二人の姫②
陽奈と老人の脱獄騒動が始まり数分が経過した。この騒動は地下牢の騒音により発覚した。
「まだ出る!」
「お〜、どうした?」
腹を下して大声で気張る看守の声に巡回中の衛兵が気付き地下牢に入ってくるともぬけの殻となった牢屋を発見し現在に至る。
「探せ!まだ近くに居るはずだ!」
情報を交換しながら城中を走り回り陽奈と老人を探しまる衛兵達を人気のない部屋から眺めながらどう逃げようかと策をろうじていた。
そんな中陽奈の尻を嫌らしい手つきで撫で回すような感触に襲われた。
「えぇ尻じゃ。やはり女は尻の大きさじゃのぉ」
それは陽奈がとりあえず連れてきた小汚い老人だった。ガシッと老人の頭を持ち上げる。
「おい、爺さん。ウチが必死こいてアンタと二人で逃げる策考えとんのに何自分はセクハラかましとんねん」
「お、落ち着きなされ!こんな生い先短い年寄りの楽しみを奪わんでくれ!」
「セクハラジジイは死に晒せ!」
そう言って陽奈が老人を外へと投げつける。騒ぎに気付いたのか二人の衛兵が駆け寄る。
「居たぞ!捕まえろ!」
「じゃあかしゃぁぁぁぁ!!!」
陽奈が老人の足を持って振り回して衛兵二人が老人に当たり壁に叩きつけられる。
老人も衛兵に叩き付けられた衝撃で気を失っているようで力無く項垂れている。
「ちょうどええわ。この変態ジジイ武器に強行突破したる」
騒ぎに気付いたのかわらわらと集まってきた衛兵に陽奈は老人を振り回しながら対抗する。
ある者には老人でこめかみを狙い、またある者には老人で頭をカチ割り、またある者には老人を丸太がわりに股間へと突入する。
「まとめてかかってこいや!全員まとめてこのジジイの錆にしたる!」
サビるか!と周りからツッコミが聞こえてくる。が、そんな事はお構いなしに陽奈は老人を衛兵の股間へと打ち込んでいく。
「何の騒ぎ?」
大体百八人ほどの股間を着いた後に新たに聞こえたその声に陽奈は振り向く。
「城の衛兵が、聞いて呆れるわね」
そこにいたのは何の変哲もないメガネをかけたただの褐色メイドだった。ただ、陽奈から見れば局部的に見れば違うもののジャンヌに並ぶ美人だった。
「申し訳ありませんマリアンヌ様」
衛兵がそう言ってマリアンヌと呼ばれたメイドに近づこうとするとマリアンヌはその衛兵の胸ぐらを掴み陽奈へと投げる。
陽奈は飛んで来た衛兵を老人で打ち返しその影に隠れながらマリアンヌへと接近する。
そのまま陽奈がマリアンヌに老人で殴りかかろうとした時だった。
「止まって」
その言葉と共に陽奈な身体が一切動かなくなり地面に転がる。
(な、なんや?身体が動かへん。でもあの王子の時とはなんかちゃう)
現状の理解が追いつかず、陽奈はそのまま必死に考えを巡らせていく。
「駄目でしょ。お年寄りは労わらないと」
考えを巡らせている陽奈とは裏腹にマリアンヌ陽奈が振り回していた老人を抱えて壁にもたれ掛けさせる。
「その方は頼んだわよ」
「は!」
マリアンヌは近くの衛兵に老人を任せて再び陽奈へと向き直る。
「もう動いていいわよ」
その言葉と共に陽奈の身体に自由が戻る。
「何やねん。その魔法」
「戦場において敵に自分の魔法の秘密をバラすバカはいないでしょ?」
「言う通りやな」
「貴女は・・・身体強化系の魔法かしら?」
陽奈の力を考察しながら陽奈を見下ろすマリアンヌを陽奈はどうやって逃げようかと考えながら睨み付ける。
得体の知れない魔法使い、多勢に無勢、武器すらない。この状況では老人を連れて逃げるなど不可能だろう。
だが考える。今自分が出来ることでやれる最善の選択を。
(相手は女。力は多分ウチの方が強い。でも無理に行くとあの訳わからん魔法で金縛りにあう)
「さて、来ないならこっちから行かせてもらうわよ」
「!」
急に加速したマリアンヌが一瞬にして陽奈との距離を縮めて鳩尾を殴る。
「カハッ!」
口から血を吐き出しながら陽奈は後ろへと下がる。
「ダメ。逃がさない」
陽奈は何かの力に押し戻され更にマリアンヌの拳が突き刺さる。
床に血を吐きながらもがく陽奈を見下ろしながら今度は太腿に隠したナイフを抜く。
「昔ね、私勇者様に戦い方を習ったの。もちろん今も勇者様には遠く及ばないけどそれでもこの戦い方は私に大切なものを護らせてくれる。だからね」
落ちて。
その、一言と共に陽奈の意識は完全に暗闇へと消え失せた。
「おい!誰か倒れてるぞ!」
何や。煩い。
「って、コイツ王子が攫ってきたって言う人間じゃねぇか!」
地獄ってのは阿鼻叫喚が聞こえるって聞いたけどまるっきし嘘やんけ。
「リズ!どうする?」
「とりあえず止血して!後は・・・」
てか、何人の身体ペタペタ触っとんねん。身体中痛いんやからそっとして・・・痛い?
