表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/34

5,採取と死体。

 


「ところでトラも、何か武器を装備したら? ゴブリン1体くらいなら、まぐれで倒せるんじゃないの?」


「僕は武器を持たない主義なので」


「ふーん」


 クローイの装備は、太刀。詳細は骨刀であり、種類は〈ワイブガ〉とのこと。つまりワイブガというモンスターの骨で作られた太刀。


「ポーション持ったわね?」


「持った」


 回復魔法を使える仲間がいないので、ポーションは必需品。収納系の魔法やマジックアイテムはないので、鞄に持ち運べる分だけ。

 あとは、半日もかからないクエストなので食料はいいとして、水は必須だ。


 王都を出る直前、クローイが思いついた様子で言った。


「サンドイッチ」


「はい?」


「お昼のサンドイッチを買うの忘れたわ」


 この子、完全にピクニック気分だよ。


 そういえばクローイはクラウドコントローラーとして、Aランクのパーティに参加していたこともあるとか。

 となると、難易度の高いダンジョン探索も行っているわけか。確かに近場での採取クエストなんて、ピクニックのようなものだろう。


 まぁ、僕も≪来航の善≫にいたころは、ダンジョンにも入っているけどね。


 サンドイッチを購入して、改めて出発。

 今日は天気もいいので、採取クエストには絶好の日だ。

 途中までは街道を移動し、途中からは自然のままの大地を行く。


「王都付近って、安全管理が行き届いているのよね~。だから、たいていの危険なモンスターは駆除されちゃっているわけ。それって退屈」


「モンスターなんか見かけても、交戦は避けたほうがいいと思うけどね」


 無意味な戦闘を避けるのも、一種の節約だ。


「その骨刀、買ったの?」


「違うわ。以前、魔鉄鉱山アーガに探索クエストで行ったとき、ワイブガを狩ったの。そのとき採取した素材をもとに作ってもらったわけ」


「魔鉄鉱山なんて行ったことないなぁ」


「じゃ、今度行く? 楽しいわよ。けど冒険者の生存率が20パー切ってる場所だから、出発前の遺書の更新はしておいたほうがいいかもだけど」


「……考えとく」


 やがてレベ草原に到着。


「本当に何も起きなかったわね!」


 残念そうなクローイは無視して、僕は採取用道具を出してロイナ花を探した。あった、あった。一面に咲き誇っている。花のみつを頂戴して、採取クエスト完了。


「トラ、お昼にするわよ」


 すっかり退屈した様子のクローイと、傾斜のある場所で座って遅めの昼食とした。

 ベーコンたっぷりのサンドイッチを食べる。旨味が口の中に広がる。

 これは美味しい。ピクニック気分になるのも無理はないな。


 不意にクローイが言う。


「血の匂いがする」


「生焼けだった?」


 クローイは残りのサンドイッチを早食いして、駆けだした。

 僕は慌てて追いかける。


 レベ草原を外れると、木々が鬱蒼と茂っている。その中をしばらく移動し、クローイは屈んで下生えを指さした。

 隠すようにして、死体が押し込められてある。


「モンスターの仕業かな?」


 冒険者稼業に死体は付き物だが、何度見ても慣れないものだ。

 クローイは死体の傷口を確かめる。背中を鋭利なもので切り裂かれている。革鎧の防御は効果がなかったようだ。


「これはモンスターの鉤爪とかじゃないわね。間違いなく剣による斬傷よ。この冒険者は、誰かに殺されたようね」


 死体が冒険者と断定できたのは、冒険者証を身につけていたからだ。ギルド所属も無所属も、冒険者証がなければクエストを受注できない。


「武器を使うモンスターはたくさんいるよね。ゴブリンなんか代表どころだけど」


「ゴブリンの仕業じゃないわね。というかモンスターの仕業でもないわ。モンスターはこんなふうに死体を隠したりしないものね。それに──何か盗まれている」


 死体は鞄を身につけていたが、中は空っぽだ。

 僕たちみたいにサンドイッチを入れていて、殺される前に昼食で食べたか。または何か高価な品を運んでいるところを襲われ、奪われたか。後者だろうなぁ。


「どうする、トラ?」


「僕に聞くの?」


「≪エコの王≫のリーダーはトラでしょ」


「確認だけど、この人は殺されてまだ何時間も経ってないよね?」


「ええ、間違いないわ。いまの季節だと、死後硬直が始まるのは死後2~3時間ってところ。まだその兆候が死体にはないもの」


「盗賊ってクラスは、そんなことも知っているものなの」


「長生きしていると、いろいろと学ぶものなのよ」


 クローイって、僕より年下じゃなかったっけ。


「で、どうするの?」


「王都に戻って通報していたら、殺人犯は遠くに逃げてしまう。だけど、いま僕たちが追跡すれば──」


「捕まえることができるかも?」 


「そう。だから犯人を追跡する」


「意外な決断ね。トラって臆病なタイプかと思っていたから」


「違うんだよ、クローイ。臆病と節約は、違うんだ」


 格言のようなことを言ってしまった。クローイも感じ入っていることだろう。


「うん。カッコつけている感じで言ってるけど、意味わかんないわ」


「あそう」


「追跡するなら急いだほうがいいわね」


「そうだね。急ぐ──それは追跡時間を『節約する』という意味だ」


「どういうこと?」


「僕のユニークスキル《節約エコノマイズ》の出番が来たということさ」




気に入って頂けましたら、ブクマと、この下にある[★★★★★]で応援して頂けると嬉しいです。励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