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異世界に転移した日本で生きるオタクの話  作者: 山田太郎
第一章
19/32

最善の選択

 遂に来てしまった運命の日。俺たちはいつもの様に学校に登校し、生徒全員が体育館に集まる。

 しかし体育館の内装は以前来た時とは違っており舞台の上に一つの玉座が置かれ、しかも体育館とは言えないまるで王様がいる間の様な内装になっている。

 これが昨日の先生達のデスマーチの理由だったのだろう。横に並ぶ先生達を見れば生気の無い目で佇んでいる。

 先生は少し目が死んでいてノワール先生と五里山先生は何故かいつもより元気そうだった。

 全員を集まったことを確認すると校長先生が舞台裏に入っていく。

 しばらくすると舞台裏から一週間ぶりのオベロンが現れ太々しく玉座へと座る。


「やぁ、下等な人間諸君。一週間ぶりだな。では、答えを聞こうか」


 オベロンの言葉に誰も返事をする者は居なかった。ここで誰かがジャンヌさんを指名してくれていれば幾分か俺の気持ちマシだったのに。


「居ないのか?ならば、約束通り・・・」


 オベロンが陽奈をゆっくりと舐め回す様に見るのを見て俺は急いで手を上げる。こうなればもう腹を括るしかない。


「お前は・・・ほぉ」


 俺に気付いたオベロンが俺を見定める様に見ると首を縦にふる。


「うん、じゃあお前に答えて貰おうか。私が探しているある者を」

「いいだろう」


 ジャンヌさんを指名しようとして心臓の鼓動が速くなり音も鮮明に聞こえ始める。

 