「あれ、ウチ・・・」
「気が付いたみてぇだな」
ウチが起き上がるとそこにいたのは短剣を携えた男女だった。
ウチは直ぐに起き上がり臨戦体制を取る。
「おいおい!別に取って食ったりはしねぇって!なぁ、リズ」
男がリズと呼ばれた頬を怪我した女に同意を求めると女はウチに水の入ったコップを手渡してきた。
「とりあえずそれ飲んで落ち着いて」
ウチは疑いながらも水を一気に飲み干す。別段身体に異常もなくウチは落ち着いて警戒しながらも臨戦体制は解き更に質問する。
「ここは何処なん?」
「私達みたいな家もないエルフの吹き溜まり、王都の裏路地」
「なんでウチはここに?」
「仲間の話によると空から落ちてきたみたいだけど?って、そんなことより先ずは自己紹介をしましょう。私はリズ。それでこっちが」
「ダニーだ」
「蘆屋陽奈・・・」
ウチは名前を声に出して今までに起きたことを頭で整理してみる。
(学校であのクソ王子に捕まって、城の地下牢に幽閉されててそっからエロジジイと一緒に逃げ出してそれから・・・)
ウチは手も足も出なかったマリアンヌと呼ばれていたメイドの顔を思い浮かべる。
「せや!あんのクソメイド!訳わからんけったいな魔法使いよって!次あったらボッコボコにしたる!」
ウチの恨み言にリズが反応する。
「メイド?それってもしかしてマリアンヌって名前?」
「あ?せや。何で知ってんねん」
「何でも何もマリアンヌはエルフの中で最強とまで言われたメイドよ!?」
最強。その言葉にウチは胸を強く打ち付けられたような気持ちになる。
「ちょっと前まではタイタニア家のメイドだったみたいだけど今じゃ王家の懐刀になってるみたいだけど」
「ソイツと戦ったんなら生きてるだけ儲けもんだと思うんだな」
そんなことは言うもののまだ城にはあのクソエルフが残っている。
残して逃げるなんてことをウチはやりたくなかった。
「ソイツの魔法について、知ってることがあるなら教えてくれ」
「戦う気かよ?次に戦えばお前確実に死ぬぜ?」
ダニーの言葉にウチは頷きながら次第に拳に力が入る。
「友達がまだ捕まっとるさかい逃げるわけにもいかんやろ」
「わっかんねぇ奴だな!エルフ最強かも知れない奴相手に人間が勝てる訳ねぇだろ!人間とエルフにどれだけ力の差があると・・・」
「ダニー」
興奮気味に捲し立てるダニーを止めたのはリズだった。そしてゆっくりとウチに近づいて手の近くに腰に差していた短剣を突き刺す。
「ダニーの言う通りお前に勝ち目はない。それでも戦う?」
まるで別人かのように思えるほどリズは先ほどまでと口調も雰囲気も違う。
それでもウチの胎は決まっていた。
「勝つ」
「・・・・・私達はあの魔法が何なのか分からない。でも彼女の故郷になら魔法について何か分かるかもしれない」
「故郷?」
「ここから南にあるダークエルフの森。勇者が最初に降り立った場所」




