異世界大陸
日本列島が異世界へと転移して海の向こうにある大陸は異世界大陸と名付けられた。
その異世界大陸へと向かう巨大な鉄の鳥、毛利総理大臣のプライベートジェットだ。
「こう言うのってさ、絶対途中で敵の刺客とかに襲われて墜落したりハイジャックされたりするんだぜ」
「ちょ、やめて下さいよ旦那。オイラそう言う荒事苦手なんでさ」
「大阪の半分くらいの不良どもの頂点だったお前が何いってんの?」
軽い雑談をしながら飛行機の外を見る。既に大陸の上空らしく雲の隙間から陸地が見える。
「翠。護衛がビールなど飲んで良いのか?」
「心配ない。アルコールが入っている方が集中できる」
「それこの前テレビで言ってたアルコール依存症ってやつじゃないか?」
姉ちゃんは出発前に比べていつもの姉ちゃんに戻っているようだ。ノワール先生も姉ちゃんを心配そうに見ながらとりあえず水を飲んでいる。
「おっさんスッゴイ細いのだ。ちゃんとご飯食べてるのだ?」
「私は執務で頭を使ってばかりだからね栄養が全部頭に吸われちゃうんだ」
ルリと総理は子供と親戚のおじさんのような会話をしている。本当ならばルリを止めるべきなのだろうが別に総理も嫌そうじゃないので黙っておく。
皆んなの様子を見ながら俺はチラッと時計を見れば現在の時刻は日本時刻では夜の七時程度。残り十七時間ほどしか無い。
陽奈とジャンヌさんの名前を心の中で呼んだその時だった。首元に冷たい感覚を覚えて俺の額に嫌な汗が流れる。
「動くな」
俺の後ろから聞き慣れない声が聞こえてくる。
チラリと周りを見れば全員の後ろに黒いローブを着た何者かが鋭利なナイフを持ち各々に向けている。
「旦那。マジで飛行機ジャックですぜ」
「マジであんだなこう言うの」
「どうするんで?」
「どうするってそりゃあ・・・」
俺が言葉を出し切る前に姉ちゃんの方から野太い悲鳴が聞こえてくる。
そちらを見ると姉ちゃんが既に一人を殴り飛ばしていた。殴り飛ばした奴のフードを外し顔を確認して笑い出す。
「都合がいいな。向こうから出向いてくれるなんて」
奴の首根っこを掴み持ち上げると奴は尖った耳に端正な顔立ちのエルフの男だった。
「貴様ァァァァァァァ!」
ルリの後ろに居た奴がナイフを姉ちゃんに突き立てて襲いかかる。
しかし今度は横から吹き荒れた突風によりそいつは壁に叩きつけられる。
「まったく、勘弁してくださいよ。おちおちお喋りもできねぇじゃねぇですかい」
何処からか取り出した団扇を手に健太が椅子の上に立つ。
「な、なんだお前は!?風魔法か!?」
「魔法?そんなんじゃねぇ。オイラが使ったのは妖術さ」
「妖術!?」
この大陸には妖怪がいないのだろう。妖術という聞き慣れない言葉に周りの敵が健太から一歩下がる。
その隙にノワール先生が剣を抜こうとするが座席の間隔が狭い為抜けずに席に突っかかる。
それを見逃さずにルリの側にいた敵がナイフをノワール先生に突き立てた。
「もらった!」
「甘い!」
ノワール先生が敵の至近距離でエアーブレードを放つ。
「零!ここは私達が引き受けた。お前は敵の移動手段を探せ!」
「え?え?」
ノワール先生に指示されるが言っている意味が分からずに俺は混乱する。
そんな中でも俺と総理以外の全員が襲い掛かる敵を押さえつける。
そんな中、戦いながら姉ちゃんが話しかけてきた。
「いいか、零。私達は乗る前に確かに敵が潜んでいない事を確認した。だとしたらコイツらは上空数万キロにあるこの鉄の箱に誰にも気取られる事もなく侵入出来たんだろうな」
「姉ちゃんが何を言いたいのか良くわかんねぇよ!」
「想像力を働かせろ。乗り物をジャックするのならまず制圧しなければならない場所は何処だ?」
姉ちゃんのその問いに俺は一つの答えが浮かぶ。
「思い浮かんだみたいだな。ならしのごの言わずに走れ!」
姉ちゃんの一喝に俺の足が床を蹴り動き出す。途中で何人かが襲いかかってくるが全てルリと健太が抑えてくれ俺は想像した場所、コックピットに向かった。
コックピットに入ればそこには四人の人影があった。その内三人の顔は見覚えがある。機長と副機長、それにキャビンアテンダントだ。
「テメェが移動手段か?」
俺は残りの全く知らないローブを着て短剣を持った奴を睨み付ける。
俺の質問にそいつは答えることもなく短剣で襲いかかってくる。俺は紙一重でその攻撃を避けて敵の手につかみかかる。
しかし、戦闘の素人である俺の動きなど読めていると言わんばかりにそいつは俺の左腕に連続で三回短剣を突き刺した。
刺された場所から血が吹き出し余りの痛さに俺は腕を抑える。
「だ、大丈夫ですか!?」
キャビンアテンダントが俺に近づこうとするが敵に押し除けられてしまう。
痛みで動けない俺に今度は奴はゆっくりと近づいて俺に短剣を突き刺そうとしてくる。
その隙を俺は見逃さなかった。俺は痛みを我慢して敵の腹に思いっきりタックルをかまして押し倒す。更々死ぬ気は無いが今の俺ではこれで精一杯だった。
