五日目・金曜という名の解放
今日は高校生になって初の金曜日。土曜日が四時限目まである学校もあるらしいがウチの学校は土日が休みとなっている。
だから今から楽しみで仕方がないのだ。
「授業終わったぁ!」
「お疲れ様。ちゃんと聞いてた?」
身体を伸ばす俺に横に座っているジャンヌさんが話しかけてくる。
「何か身体は脳から出る微弱電流で動いてるって所は聞いてた」
「零、それ先生の雑談だよ」
「あ、そうなの?」
話が面白く無さ過ぎて寝てしまっていたことを反省しつつ俺はそう言えば最近はカップルっぽいことができていないことを思い出す。
「よし、ジャンヌ。今から遊びに行かね?」
初め零にそう言われた時ボクは戸惑った。いきなりの誘いだったし最近色んなことがあったから零も約束を忘れてると思っていた。
でも零はちゃんと覚えていてくれてボク達は今大江山市にある大型ショッピングモールの中にある映画館に来ていた。
「実は見たかったんだよね、この映画。去年の続編らしくてよ」
チケット売り場に並びながら楽しそうに零がそう言う。そんな零を見ているとボクも次第と笑顔が溢れる。
「じゃあボクも楽しみにしてるよ」
「いや、やめといた方がいい」
「え?」
「二作目っつうのは大抵駄作だからな」
だったら何で見に来たのだろう、なんて思いながらボクは零の後を着いていく。
ボクと同じくらいの身長しか無いのに零が何故かとても大きく感じる。
「えっと、映画のタイトルって?」
「トリプルトータルヘッドシャーク」
タイトルを聞いた瞬間ボクの脳裏によぎったのはB級映画によくあるサメシリーズの映画だった。
たぶんもう駄作とかそれ以前の問題な気もする。でもボクはB級映画にも面白い作品があるって前に鬼塚先生から聞いたことがある。
「ポップコーンとジュースはもったか?」
チケットを購入し終えた零がそう言ってボクの持っていたカルピス入りのジュースを受け取る。
「うし、行くか」
そして映画館の中に入ってボク達は席につく。しばらくして映画が始まると零がボクと零の間に空いたポップコーンを食べ始める。
その気配を感じながら映画を見ていると離れたところに座っていた一組のカップルがイチャイチャし始める。
実はと言うと今この映画館には十人しかお客が居なかった。しかもその全員がカップルだから多分皆んな映画より暗がりでイチャイチャするのが目的なのだろう。一組を皮切りに一斉に周りでいちゃつき始める。
まさか零もそれ目的で連れて来たのかな?なんて淡い期待を乗せながら零を見るとただ単にポップコーンを食べながら懸命に映画を見ている。
こうなったら仕方がない。ボクからアプローチしてみよう。
ボクはポップコーンに手を伸ばして偶然を装って手に当たろうと試みる。これも漫画でよくあるシチュエーションだ。
そんな時だった。急に零がボクの手を握って来たのだ。
「え!?ちょっと、零?」
顔を熱くしながら零を見ると零は目を瞑って震えていた。何があったのだろうと思ったけど原因はすぐに見つかった。
それは映画の画面。明らかにホラーシーンだ。
「まさか零って、怖いの苦手?」
「ば、馬鹿野郎!こ、これはあれだ。お前が怖くない様にだな」
「うん。ありがとう」
「え?」
理由はどうであれ零が手を握ってくれたのだからボクが拒む理由はない。
結局映画が終わるまでボク達は手を繋いでいた。
映画を観終わって終わってボク達は近くのカフェにいた。
「中々面白かったな」
「だね。まさか主人公とヒロインだけが生き残ってアダムとイブになって世界を一巡させるなんてね」
正直に駄作だとは思うけど設定が壮大過ぎて面白いと思ってしまった。
「ねぇ」
「あ?」
「もし今ボクが君に助けてって言ったら君はボクを助けてくれる?」
その言葉を聞いて俺は心臓が跳ね上がる。
「君は以前陽奈を優先するからボクを見捨てるって言った。でも・・・」
ポタポタと机に水滴が零れ落ちる。
やっぱりだ。あの時ジャンヌさんは快く俺の意見を受け入れてくれた。でもそんなわけは絶対になかったのだ。
ジャンヌさんだって俺と同じ十五歳で俺と同じ心を持っている。
「死にたくないなぁ・・・」
死にたくないと思う事なんて当たり前のことだったのだ。
俺は声を出すことが出来なかった。今流している涙も、感情も全て俺がジャンヌさんを追い詰めたからで全部俺のせいだ。
「・・・・・ごめん」
「何で君が謝るんだい?君は蘆屋陽奈を得るために留学生を犠牲にしただけだ」
「ごめん」
それしか言葉は見つからなかった。
謝ったってどうにもならないことは分かっている。それでも謝らずにはいられなかった。
それはご飯を食べるときに命に感謝していただきますと言うのと一緒だ。どうすることもできない。
「俺に力がなかったから二人とも助ける選択肢が無かった!全部俺が悪いんだ!」
「落ち着いて。進撃のライナーみたいだよ」
椅子から崩れ落ちて床に頭をへばりつける。
周りの客や店員から奇妙な目で見られてはいるが俺は気にしてはいなかった。
そんな俺をジャンヌさんは優しい目を向けて肩を持つ。
「ボクはね、そんな泥臭い君だからいいんだ。自分の力量を理解して、例え納得のできない選択肢だとしてもそれ相応の判断をする。力も無いのに綺麗事しか言わない奴よりずっといいんだ」
「ジャンヌ・・・」
ジャンヌさんの手に俺は縋る様に掴む。
「君は本当に立派な人間だよ」
床に涙が溜まり始める。
「ありがとう。ありがとう・・・」
「うん。だから後二日、よろしくね」
「あぁ!」




