表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/34

3,仲間ができる。

 



 ギルドに所属していないフリーランスが仲間を集めるには、酒場に行くといい。

 酒場は情報や人が集まる場所なので、パーティ仲間の募集をかけるのにも最適。


 ただ行きつけの〔骨休み亭〕だけは避ける。

 ここはそもそも≪来航の善≫の行きつけなので、連中と鉢合わせるのだけは勘弁したい。

 別に、いまさら≪来航の善≫を怨んじゃいない。僕はそんなにヒマじゃないので。だからといって再会したい相手でもない。


 そこで新たな酒場を開拓。

〔莫迦と金づる亭〕。店名に反して、良心的なメニューの値段。

 よし、新たな門出はこの店からだ。


★★★


 ギルドに属していると、さまざまなメリットがある。

 ギルド内のパーティに仲介してくれる。クエストを取ってきてくれる。ダンジョンなどの耳寄りな情報を共有できる。

 ただしデメリットもある。僕のようにギルドに肌があわない人もそうだが。

 一般的には、ピンハネだろう。


 各ギルドは、各発注者からクエストを取ってくる。それをギルド内パーティへと手配してくれる。

 この手配代として、報酬の何割か差っ引くわけだ。

 このピンハネが嫌で、フリーランス活動する冒険者は少なくない。


 ちなみに僕の場合、≪渚の剣≫からピンハネされた上、パーティ内での分配時にもボーンにピンハネされていた(疑惑)。なんか考えたらガッカリしてきたので、もう忘れよう。


 とにかく、フリー冒険者は探せばたくさんいるものだ。


 数人の冒険者たちが、近くの席で会話していた。盗み聞いたわけじゃないけど、バカでかい声で会話していたので聞こえてきた。

 彼らはフリー冒険者たちで、これからモンスター捕獲のクエストに向かうところらしい。


 ここは売り込んでみよう。


「どうも、はじめまして。僕はトラヴィスという者です。実は僕もフリー冒険者なんですが、あなた達のパーティに加わりたいんですが?」


 彼らの中でもリーダー格、ゴツイ体からしてたぶんアタッカーの冒険者が応えた。


「そりゃあ、お前さんの腕次第だな。フリーってことは、どこのギルドにも入れてもらえてねぇだけかもしれんからな」


 冒険者としての技量がなければ、ギルドに加入することはできない。

 僕の場合、『バッファーとしてサポートスキルが使える』という理由で入れたけど。そういえばスキル内容は確認されなかったような。

 わりといい加減だな、≪渚の剣≫。


「2時間前までは、僕は≪渚の剣≫に所属していましたが」


 するとゴツイ冒険者の表情が変わった。一目置くような表情に。


 王都には四大冒険者ギルドがあって、≪渚の剣≫はその一つ。属していれば箔がつく。

 よって≪渚の剣≫所属というだけで、たとえランクが低くとも冒険者としては尊敬されるわけだ。


 故郷の姉さんも、手紙で≪渚の剣≫に入れたと報告したら感動していたもんなぁ(クビになったことは里帰りまで黙っていよう)。


「だがよ、お前さん。なんだって、元≪渚の剣≫冒険者になっちまったんだ?」


 少し迷う。ありのままに話すべきか、隠すべきか。

 しかし新たな仲間になる可能性がある以上は、秘密はなしでいこう。


「簡単に言えば、戦力外通告を受けまして」


「戦力外ねぇ。だが一度は≪渚の剣≫に入れたわけだしなぁ。で、お前さん、クラスはなんだ?」


「バッファーです」


 戦力外と聞いて、明らかに落胆していた。やっぱりダメかと諦めかけたが、クラスを言うなりまた状況が変わる。


「お、そいつは丁度いい。うちは荒くればかりだからよ。サポート系が足りてねぇんだわ」


 ゴツイ冒険者の仲間たちも、バッファーと聞いたとたん目の色が変わった。やはりバッファーはパーティ・メンバーに加えたいわけだ。


「お役に立てますよ。僕のサポートスキルは一流です」


 僕も勢いこんで売り込む。

 それに『サポートスキルが一流』は事実だし。


「どんなサポートスキルなんだ?」


「はい、節約するスキルです」


「はぁ? なんだって?」


「はい。ですから、すべてを節約するスキルです」


 返ってきたのは失望だった。


「なんだそりゃあ? んなサポートスキル、聞いたことねぇぞ」


「僕のユニークスキルなので、他にはありませんよ」


 ゴツイ冒険者は仲間たちに顔を向けて、腹立たしそうに言った。


「バッファーというから期待してやったのに、危うくカスを掴まされるところだったぜ。とんだ時間の無駄だ」


 ここまで言われたら、仲間に入りたいなどと思うはずもない。

 腹が立ったので勘定して、〔莫迦と金づる亭〕を出ようとした。


「おい節約がんばれよ。いっそのこと冒険者やめて、経理にでもなったらどうだ? Sランクのケチ経理になれるかもしれねぇぜ」


 というゴツイ冒険者の発言と、仲間の爆笑が飛んできた。

 

〔莫迦と金づる亭〕を出たところで、クローイと鉢合わせした。


「あ、クローイ」


「へぇ、このお店のなか盛り上がってるのね。大爆笑が外まで聞こえてくるわ」


「笑いを提供したのは僕だけどね」


「トラヴィスが? お笑いの才能に目覚めたの? まぁいいわ。そんなことより探したのよ、トラ」


 地味に名前を略された。


「僕に何か用?」


「あんたが≪渚の剣≫をクビになったと聞いたわけ。あんた、最高に運がいいわよ」


「うーん、いまのところそうは思えないなぁ」


 するとクローイは、己をビシッと指さした。自信に満ちた笑顔。


「あたしもギルドをクビになったから、あんたと組んであげるわ。ね、最高に運がいいでしょ?」


「ふーん。どうしてギルドをクビになったの?」


 クローイは無念そうに首を振り、


「金庫室の中で見つかったのがいけなかったわぁ」


 つまり、ギルドの金庫室に盗みに入ったのかぁ。

 それはクビになるわけだ。


「じゃ、クローイ。これからよろしくね」


「オーケー、トラ。よろしく~」


 僕たちは握手した。


 やっぱり名前を略されてた。



気に入って頂けましたら、ブクマと、この下にある[★★★★★]で応援して頂けると嬉しいです。励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