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ウマの国

 ファストトラベル、というゲーム用語がある。

 ゲーム内において、通常よりも速く移動できる手段や、拠点から拠点への移動をショートカットするもの、RPG系のゲームにおいてはダンジョンから一瞬でフィールドへ移動したりするもの、要はゲーム内における移動を簡便にするシステム全般を指す用語である。

 ファストトラベルの機能は、多くのゲームにおいて序盤ではロックされており、ゲームの進行とともに解放されるのが一般的な流れである。船であったり、転移陣であったり、スキルであったり入手方法は様々であるが、大抵はゲームのストーリーや世界観に沿う形で、進行状況に合わせて解放されてゆく。

 ……ただし例外はあって、その例外はまあ、ほぼ九割がたがクソゲー認定されることになる。ファストトラベルを適切にゲーム内に組み込むことは、場合によりゲームシステムやシナリオ以上に重要なのだ。

 このファストトラベルにおいて、「ヒマラオンライン」内でもっとも優遇されているのがウマの国である。

 ヒマラオンラインの世界は十二支になぞらえた十二の国に分かれていて、それぞれの国は境界門と呼ばれる施設で自由に行き来ができる。

 だが、その国にある境界門を使用するには、その国ごとに存在するエリアボスといわれる強敵を撃破しなくてはならない。

 とはいえ、エリアボスの強さはフィールドに出現する強敵エネミーより若干強い程度なのだが、それでもゲームをはじめたばかりの初心者や、中堅程度のソロプレイヤーでは荷が重い。

 そこで、だれでも使えるファストトラベルの機能として、乗合馬車というものが用意されている。これはいくらかのゲーム内通貨を支払うことで、隣の国へ送り届けてくれるというものだ。これを使えば、お金はかかるし境界門よりは時間もかかるが、馬車を乗り継いで目的の国へと移動することが可能となっている。

 この乗合馬車も、機能を開放するにはいくつかのイベントをこなさねばならないのだが、ウマの国ではゲーム開始時点から、この乗合馬車の機能が解放されている。各国にはそれぞれに特性があるが、これがウマの国における特性というわけだ。

 そして、乗合馬車は単なる境界門の下位互換でもない。乗合馬車を利用することで発生するイベントがたくさんあるし、同時刻に乗り合わせたプレイヤーやNPCとは馬車内で会話することも可能になっている。そして、これが最大の利点だともいわれているが……乗合馬車を一定回数以上利用すると、馬を買えるようになるのだ!

 馬は平地のフィールドでのみ使用できるファストトラベル機能で、平地を通常の三倍で移動できる。馬に乗れば、誰もが赤い彗星になれるのだ。

 そして、この馬の購入価格は、この国の神像の修復度合いによって定められる。

 ……まったくウマくできている、とアバター名「カンサイテイオー」は思う。

 ウマの国の神像修復率、驚異の72%である。後ろ足で立ち上がる馬の姿を模したものであると思われるが、前足の一部と頭部を除いて、ほぼ修復が完了している。他国も羨む、これがファストトラベルの力である。昔大流行したとあるソシャゲの力も多少あるかもしれない。

 いや、もう一つは、馬に乗ってみたい、という純粋な思いか。何せここは、VRMMOの世界なのだから。

 百年前よりも今では、現実世界で乗馬を楽しむのはより困難になっている。今や一般人が乗馬を体験できるのはVRの世界のみなのだ。

 かくいうカンサイテイオーも、馬に乗りたくてウマの国をスタート地点に選んだプレイヤーの一人である。

 プレイ開始前から情報を得ていたカンサイテイオーは、機会があるたびに乗合馬車を利用し、早々に馬の購入権利を取得していた。が、馬の購入価格は高い上、所持していれば一定期間ごとに維持費が徴収される仕組みになっている。とにかく金がかかるのだ。

 なのでプレイ開始からこの方、ゲーム内では休みなくイベントやクエストをこなして回る日々を送っている。

 ……おかしい。俺は馬に乗ってこのリアルすぎるVR世界をゆっくり巡ってみたかっただけなのに。

 できることは数多く、幅も広いが、できることを増やすためには様々な実績を積み、機能や利用権を開放せねばならない。ゲームであることの弊害である。

 だがまあ、それが楽しくないわけでもないのだが。

 乗合馬車の後部座席から景色を眺める。ヒツジの国への街道は、進むにつれ草地が減り、岩とむき出しの地面が増える丘陵地へと変わりつつある。何度も通り見慣れた光景だが、飽きるということはない。

 乗合馬車の描写カットはプレイヤーたちから運営に幾度も要望が出されているが、運絵は頑として受け付けていない。関西テイオーはそこに、世界を見せたいというヒマラオンライン運営の強い意志を感じる。

「テイオーさんは、今回はあっちで仕事ッスか?」

 隣国限定の着ぐるみポンチョを着た少女アバターのプレイヤーが話しかけてくる。馬車で何度か顔を合わせて、知り合いになったプレイヤーだ。着ぐるみを常用しているプレイヤーは珍しいので、覚えてしまった。

 ちなみにカンサイテイオーも、自国限定装備である馬のかぶり物を頭部装備に常用している。

「いつもの毛織物の運搬だな。今回でようやく、馬の購入資金が貯まるんだ」

「おー。ついに脱ぐんっスね、その馬頭を!」

 馬を買ったらこの装備を卒業するという話を、そういえば以前にした気がする。

「いや、今買ってもまだ、維持できねえから……」

「世知辛いっスね……」

 だがそれでも、現実世界で馬を買うことに比べれば、とてつもなく低いハードルなのだ。

「あ、でも神像の修復が進んだら、購入費も維持費も下がるんっスよね? ウチ、最近ウマで活動してること多いから、破片けっこう溜まってるんスけど」

「マジか。譲ってくれ。代わりにウチの着ぐるみポンチョやる」

「いらないッス。アレ、目が死んでてカワイくないっス」

「ウマ娘さんが少ないのはそれでか……」

 ファストトラベルは大事だ。ゲームの根幹にかかわるくらい大事だ。だが。

 ファストトラベルできない部分もあることも、また大事なのじゃないか、と。こうして軽口を叩ける知り合いができた身としてはまた、思ったりもするのだ。

 

(完)

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