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異世界に転移した日本で生きるオタクの話  作者: 山田太郎
第一章
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作戦決行前

 食事が終わり早二時間。リズのおかげで大幅に時間が短縮あと十二時間で結婚式が始まる。

 作戦としては式の途中に颯爽と助け出す王子様的なスピード解決を目指している。それが姉ちゃんが考えた作戦『XYZ』なのだが・・・。


「これってよくよく考えたらこれって犯罪じゃね?」

「なんだ今更?」


 今日泊まるためのホテルの一室で俺がそう呟くとパソコンと睨めっこしていた姉ちゃんがこっちを振り向いて俺を見る。


「いやさ、なんかどっかのアニメのスレッドで結婚式に殴り込めのってなんかの犯罪に抵触するって書いてあったような気がしてさ」

「あぁ、威力業務妨害やら結婚目的略取罪に抵触するな」

「アンタそれ俺にやらせようとしてたよな?つか、俺と姉ちゃんが一緒の部屋になる必要ねぇだろ」

「いや、必要だ。私とお前の愛を育む為にな」

「・・・・・ここラブホじゃないからね?」


 正直に言ってたまに起こる姉ちゃんのこの発情期には少し手を焼いている。いや、人間に発情期があるのかは知らないがこれを形容する言葉が発情期しかない為仕方がない。

 週一から月一の感覚で朝起きれば姉ちゃんが全裸で俺の隣で寝ていることがある。なんなら俺もひん剥かれている。

 だが理性的な紳士であるこの俺は姉の誘惑になど騙されない。何故なら近隣相関が普通に駄目だから。

 だからこそ全く知らない赤の他人の女子からモテモテになりたいのに上手くいかない。と言うより話し掛けられないし話し掛けてももらえない。


「いいか?今は多様性の時代だ。LGBTQを認めようと言う世の中ならば兄弟婚だって認められて良いはずだ!」

「何でもかんでも多様性で片付けんじゃねぇ!俺は血の繋がってないキャワウィおにゃのこと結婚します〜」

「ならお前は今好きな子はいるのか?」


 姉ちゃんにそう言われて少しばかり考える。女子に好きになっては貰いたい。が、好きになるとはどう言うことなのだろうか?


「あんれ〜?」

「あまり深く考えるなよ。まだケツの青いお前に分からないことだろうからな」

「・・・・・まるで姉ちゃんには分かるみたいな言い草じゃねぇか」


 姉ちゃんがフッ、と笑って再びパソコンに向き直る。


「分かるさ。ずっとお前が好きなんだからな」

「兄弟愛みたいな?」

「少し違うな」


 俺は少し頭を傾げながらベッドに横たわった。




 目が覚めると既に外は真っ暗闇だった。時計を見れば今は八時あたりでどうやら二時間ほど寝ていたようだ。夜風に当たろうと集中している姉ちゃんを他所目に部屋から少し出て外に向かう。

 このホテル、と言うか宿はここでは珍しい無差別派のエルフが経営している。だから部屋も取れたし無事に夜を明かすこともできる。


「にしても本当にこんなゆっくりで良いのかよ・・・。今なら油断してるし奇襲でもなんでもかければ」

「残念ながらそれは不可能だ」


 俺の呟きにいつの間にか汗をかきながら背後に立っていたノワール先生が声をかけてくる。


「ノワール先生・・・。何してるんですこんな夜中に?」

「飛行機では足を引っ張ってしまったからなこのままでは師団長としての面目が立たない。だから明日に備えて素振りをしていた」


 汗を拭きながらノワール先生が腰の剣を見せてくる。


「話を戻すがあの城は夜はお抱えの賢者とその弟子によって結界がはられていて入れない」

「それって結婚式でもそうなんじゃ・・・」


 王子の結婚式なんて絶対警戒されるはずだ。それこそお抱えの賢者とその弟子って奴らが総力を決するくらいに。


「確かにその通りだが結婚式では我々は招待を受けた客だ。簡単に結界の中に入り込める」

「いや、そりゃそうなんですけど・・・。敵のど真ん中で居座るってことですよね?」


 虎穴に入らずんば虎子を得ずと言う言葉があるがまず俺に虎穴に入る度胸がない。


「それは城だろうと同じだ。敵の懐より潜り込むならより近くから始められる結婚式の方が理に適っている」

「でも・・・!」


 俺は更にノワール先生にくってかかる。もちろん戦闘慣れしているノワール先生の言っていることだから正しいのだろう。

 だが、それでも俺達が呑気に寝ている間に二人の身に何か起こっているかと思うと気が気ではなかった。


「・・・・・ところで零。睡眠は?」


 急に関係の無い話題に変わり俺は先ほどまでの焦りが消え失せる。


「一応、二時間ほど・・・」

「なら今から少し個人授業をしよう」

「はぁ!?」


 あまりの突拍子の無さに俺は目を丸くしてノワール先生を見る。

 しかし、そんな俺をお構いなくノワール先生が話し始める。


「上級者になると複数の属性を巧みに使う魔術師ばかりだ。お前に習得してもらうのはその上級者の技術の一つ、一度に二つの魔法を使うことだ」

「えっと・・・、その上級者の技術を一日もかけずに習得しろと?」

「?そうだか?」


 何かおかしいことを言ったか?、と言いたそうな顔でノワール先生が俺を見る。


「いやいやいや!無理でしょ!だいたい俺適性だって低いし魔法だって習い始めたばっかだし・・・」

「零、お前はどっちなんだ?」


 急に冷めたノワール先生の言葉が俺の胸を刺す。


「さっきから無視だ無理だと・・・」


 ノワール先生の剣先が冷たく俺の喉元で光る。


「お前は二人を助けたいのか助けたく無いのかどっちだ?」


 そんな答えは最初から決まっている。


「助けてぇよ!でもよ、そんな力は俺にはない!今だって姉ちゃんやノワール先生、ルリに癪だけど健太の力頼りに俺はここにいる。飛行機の時だって運が良かっただけなんだよ・・・。あんなこと堂々と言ったけどよ、結局俺には何の力もなくて虎の威を借る狐にしかなれてねぇ」

「良いじゃないか、それで」


 俺の肩を掴みノワール先生がけろっとした顔でそう言う。


「私は日本に来てまず古い本を読み始めた」

「古い本?」

「あぁ。全てを読んだ訳ではないが騙す狐が多いイメージだった」

「そうですか・・・」


 この人は何が言いたいんだろうか?いきなり狐話を始めて。虎の威を借る狐でも良いとも言っていた。


「お前は二人を助けたいんだろ?なら、方法なんて些細な問題だ。本当に問題なのは自分の気持ちに嘘ついて主張をクルクルも変えていることだ」

「主張なんて・・・ッ!」

「変えてるだろ?さっきから文句ばかり言って。周りから見れば助けたいのか助けたく無いのか分からない」


 確かにノワール先生の言う通りなのだろうと俺も思う。二人を助ける意思はあるのに焦ったり無理だとごねたり、まるで幼稚園児みたいな振る舞いばかりだ。


「なんて反省すると思ったかバーカ!!!」

「!?」


 もちろん反省なんてするわけがない。自分が間違っているとも思っていない。


「だけど・・・」


 ノワール先生が間違っているとも俺は思わない。


「いいですよ。やってやりますよ。のってやりますよ。それで二人が助けられるならね!」


 やれと言われれば不平不満があってもやる。それが俺だ。ただ単に面倒くさがりなだけで。

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