勇者の血統②
蘆屋陽奈は大きな勘違いをしていた。ここは異世界であり魔法と言う摩訶不思議な力を使う者が跋扈する場であると。だから勘違いをしてしまった。目の前の褐色メガネのメイドエルフが使う力も魔法であるのだと。
だが、既に彼女は知っていたのだ。この力の正体を。
「自分が使ってる術、言霊やな?」
「!?」
言霊とは呼んで字の如く言葉の霊。はるか昔から日本では何にでも神や霊が宿ると言われるアミニズムが信仰されている。
言霊もその一つだ。これを陽奈の祖先である蘆屋道満が陰陽術へと昇華させた。
「なら、対処は簡単や。逆の言霊を同じ力で向けたったらええ」
相殺されればそこには何もないのと同義だ。だからそこ、そこに陰陽術とケンカ、勉学ほどしか取り柄のない彼女にも勝機はある。
「さぁ!始めよか!こっからは自力だけが物を言うケンカの場や」
陽奈が地面を蹴り上げマリアンヌに向かって走り出す。
対してマリアンヌも勘違いをしていた。この言霊を操る術を目の前の関西弁不良少女が知っているはずがない。ましては使える訳がないと。
しかし、結論として彼女は知っていたし使える上に相殺すると言う精密な動作すら成し遂げてしまった。
だか、それがどうした。
「鈍い」
ここで蘆屋陽奈の二つ目の勘違い。殴り合いに持ち込めば勝てると踏んでいた。
だが、このメイドエルフは肉弾戦も強かった。それは陽奈がある一人を除いて今まで殴り合って来た誰よりも。だからこそ胸が躍る。いったいいつぶりだろうか、こんなにも楽しいケンカは。
「・・・・・鈍いけど、なかなか鋭いパンチじゃない」
「カウンター打てる奴に言われたないわ・・・」
鼻血を手の甲で拭き取りながら陽奈は更に速度を上げて走る。
一気に殴ろうと拳を突き出すがマリアンヌは拳を流して更に陽奈の鳩尾に拳を叩き込む。
「カハっ!」
「拳が単純ね。搦手でも取り入れたら?それとも、その無駄にぶら下がってる贅肉が重いのかしら?」
煽るように言ってのけるとマリアンヌは立ったまま鳩尾を抑える陽奈を更に蹴り飛ばす。
「アホか。ケンカって言うんは拳一本でやるもんやろが。あと無いもんねだりは虚しいだけやで」
「そうかしら?」
陽奈の煽りに少し眉をピクつかせながらマリアンヌが陽菜との距離を瞬時に縮めて殴る。
「下らない意地を張って負けたら意味ないでしょ?」
地面を転がり陽奈が集会所の壁に激突する。中にいる人は皆奥から様子を眺めているようで陽奈はここで暴れても被害はないと結論づける。
「確かにせやな。でも・・・」
陽奈がニヤリと笑って拳に呪力を纏う。
「張れやん意地はウチには必要ない」
「ッ!?」
今度は陽奈がマリアンヌとの距離を一瞬にして縮める。先ほどまでとは桁違いの速さにマリアンヌが動けずにいると彼女の頬に陽奈の拳が突き刺さった。
マリアンヌがその勢いのまま吹き飛び木に激突する。
「遅いな」
「クッ・・・!」
マリアンヌが立ち上がろうとすると既に陽奈が目の前に立って見下ろしていた。
「力を、隠してたのね」
「これ使うんめっちゃ疲れるしできれば使いたなかったけど、な」
何も隠していた訳でもない。ただ単に陽奈の全呪力を使った技である為に軽はずみに使用できなかっただけだ。それを使えばしばらくは動くことすらままならない。
バタッと倒れる陽奈を見てマリアンヌがゆっくりと立ち上がり太腿に隠していたナイフを取り出す。
「結局、最後の最後に立っていたのはこの私だったみたいね」
陽奈の首に目掛けてナイフを投げようとマリアンヌが手を下げようとした時だった。
「もうよさんかじゃ!」
陽奈に集中していたマリアンヌの前頭部に見事自慢の杖を叩き込んだ村長が止めに入る。
「お爺ちゃん・・・」
「殺す気もないくせにいつまでその芝居を続ける気じゃ!」
村長がそう言うとマリアンヌはナイフを太腿にナイフを仕舞うと気絶した陽奈を抱え上げる。
「師匠の血統って言うから戦ってみたくなったのよ」
ため息を吐きながら村長が踵を返す。
「とりあえずウチに帰って来なさいじゃ」
「・・・・・いいの?」
「構いはせんじゃ。ジャンヌ嬢を助けるにもこのお客人の力が必要なのじゃ」
「それならありがたくそうしてもらうけどお爺ちゃん」
「何じゃ?」
「じゃの使い方さっきから間違ってない?」
「じゃ?」
さて、一方その頃零達はと言うと・・・・・。
「なにこれウンメ〜!」
「アルヴン名物のウィンナーとポテトだね。実は私も好きでね、ビールのつまみとしてよく取り寄せてるんだ」
「総理、式の前にビールは控えてください」
「う〜、酒は苦手だ」
「ルリちゃんちょっと食べ過ぎじゃ・・・」
「まだ腹一分も食べてないのだ!」
アルヴンの有名な五つ星レストランで食事を楽しんでいた。
・・・・・何やってんだコイツら。




