国とも呼ばれる日本だったし、昔からボクは見た目が良かったからどんな男の人でもボクなら堕とせると、そう思った。
でも、零は堕ちなかった。
絵に描いたようなスケベだったけど、照れたりすることはあってもボクの身体を求めることもなかった。
逆にボクの方が段々惹かれていったんだと思う。ボクがプロポーズした時も分かっていた。零の中にはきっとボクはいない。居るのは陽奈なんだろうって。
だからぶっちゃけて言うと期待はしてなかった。でも受け入れてくれた。
デートは漫画で読んだようなデートとは違ったけど楽しかった。ゲームが下手な零はヘソを曲げていたけどボクはそれでも零がそれだけ本気でゲームしてるのだろうと思った。
学校の授業を始めて受けた。時間は余るほどあったボクからすれば化学や数学、社会なんかはまだまだだったけどそれ以外は家で本ばかり読んでいたボクからしたら簡単だった。
ルリちゃんが家の前で倒れてた時は何でかは分からないけどボクが外に出た時には零はルリちゃんを落ち着かせて暴れてる原因まで突き止めていた。
それまで零のことはただのヘタレくらいしか思ってなかったけど見方を改めようと思った。でも自分より力がある相手に無闇に反発するのはどうかとも思う。
零と一緒に冒険者になって、初めての依頼。泥だらけになったけど新鮮な気持ちだった。
二回目のデートは映画館デートだった。B級映画だったけど、零の苦手なものは分かったし、後の喫茶店で零の弱い部分も知ることができたのは良かった。
陽奈ちゃんが零と決闘したのには驚きだった。理由はボクを助けるか陽奈を助けるか。
陽奈ちゃんも自分よりボクを優先しろなんて言える精神はすごいと思う。ボクならば多分ボクを優先してしまうはずだ。陽奈ちゃんも零の事が好きだと分かったのもこの時だ。零も罪作りな男だな、なんて思いながらもボクはやっぱり、邪魔者なんだって分かった。
王子に連れ戻されてからは何も身に入らなかった。零達が飛行機でボク達を助けに来るって聞いた時は嬉しかった。誰かが暗殺しに向かったみたいだけど皆強いし心配はなかった。
お祖父ちゃんが城の地下に閉じ込められたと聞いて向かってみればお祖父ちゃんはいないし、陽奈ちゃんも居なかった。
陽奈ちゃんのことだからきっとお祖父ちゃんを連れて脱獄したんだろうと納得した。
そこでボクの動きは完全に王子の物になった。でもこれで良かった。ボクが犠牲になれば丸く治るんだから。
でも零はボクを諦めなかった。いや、一回諦めたみたいだけど吹っ切れたように零は王子に立ち向かってそれで勝った。
この場の皆が想像できないことだった。アールヴ史にとっても初めてだと思う。
そんな零が、右手も、歩行能力も失った零がボクの右手に手を合わせる。
身体にあった不快感が一気に無くなったように身体の自由が元に戻る。
「零!」
直様ボクは零の名前を呼ぶ。マリアンヌやお祖父ちゃんがボクの名前を心配そうに呟いたけどそんなのは関係ない。
「お、おう。ジャンヌ。助けに来たぜ・・・」
「魔力の使いすぎだ。もう身体も殆ど動かない」
ぐったりとした零を見てノワール先生がそう言う。
「待ってて。今傷を直すから」
ボクは零の傷に回復魔法を必死でかける。でも焼け石に水なのか一向に治る気配もない。
「ごめん・・・。ボク、嘘ついてた!零のこと、最初は利用するつもりだった・・・」
ボクがそう告白すると陽奈ちゃんがボクを殴ろうと思いっきり拳を振り上げた。
しかし、ノワール先生がそれを止めてボクは話を続ける。
「でも、あの一週間は本当に楽しかった。色んなところに行って、色んなことをして・・・」
「ジャンヌ・・・」
呆気に取られたような零の顔にボクの大粒の涙がこぼれ落ちる。
「覚えてる?神社で星を見てた時に君がボクに言ったこと・・・」
「?」
「ボクと、エッチなことがしたいって」
「はい?」
零の困惑した声と共に周りのみんなも零を見る。
「照れなくていいよ。あの時ボクはやっぱりボクの身体を求めてるだけかと思ったけど君が命懸けでボクの為に戦っている姿を見て気付いたんだ。零はきっとボクの身体じゃなくてボク自身を求めてたんだって」
「あ、あの、ジャンヌさん?お話が明後日の方向に行っているような・・・」
「今ならこの言葉を本心で言える!ボクは君が好きだ!君がボクを見てくれるなら、愛してくれるなら何番目でも良い!」
「じゃ、ジャンヌさん!?」
ボクのいきなりの告白に戸惑っているのだろう。零は顔を赤くしながらボクから目を逸らす。
「あ、あの!上!まずあのメタ◯ギア擬きを止めないと!」
零が指を指す方向を見ればルリちゃんがメガロギアを足止めしてくれている。
「お嬢様、この男に賛同するのは大変不本意ではありますが今は一刻を争います。愛を囁く相手は私だけにして王子から指輪を取り戻しましょう」
「そうだね。じゃあ零、待っててね」
ボクは立ち上がってジョニーさんを見る。
「ボクをルリちゃんのところまで連れて行って下さい!」
「お、おう・・・」
躊躇いながらもジョニーさんがボクの肩を掴む。
「じゃあ、行ってくるね」
それだけ言ってボクはその場を後にした。




