姉としての矜持
弟の零に謹慎令を出した翌日。私はとある場所に赴いていた。
「こちらです」
「ありがとう」
私は案内に礼をして案内された部屋の扉を叩く。
『誰かな?』
「防衛省妖対策部所属天野翠です」
『入ってくれ』
「失礼します」
部屋の中の人物に許可を貰い部屋に入る。部屋の中は真ん中に大きなテーブルがあり左右にはソファが置かれている。そしてその奥には執務机が置かれていてそこに一人の四十くらいの男が座っていた。
「珍しいね。君から私の所に来るなんて。何か用事かな?」
「はい。本日はお願いがあり伺いました。アポも無しに急な訪問申し訳ありません、総理」
そう。ここは首相官邸。総理大臣が日本の内閣総理大臣の公邸だ。
彼の名前は毛利元助。この国の総理大臣でありながら私の父の親友であるらしい人物だ。
「構わないよ。君のお父さんにはずっと助けてもらっていたからね。で、お願いって言うのは何だい?」
「近日行われるアルヴンの王子の結婚式に護衛として私を含めて五名を同行させていただきたい」
私の願いに総理が目を細めて私を見る。
「それはどうして?」
総理に質問され私は昨日見た涙を枯らした弟の顔を思い浮かべる。
「昨日の大江山高校の件は?」
「あぁ。耳に入っているよ。何とか生徒を取り戻したい所だが相手が王子だしね」
「・・・・・私は昨日攫われた二人と弟を秤にかけて弟を取りました。その事に後悔は一切ありません。でも弟は違った。何度も悩みそして出した答えすらも否定された」
二人の命と四百五十人の命を秤にかけたなんて体のいいことを私は昨日弟に言ったが結局私は弟ただ一人の命を取ったに過ぎなかった。
「私は弟が好きです。愛しています。だからその弟を脅かす者が現れたのならそれが個人だろうが組織だろうが国だろうが潰すつもりです」
そう。ずっと昔から私の目には弟しかいない。ブラコンと言われても私はきっと受け入れるだろう。
弟を護る為ならば犯罪だって甘んじて犯そう。それが天野翠の生きる意味であり目的なのだから。
「きっと零は何もせずとも勝手にアルヴンに密入国するでしょう。そうなればきっと生きては帰ってこれない。これは姉であり、上司であり、教育者である私の我儘です。弟であり、部下であり、生徒である零が壁にぶつかって立ち往生しているのなら壁を乗り越える手助けをしてやりたいのです。だからどうかお願いします。私達を同行させてください」
私は余り下げたことの無い頭を深々と下げる。それに驚いたのだろう。総理は目を丸くして口が開けっぱなしとなっている。
しばらくしてペンを置く音だけが響く。
「分かった。君達を同行させよう」
「!ありがとうございます」
「ただし、何かしらの成果は出すこと。いいね?」
「もちろんです」
こうして私は総理に一礼して首相官邸を後にした。
その頃、エルフの国アルヴンの城の地下牢に蘆屋家の天才陰陽師蘆屋陽奈は閉じ込められていた。
「こらぁ!開けんかい!自分誘拐しといてこの扱いはあんまりやろが!何でウチは地下牢でジャンヌは上の個室やねん!しばくぞボケ!」
「おい、うるさいぞ!八百六十四番!」
「誰ですか?ウチの名前は蘆屋陽奈です!数字で呼ぶなアホ!」
先程から陽奈は地下牢で暴れは叫びを繰り返し看守に咎められては噛み付くを繰り返していた。
こんな事をしても意味がないことは理解してはいるが陽奈なりのささやかな抵抗だ。
「貴様!人間の分際で調子に乗るなよ!利用価値があるから生かしていることを忘れるな!」
「あぁ!?んなもん見い出してくれやんでもえぇわ!今に見てろよ!きっと零が助けに・・・助、けに・・・」
そこまで考えて陽奈は黙り込み考える素振りを見せる。看守も気になったのだろう。
牢を覗き込み陽奈の様子を伺う。
しばらくして陽奈が牢の天井を仰ぎ見ながら
「いや、零やったらウチのことほっときそうやな」
そう呟いた。
姉ちゃんの指示により俺、ルリ、焼き鳥、ノワール先生は黒スーツにグラサン、耳には通信機を装着する。
「ルリこの服前にテレビで見たのだ!鬼ごっこの鬼が着てたのだ!」
「剣を所持できるから着たが動きにくいな」
スーツの慣れない二人は面白い反応を見せてくれる。
「焼き鳥、お前案外スーツ似合うじゃねぇか」
「旦那は似合わねぇっスね。背が低いから」
「上等だテメェ!焼き鳥にしてルリのご飯にしてやらぁ!」
「手羽先は不味いからいらないのだ!」
「オイラそんな不味いの!?」
二人を助け出す前だと言うのに俺たちは案外いつものようなノリで会話する、
これが最後の平穏だとしても互いに言い残す事などない。
「いいか。タイムリミットは今から約二十四時間。上陸してからは約七時間となる気合いを入れろよ」
姉ちゃんがそう言うと何処からともなく持ってきたホワイトボードを俺たちの前に転がしデカデカと文字を書く。
「作戦名『XYZ』開始だ!」




