三日目・冒険者ギルド
「坊主、危ねぇから退いときな」
箒に立つ男が開口一番にそう言った。三十代から四十代の無精髭を携えた男だろうか。歴戦の猛者って感じがする。
「いきなり来て爆撃した挙句そのもの言いはちょっと失礼じゃないっスか?今カッチーンて来たんですけど?」
警戒しながらも話を続ける。しかし男は余裕があるのか豪快に笑う。
「そいつは悪かったな。俺は冒険者ギルドのマスターをやってるジキルってもんだ」
「ギルドマスター?」
ジャンヌさんが聞き返すとあぁ、とジキルと名乗った男がうなづく。
「テレビでもやってたんじゃねぇか?ギルドがドラゴン討伐のために討伐隊が派遣されたって。それが俺達だ。分かったら危ねぇから退いてろ」
「いいや、まだ分からないっスね」
「零!?」
俺を宥めようとするジャンヌさんを静止して俺はまた話を続ける。
「こいつは怪我してた。だから怯えて攻撃してたんです。でも今は落ち着いてるし多分人間にも危害は加えません」
「関係ねぇな」
俺の話を聞いてなおジキルはそう答えた。そして少し語気を強めて俺を威圧する。
「例えばだ坊主。住処を失った猪が街に出て来たとしよう。その猪はどうなると思う?」
俺はその質問に答えられなかった。答えてしまえば俺は後ろにいるドラゴンを殺すことを肯定してしまうことになる。
「答えは駆除だ。な?ドラゴンだろうが猪だろうが一緒なんだ。人の住む領域に足を踏み入れた時点で待っているのは駆除のみなんだよ」
「なら、どうやったらこいつを見逃してくれますか?」
最後の手段だった。相手は俺がどう説得しようともドラゴンを殺そうとしている。なら相手の要求を飲むことで命乞いをする。
俺らしからぬ行動だが仕方がない。渡りに船だ。こうなったらとことん面倒を見てやる。
「なら、そのドラゴンを人にしてみろ」
「ッ!」
だが、そうなると無理難題が吹っ掛けられるのは目に見えていた。ここからが問題なのだ。ドラゴンを人に?現実的に可能じゃない。
「そんなのできる訳・・・」
「おっと、勘違いするなよ。出来ないことを要求するほど俺は非道じゃない。俺が言いたいのは人に危害を加えねぇドラゴンは基本的に人の姿に擬態して生活しているから無害じゃねぇなら人にしとけって事だよ」
俺は後ろのドラゴンを見る。
「出来るか?」
俺の言葉にうなづく様にドラゴンが唸り始めだんだん身体が縮んでいく。まずは羽が背中の中に入っていき次は首が短くなる。次第に四足歩行から二足歩行へと変わっていき最終的に見えた姿は。
「これでいいのだ?」
手と足が人間とドラゴンの中間の様になり、頭にドラゴンのツノが生えたロリだった。
「・・・・・決まりだな」
「んな!?」
ジキルの言葉に嫌にでも反応する。何が決まったのかはよく分からないが少なくても悪いことだろう。
ジャンヌさんと人間姿のドラゴンを背に俺はジキルを睨み付ける。
そんな時だった。上空から何かが落ちてきて砂煙が舞う。
「うわぁ!」
「ジャンヌ!」
衝撃で地面に尻餅を付くジャンヌさんに駆け寄りながら上空から落ちて来た何かを見る。
次第に砂煙が晴れて来て何かの正体が明るみになって行く。風に揺れる長髪に日の光に照らされて輝く金髪。そう、彼女は。
「私の教え子に、手は出さないでもらおう」
「ティターニア・ノワール先生!」
「YES I AM!」
いきなりのことで一切誰も反応が出来ない中満足そうにしているジャンヌさんに顔を赤くしたノワール先生が近づいて来る。
「こ、これでよかったんだよな?」
「はい!完璧でした!ボクは今凄く感動しています!」
何となく予想はついていたがやはりジャンヌさんの指示だった。
「ジャンヌ、今がどう言う状況か分かってんのか!?」
「勿論だ!でもやはり何事にもエンタメは欠かせないだろ?」
駄目だこいつ・・・早く何とかしないと、などと心の中で思っているとノワール先生が俺達から離れてジキルを睨みつける。
「これはこれは聖十字騎士団第二師団長のティターニア・ノワール様。お会い出来て光栄です」
しかし、ジキルは礼を欠かさずに箒から降り地に足を付けて頭を下げる。
ノワール先生も睨むのを辞めて警戒を続ける。
「私を知っているなら話が早い。彼らを見逃しては貰えないだろうか」
今度はノワール先生が深々と頭を下げる。
「頭を上げくれ第二師団長様!もうあのドラゴンをヤるつもりはねぇよ!」
「何?」
ノワール先生が頭を上げる。
「不完全とは言え人間に擬態する意思はあるみてぇだし、そっちで管理してくれるなら文句もねぇよ」
「そうか。感謝する」
そう言いながらドラゴンだった幼女を撫でながらノワール先生が撫でる。
「あ、あの!小さい女の子がそっちに逃げていきませんでした?」
「あぁ、来たぞ。俺らにお前を助けてくれって言いに。でもそっから何処に行ったかは知らねぇな。多分逃げたんだろ」
「そうですか・・・」
ギルドの人間が帰っていくのを見ながら俺は安堵のため息を流す。
俺はチラッとしか見ていなかったが助かったならそれでいい。俺は十分責務を全うして家の名に傷を付けずに済んのだ。
「えっと・・・零?」
「?」
「酔いしれてる所悪いんだけど頭・・・」
「頭?」
ジャンヌさんに言われるがまま頭を見る。そこにあったのは俺の頭をガブリと噛んでいたドラゴン(ロリ)だった。




