家族
闘技場内に大きな歓声が響き渡る。そんな歓声を遮るようにされたエルフィンの説明に総理は生唾を飲む。
既にメガロギアは遙か上空へと飛び立っている。
「あれが、日本への攻撃を始めたらどうなりますか?」
「まず間違いなく、日本の民の半数は死ぬじゃろう。じゃが、そうはならんはずじゃ」
エルフィンはジョニーに頭を叩き席に降ろしてもらうと更に口を開く。
「王子が狙っているのは日本の技術。それを持つ民を狙うとは思えん」
「では、あれを止める方法は?」
「ドラゴンであるなら或いは止められるかもしれんがドラゴンの国はここから遥か南西・・・、とても間に合わん。間に合ったとしても頼みを聞いてくれるとも思えんしのぉ」
エルフィンが倒れている零に駆け寄り足の様子を見ている陽奈と健太、翠とティターニアを見る。
「一つだけ方法があるにはあるが・・・」
エルフィンの視線を追ってエルフィンが何をしたいのか察した総理がすぐにエルフィンに向き直る。
「彼は、大した魔力を持ってはいませんが貴方のお孫さんの為に知恵を振り絞り王子に勝ちました。とても強い子です」
「そうじゃのぉ・・・」
エルフィンは何かを決意するとジャンヌを見る。
「メガロギアを操ることのできる不沈の指輪は代々タイタニア家の長女が結婚式に誓いのキスと共に指輪を夫に嵌めることによって継承が完全に施行される」
「ですが、まだ誓いのキスはされていません」
「だから継承は不完全なのじゃ。今ならまだジャンヌと不沈の指輪を取り返し、彼に継承させればメガロギアを止められる。問題は彼とジャンヌの気持ちの問題じゃ」
嫌な役目じゃな、と溜息を吐きながら悲しそうな目でジャンヌを見る。
一方二人で話し込む中蚊帳の外のジョニーは思考を巡らせていた。
もし仮にここで自分が零達を一網打尽にできたなら陽奈を逃した失態もチャラになるのではないだろうか。
でも、何故かそれをしようとは思えなかった。
ジョニーには妻がいる。その妻はジョニーが一人旅の途中に出会った人間の娘だった。
二人の間には娘ができ、その娘が五つになった頃ジョニーは金を稼ぐ為アルヴンへと戻り衛兵となった。
「なぁ、爺さん」
「何じゃ?」
「俺よ、娘が居るんだよ」
不意のことにエルフィンは眉を顰める。
「娘はよ、人間とエルフの混血でよ。地下牢ではあんなこと言たけど俺人間が好きなんだよ」
力強く拳を握りメガロギアに乗るオベロンとジャンヌを見る。
「アンタの話はよく分からなかったけどよ、要するにアンタの孫と娘取り返せばいいんだな!?」
「そ、そうじゃ」
「なら、俺がアンタの孫を取り返してやるぜ!」
ジョニーがそう宣言すると一瞬でその場から消える。何処に行ったのかと二人が辺りを見るとジョニーは上空で消えては現れを繰り返しメガロギアに接近していく。
「ん?」
それにオベロンが気付いた時にはもう遅かった。メガロギアの肩に乗ったジョニーがジャンヌの腕を掴んでいた。
「お前・・・」
「すいません王子。俺、今日で衛兵辞めさせてもらいます」
そう言うとその場からジョニーが消え去った。
すぐさまオベロンが下を覗くとジャンヌを担いだジョニーが颯爽と降りていくのが見える。
「逃すか!」
メガロギアが振り返り加速してジョニーを追い始める。だが、後少しでジョニーに追いつきそうな所でメガロギアに小さい何かがぶつかってメガロギアは体勢が傾く。
「今度は何だ!?」
「お腹いっぱいになって最大パワーになったルリちゃんなのだ!」
ドラゴンの翼を生やしたルリがメガロギアにさらに突撃する。
「ルリのやつずっと飯食ってたの?」
その光景を下から見ていた零が呆れ混じりにそう呟く。今の今まで式場で食べていたのだとしたらあの騒ぎに気付かないくらい食べてたの?ヤバいくね?などと心の中で思いながら零は足と右手を見る。
最早無くなったものに未練はない、訳ではないがとにかく何とかして動かなければと身体を動かすがまな板の鯉にしかならない。
「連れて来たぞ!」
何とか懸命に身体を動かしているとその場にジャンヌを連れたジョニーが現れる。
「お嬢様!」
「お前は・・・ハゲ!」
「ジョニーだクソガキ!」
ジョニーがその場に棒立ちのジャンヌを下ろす。
「よくやってくれたのぉ」
すると後ろからエルフィンと総理がジョニーの後ろから現れた。
「さ、まずはジャンヌを元に戻すとしようかの。マリアンヌ」
エルフィンがマリアンヌの名前を呼ぶとマリアンヌが短く返事して頭を下げて説明に入る。
「皆様、王子の魔法属性は雷でございます。そして王子が得意とする魔法は電気で人を操る魔法なのです」
「あの・・・上でルリが頑張って戦ってくれてるんで単刀直入に巻きでジャンヌを助ける方法を教えてください」
流石にこの状況で長話はごめんだ、と零が身体を起き上がらせながら言う。
「ッチ、はい。では、単刀直入に言いますと同じだけの電気を逆の向きに流していただければお嬢様の身体は自由になります」
零が起き上がるのをサポートしながら翠がマリアンヌを見る。
「そんなことが現実的に可能なのか?身体を動かす仕組みというのはまず大脳の運動野という部位が指令が出し、その指令が電気信号となって神経線維を伝わり脊髄へと送ふ。さらに信号が脊髄から筋肉部位にのびる神経線維まで送られることで筋肉を動かしている。電気で操ろうとするなら脳に電極でもブッ刺さない限り不可能だ」
「ですので、生体電気を使っているのです。生体電気を操作、内から脳に信号を送り命令する」
「そんなことが実際に可能なのか?」
「今問題なのは可能か不可能かではなくそれでお嬢様が操られてしまっている点です」
「いいや、問題だ。不可能ならば理由はそれ以外だ」
翠とマリアンヌの言い争いを見ながらティターニアがそもそも、と疑問を口にする。
「この中に雷属性の魔法を、それも魔法のベクトルを完璧に逆行させる者がいるのか?」
当然の疑問と言うべきだろう。仮に方法が分かっていたとして、その為に必要な道具が無ければ意味がない。
しかし、そんなことは意に返さずに零が口を挟む。
「なぁ、マリアンヌさんよ。それは俺がやれば成功率は何パーセントだ?」
「?それは一体・・・」
「いいから答えろよ。何パーセントだ?」
零の物言いに不服なのかマリアンヌが眉を顰めながら答える。
「貴方程度の力と練度ならばまず間違いなく0.01パーセントもありません」
「そんだけしかねぇなら上等だ」
零は笑いながら左手に雷魔法を纏いジャンヌに近づける。
「何を!?貴方、お嬢様を殺したいの!?仮にも恋人だった人を!」
「言っとくぜメイド。俺は天邪鬼だ。この世界にはいない、妖怪。俺の領分はひっくり返すこと。そんだけ低い確率なら俺がひっくり返してほぼ100パーセントにしてやれる!」
ゆっくりと零はジャンヌの右手に手を合わせた。




