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ミの国

 VRMMOヒマラ・オンライン内には十二の国が存在する。

 新規プレイヤーはそのうちから好きな一つをスタート地点として選ぶことができるようになっている。そういうシステムであるからして、当然、すべての国におけるプレイの序盤は、同じ難易度になるように統一されている。

 HOヒマラ・オンラインだけではない。スタート地点をいくつかから選べるタイプのゲームでは、発生するメリットとデメリットに違いがあれども、基本的な難易度は平等になるように意図してデザインされる。デザインされて然るべきである。

 ……という建前である。

 ゲームに詳しい諸兄には語るまでもないであろう。実際にそれが成功しているゲームというのは、とてつもなく少ない。大抵は、攻略Wikiなどで「人権」という言葉で呼ばれる一つの地点が取り上げられて、他のスタート地点はゲーム的になかったものとして扱われる。人権。イヤな言葉だな。デザイナーに己の仕事の失敗をまざまざと突きつけてくれる……。

 そうなってしまう理由はいくつか考えられるが、最も大きな要素は、世界観とストーリーだろう。

 HOにおいても例外ではない。

 例えば。HO内に存在する十二の国には十二支があてがわれており、一番から順にネの国、ウシの国、トラの国……というように名付けられ、それぞれの動物にちなんだエリア設定がなされている。そしてその国々に登場するエネミー、敵モンスターも国にちなんだものが数多く出現するようになっている。エリアごとにおける特色というヤツである。

 そうすればどうなるか。

 ミの国は十二支のうちの巳、蛇が宛がわれた国である。からして、そのフィールドには蛇型のエネミーが他所の国より多く出現するのが特色になっている。

 そして、蛇といえば、毒である。

 ゲーム用語でデバフと呼ばれる状態異常は、プレイヤーに不利な状況を継続的に与える。そして、ミの国では特色を出すために、他国に比べて多くの状態異常持ちエネミーが設定されている。

 ……結果として。ミの国の攻略難易度は、他国に比べてとてつもなく跳ね上がっていた。

 世界観設定による難易度の上昇は、国像イベントにも表れている。各国国像もやはり宛がわれた干支を象ったものになっているのだが、ミの国の国像は当然のごとく蛇である。蛇なのである。

 ……おわかりいただけただろうか? まだしも部分のパーツがはっきりとしている他国と比べて、ミの国のパーツは……それがどこの部位なのか、まったくもって掴みどころがないのである。

 蛇だけにな!

 そんな世界観という重力に引きずられて難易度マシマシになった国像イベントに熱意を持って取り組むイカれたメンバーを紹介するぜ!

 全裸に腰蓑ひとつ、首から状態異常軽減の護符をじゃらじゃら幾つも提げて、背中に重量限界ぎりぎりまで積載可能な巨大な鉄箱のみを背負ったどこからどう見ても変態な、アバター名『こいつはヘビーだ』!

 以上だ!

 ……さて、『こいつはヘビーだ』、略してヘビーの鉄箱には国像の欠片が百、詰め込まれている。百である。国像修復までの総パーツ数は五十前後と目されているので、重複した欠片がかなり含まれていることは想像に難くない。

 つまりは、はじめから失敗することを前提に取り組んでいるのだ。

 ヘビーは手書きの帳面を取り出す。そこにはこれまでのトライアンドエラーがすべて記されている。HOを起動しながら攻略Wikiを閲覧することはできないが、HO内では何と、手書きのメモを残すことができるのだ。

 そして、帳面の文字は、途中から別のものに変わっている。

 メモを確認しながら、ヘビーは慎重にパーツを投入してゆく。修復率の数値が上がり、33%になったところで手を止め、大きく息を吐いた。

 ようやくここまで来た、と思った。

 ヘビーの持っている帳面は、友人から引き継いだものだ。環境の変化からゲームを続けるのが難しくなったその友人から託されたのだ。

 あの頃は、皆「無理ゲー」とか文句を言いながら、国像イベントに取り組み、作っては壊し、壊してはまた壊ししていたものだ。

 今では皆、メンタルの方が壊れてしまったが。

 ヘビーだって、クラフトの失敗で欠片が自動入手できなければ、すでに諦めていただろう。

 現実では手先が不器用で、HO内でもクラフトが下手で欠片を量産していたヘビーを国像イベントに誘ってくれたのも友人だった。

 このゲームの制作陣はわかっている。HO内において、本当の意味で無駄なことは、何一つない。友人はそう語っていた。

 下手くそなことにも価値を見出してくれる、そんな世界がここにはあった。

 だから今でもヘビーはHOを遊んでいるし、国像イベントにも取り組んでいるのだ。

 38%。40%のボーナス、国内におけるクラフトの成功率上昇。絶対欲しい。

 帳面をめくる。ここから先は、自身の文字で記されたデータだ。

 慎重に。だが大胆に。失敗してもやり直せる。それだけの欠片を、ヘビーは背の鉄箱に詰め込んでいる。

 データは蓄積される。本当の意味で無駄なことは、何一つないのだから。

 成し遂げるのだ。そして、あの友人に嬉々として煽りメッセージを送ってやるのだ。

 俺は今でも、この世界で楽しくやっています……って。


(完)


 本年もよろしくお願い申し上げます。

 ゲームデザインをテーマにしたゲームをつくったよ!

「おもしろいRPGをつくりたいだけの人生だった」

https://www.freem.ne.jp/win/game/32746

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