俺と敵で倒れ込み敵の上から起きあがろうと床に手をつけようとした時だった。
モニュ、小さく柔らかい何かを俺の手が握ったのだ。疑問に思い俺が床を見るとそこに居たのは先程俺がタックルをかました敵だった。
ゆっくりとフードで見えなかった顔を確認すれば羞恥と怒りが入り混じり顔を赤くしたエルフの少女がいた。
「死ね!」
「ブヘッ」
エルフの少女の拳が俺の鼻頭に突き刺さる。吹き飛んでコックピットから追い出されるがすぐに身体を起き上がらせてエルフの少女を見る。ツー、と鼻から鼻血が流れ出るのを気にせずに少し飲み笑みを浮かべる。
「何で笑ってるの!?キモ!死ね!」
その言葉に少女の後ろにいる三人の冷たい視線が突き刺さる。
「結構喋るじゃねぇか」
「それが何!?」
「何が目的だ?」
今の彼女ならうっかりと喋ってくれるかもしれない。一抹の期待を込めて俺は質問する。
だが、現実は非常だった。
「お前に教える必要はない!」
「そうか」
俺は再度拳を握る。ほんの一メートルほど先の少女に向かって力強く踏み込み拳を振るう。
しかしやはり余裕を持って避けられて俺は身体を捻って少女を見る。既に少女は飛びかかり俺の腹に短剣を突き刺そうとしていた。
もはや避けることも出来そうにない。
次の瞬間ブスリと言う鈍い音と共に鋭い痛みが生じる。
「これで終わり」
勝ちを確信したのだろう。少女は勝ち誇ったように高らかに勝利宣言を掲げる。
「あぁ。やっと、捕まえたぜ」
「!?」
少女が気付いた時には俺の手は少女を掴んでいた。少女が抜け出そうと抵抗するが痛みで力が強くなっている俺から逃げることは出来ない。
俺は思いっきり少女を自分の方に引っ張りパンチを少女の頬に叩き込む。
少女が後ろに飛んでいきそうになるが胸ぐらを掴んで顔を近付ける。
「悪いが、俺は女は殴らないとかそんな紳士的な男じゃ無いからよ。むしろ可哀想なのは抜けるってタイプだ」
少女を睨みつけながら今度は頭突きを喰らわせようと仰け反った。
だが俺の頭突きが少女に当たることはなかった。
ドカーン、とけたたましい轟音が鳴り響くと共に飛行機が大きく揺れたのだ。
「な、なんだ!?」
「機長!第二、第三エンジンに異常発生!燃料が抜けて飛行困難!このままでは墜落します!」
「何!?」
機長が操縦桿を懸命に動き出す。
「乗客を無事に目的地に送り届けるのが我々の仕事だ。こうなった以上緊急着陸は免れん!何としても成功させるぞ!」
「はい!」
機長達が急いで準備を進めるのを見て少女は笑い出す。
「無駄よ。この飛行機には私がいくつも王子から賜った爆弾を仕掛けてるから。着陸する前にドカン」
俺は少女を床に叩きつけて問いただす。
「んなことしたらテメェらも死ぬんだぞ!」
「作戦じゃお前達を殺してそのまま帰るつもりだったけどこうなったら仕方ない。私のテレポートの魔法は範囲を設定してその中にいる全員を移動させるもの。敵も味方も入り乱れて時間もない今、大切な仲間を護るために私達は自滅覚悟でお前達を殺す」
「仲間?」
俺は胸ぐらから手を離してゆらゆらと立ち上がる。
「私の仲間は私がいじめられているのを助けてそれを見ていた貴族に養子にされた。最初は私達も喜んだ。鼻が高かった。仲間から貴族になった子が出来て。でもその貴族は最近急に現れた日本に仲間を売った!」
少女の目なら涙が流れ始める。
「もう十年、あの子の顔を見ていない。でも王子がその子を日本から取り返してくれた。あの子と王子が結婚すれば私達はもう一度会わせてくれるって約束してもらった。でも、こうなった今私達の命を持ってあの子の害を排除する」
俺は少女の言い分を聞いて大きく息を吐き深くため息をつく。
「ったくよぉ・・・・・。さっきから聞いてりゃピーチクパーチク耳障りのいい御託並べやがって」
「!」
だから俺は少女の覚悟を一蹴にして吐き捨てる。
「会いたいから戦ってんのに死んで護るだぁ?ざっけんじゃねぇよ!俺は家族を二人テメェ等のとこの王子に攫われたから助けに行くんだよ!もう一度あいつ等と一緒に過ごしたいから助けに行くんだよ!そのためだったら泥水だろうがしょんべんだろうが笑って啜ってやる!マジで死にそうにならどんな無様な姿になったって醜く生き延びてやる!」
もう一度少女の胸ぐらを掴み顔を近づけて睨みつけ、言い放つ。
「選べ!このまま俺等と心中して仲間の顔を見ずに死ぬか、全員をここから助けて俺等が王子をぶん殴った後に会うのか!」
数分後、飛行機は遥か上空で大きな爆発と共に姿を消した。
首都アールヴの裏路地にローブを着た若いエルフ達がたむろしていた。
「良かったのかリズ。アイツらを行かせちまって」
リズと呼ばれたエルフの少女が頷く。
「うん。だってアイツ、貴族なんかよりよっぽど綺麗な目をしてた」
リズが空を見ながら十年間会えていない仲間の顔を思い出す。
「ジャンヌ・・・。待っててね」




