鏡越しに見た君の横顔は
「使えば使うほど、泡を出しながら痩せていくものなあに?」
「せっけん、だろう?」
「ブブー! ちがいまーす。にんげん、だよ?」
放課後の教室。突然話しかけてきた、同級生の女子。
「ブラック企業で使い潰されて、泡を吹いて倒れてしまうの!」
にこにこと、ずいぶん黒い内容。
「ねぇ、知ってる? 逢魔時の教室で、合わせ鏡の中でサイコロを振ると、異世界へ行けるって!」
オレンジ色の光が背後から入り、彼女の顔が影になって見えない。
「ねぇ、やってみよう?」
気付けば合わせ鏡の中、一緒にサイコロを持っている。
合わせ鏡の向こう、彼女の横顔。
顔、顔、顔……。遠くの顔が、悪魔に変わる。
いや、これは、悪魔的な、俺の上司の顔だ!
「ブラック企業に使い潰されて、異世界転生を夢見る魂よ。さぁ、サイコロ振ってごらん。出た目の数だけ、転生させてあげるよ?」
何言ってる、俺たちは高校生だろう?
それに、合わせ鏡のサイコロの目は、無限にある!
「たぁくさん、苦しみの生を味わってね。美味しくなぁれ!」
サイコロを、悪魔に投げつける。
いくつもいくつもあるサイコロが悪魔に当たる。
「ぎゃあ! しまった!」
鏡を倒し、教室から外に出ると、交差点!
目の前をトラックが通り過ぎる。
クラクションが鳴った。
心臓が跳ね上がり、冷汗が止まらない。
くたびれたスーツ、会社帰りの交差点、夕方のオレンジ色の光。
高校生じゃない、疲れ切った会社員の、俺。
夢、だったのか?
「使い潰される前に、動かないとな」
ゆっくり帰り道を行く。
今度こそ、泡を吹いて倒れないように。
「まぁだまだ、転生回数が残ってるからね。美味しくなぁれ♪」
666文字。