「それは・・・」


 体育館の全員が俺に視線を向ける。


「それは・・・」


 迷う事はない。ここで迷ってしまえばそれこそジャンヌさんに失礼だ。


「ジャンヌ・タイタニア・・・」


 名前を吐き出した瞬間に嫌な汗がダラダラと流れ始める。だが次の瞬間、オベロンが発した言葉に俺は流れる汗が止まる。



「うん。半分正解だな」

「半、分?」

「ど、どう言う事だ!お前が探していたのはボクのはずだぞ!」


 ジャンヌさんがオベロンに向かって叫ぶ。


「喚くな雑種。私は確かに私が探している者を探し当てろとは言ったが別に一人だけとは言っていないぞ?」


 状況は絶望的だ。ヒントも何も無い状態でこの中から今すぐにもう一人を探し出すなんて不可能だ。

 健太も我慢の限界が近いのか肩を震わせている。しかし、周りが健太を取り押さえ動かない様にしていた。

 このままじゃ俺は陽菜もジャンヌさんも助けられないと思ったその時だった。


「蘆屋陽奈です」


 不意に聞き覚えしかない声が壁側から聞こえてきた。


「姉ちゃん・・・・?」


 声の主は現在の天野家の主であり、俺の姉、そして担任である鬼塚翠だった。


「お前は?」

「蘆屋陽奈の親族です」

「そうか、ではどうして蘆屋陽奈が私の探している者なのか答えてみろ」


 先生が一歩前に踏み出してオベロンを見る。


「王子の目的は存じております。そしてそれに必要なのが光と闇の強大な力、そして相反する二つを調和するタイタニア家に伝わる不沈の指輪」


 カツカツと足を靴を鳴らしながら先生が歩き出す。


「現在王子の元には不沈の指輪を持った光属性の適性が非常に高いジャンヌ・タイタニアが居ります。だとするならば残るは強大な闇の力」


 先生が陽奈の前で足を止める。横目でジロリと陽奈を見ると先生はオベロンに向き直る。


「つまり闇属性の適性が非常に高いこの蘆屋陽奈こそが王子の探すもう一人なのです」


 淡々と、まるで機械かのように先生が説明し終わるとオベロンが笑いながら拍手をする。


「素晴らしい!純潔のエルフならば私の妻か、側近にしてやりたいところだ!」

「お褒めに預かり光栄です」


 オベロンが指をパチンと鳴らすと陽奈とジャンヌさんに雷の縄が巻かれて拘束される。


「下等な人間にしては楽しい余興であった。もう二度と会わないだろうがお前の事は覚えておこう」


 そう言ってオベロンが先生を見て体育館の真ん中に敷かれたレッドカーペットを歩いて行く。

 するとオベロンについて行くように陽奈とジャンヌさんが宙に浮き動き出す。


「陽奈!ジャンヌ!」

「「零!」」


 俺が手を伸ばすと二人も手を伸ばす。もちろん遠くにいる陽奈に届くわけもない。ジャンヌさんもあと少しのところで届かない。

 結局俺は一人を見捨てて一人を助けようとした結果二人とも助けられる事はなかった。




 その日俺は授業も受けずに早退して自室のベッドで寝転がっていた。

 ルリは今日もギルドに行ったのか家に居なかった。管理しろと言われてはいるが俺にそんな趣味はない。

 着いてすぐに流し切った涙はもう出ない。あるのは自分の無力さと姉の行動への恨みだけだった。

 コンコン、と部屋の扉が叩かれる。


『私だ。入るぞ』


 姉ちゃんの声が聞こえて身体を起き上がらせる。そして姉ちゃんが部屋に入ったと同時に俺は姉ちゃんの胸ぐらを掴み上げる。俺より姉ちゃんの方が背が高いため無理な体勢にはなってはいるが構わない。


「何で陽奈を態々ヤローに渡した!」

「それが最善の選択だった」

「何が最善だ!二人とも連れてかれた!結果は最悪じゃねぇか!」

「少なくとも四百五十人余りの命は助かった」


 その言葉に俺は胸ぐらを掴み上げていた手を離す。


「あの王子は元々私達を殺すつもりだった」

「何でそんなこと分かるんだよ」

「既に二つほど教育機関が奴の手により生徒も教師も殺されている」


 俺はベッドに力無く座り込み壁にもたれかかって立っている姉ちゃんを見る。


「目的はなんなんだ?」

「使い捨てに出来る光と闇の高適性の補充と不沈の指輪の継承者であるジャンヌ・タイタニアの確保」

「使い捨て?」

「純血のエルフは選民思想を有している。それも捻じ曲がったな」


 いつも来ている白衣を脱ぎ俺の椅子にかけると姉ちゃんが俺の隣に座る。


「奴らは純血のエルフ以外をゴミにしか思っていない。だが、そんな時に王族以外では富も名声もあった男が混血のエルフを養子にし、そして跡取りにした」


 ここの話は俺もジャンヌさんから聞いたことがある。エルフィン・タイタニアと言うジャンヌさんのお爺さんの話だ。


「跡取りが居ない貴族は当主が死ぬと財産が国王へと帰属される。だから跡取りを取らないと思った王子は焦った。その混血のエルフがまた誰とも知らない混血のエルフと結婚すれば国は根底からひっくり返り自分の立場が危ういと」


 アホか、と言いたかったが俺は黙っておく。アニメやマンガではないのだからそう簡単に下剋上が起こるわけもない。


「だから男と接触させないように屋敷に軟禁し嫌々ながらもジャンヌ・タイタニアが結婚できる年になってから結婚しようと企んだ」

「でも計画が狂った」


 俺の呟きに姉ちゃんが小さくうなづいた。


「エルフィン・タイタニアが留学と言う体で秘密裏にジャンヌ・タイタニアを日本に逃した。当然王子は怒りエルフィン・タイタニアを終身刑に処しジャンヌ・タイタニアを連れ帰るため日本に来た」

「ま、待てよ!じゃあ光属性と闇属性の適性が高い人間を攫うのは?」

「魔導兵器のエネルギーとするためだ」

「何でそんな事・・・」

「魔法先進国のアルヴンは今現在深刻な人手不足に悩まされている」

「それが、何で魔導兵器に結びつくんだよ?」

「日本を占領し、奴隷とする。そして日本の技術を根こそぎアルヴンが掠め取るためだ」


 あまりにも現実味がない話に俺は呼吸すら忘れていた。既に戦争が終結してもうすぐ百年が経とうとしている今この時代に兵器で日本を占領し奴隷にするなんて事態、到底信じられなるわけもない。

 でも、最近は常識外れなことばかり起こっていて少しだけ受け入れてしまっている自分もいる。


「以上が私の話だ。そして零。明日は学校に行くな。ルリとツクネと共に家にいろ」


 俺の姉ちゃんは健太の事をツクネと呼んでいる。理由としては初めて会った時につくねが食べたかったかららしい。


「姉ちゃんはどうするんだよ?」


 恐る恐る俺は姉ちゃんに聞いてみる。こう言う時の姉ちゃんは怖い。


「何、ウチに手を出したんだ。()()()を付けさせるだけだ」


 顔は見えなかったが明らかに今の姉ちゃんはキレている。俺はただただ黙って姉ちゃんを見送るしかなかった。

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