3,仲間ができる。
ギルドに所属していないフリーランスが仲間を集めるには、酒場に行くといい。
酒場は情報や人が集まる場所なので、パーティ仲間の募集をかけるのにも最適。
ただ行きつけの〔骨休み亭〕だけは避ける。
ここはそもそも≪来航の善≫の行きつけなので、連中と鉢合わせるのだけは勘弁したい。
別に、いまさら≪来航の善≫を怨んじゃいない。僕はそんなにヒマじゃないので。だからといって再会したい相手でもない。
そこで新たな酒場を開拓。
〔莫迦と金づる亭〕。店名に反して、良心的なメニューの値段。
よし、新たな門出はこの店からだ。
★★★
ギルドに属していると、さまざまなメリットがある。
ギルド内のパーティに仲介してくれる。クエストを取ってきてくれる。ダンジョンなどの耳寄りな情報を共有できる。
ただしデメリットもある。僕のようにギルドに肌があわない人もそうだが。
一般的には、ピンハネだろう。
各ギルドは、各発注者からクエストを取ってくる。それをギルド内パーティへと手配してくれる。
この手配代として、報酬の何割か差っ引くわけだ。
このピンハネが嫌で、フリーランス活動する冒険者は少なくない。
ちなみに僕の場合、≪渚の剣≫からピンハネされた上、パーティ内での分配時にもボーンにピンハネされていた(疑惑)。なんか考えたらガッカリしてきたので、もう忘れよう。
とにかく、フリー冒険者は探せばたくさんいるものだ。
数人の冒険者たちが、近くの席で会話していた。盗み聞いたわけじゃないけど、バカでかい声で会話していたので聞こえてきた。
彼らはフリー冒険者たちで、これからモンスター捕獲のクエストに向かうところらしい。
ここは売り込んでみよう。
「どうも、はじめまして。僕はトラヴィスという者です。実は僕もフリー冒険者なんですが、あなた達のパーティに加わりたいんですが?」
彼らの中でもリーダー格、ゴツイ体からしてたぶんアタッカーの冒険者が応えた。
「そりゃあ、お前さんの腕次第だな。フリーってことは、どこのギルドにも入れてもらえてねぇだけかもしれんからな」
冒険者としての技量がなければ、ギルドに加入することはできない。
僕の場合、『バッファーとしてサポートスキルが使える』という理由で入れたけど。そういえばスキル内容は確認されなかったような。
わりといい加減だな、≪渚の剣≫。
「2時間前までは、僕は≪渚の剣≫に所属していましたが」
するとゴツイ冒険者の表情が変わった。一目置くような表情に。
王都には四大冒険者ギルドがあって、≪渚の剣≫はその一つ。属していれば箔がつく。
よって≪渚の剣≫所属というだけで、たとえランクが低くとも冒険者としては尊敬されるわけだ。
故郷の姉さんも、手紙で≪渚の剣≫に入れたと報告したら感動していたもんなぁ(クビになったことは里帰りまで黙っていよう)。
「だがよ、お前さん。なんだって、元≪渚の剣≫冒険者になっちまったんだ?」
少し迷う。ありのままに話すべきか、隠すべきか。
しかし新たな仲間になる可能性がある以上は、秘密はなしでいこう。
「簡単に言えば、戦力外通告を受けまして」
「戦力外ねぇ。だが一度は≪渚の剣≫に入れたわけだしなぁ。で、お前さん、クラスはなんだ?」
「バッファーです」
戦力外と聞いて、明らかに落胆していた。やっぱりダメかと諦めかけたが、クラスを言うなりまた状況が変わる。
「お、そいつは丁度いい。うちは荒くればかりだからよ。サポート系が足りてねぇんだわ」
ゴツイ冒険者の仲間たちも、バッファーと聞いたとたん目の色が変わった。やはりバッファーはパーティ・メンバーに加えたいわけだ。
「お役に立てますよ。僕のサポートスキルは一流です」
僕も勢いこんで売り込む。
それに『サポートスキルが一流』は事実だし。
「どんなサポートスキルなんだ?」
「はい、節約するスキルです」
「はぁ? なんだって?」
「はい。ですから、すべてを節約するスキルです」
返ってきたのは失望だった。
「なんだそりゃあ? んなサポートスキル、聞いたことねぇぞ」
「僕のユニークスキルなので、他にはありませんよ」
ゴツイ冒険者は仲間たちに顔を向けて、腹立たしそうに言った。
「バッファーというから期待してやったのに、危うくカスを掴まされるところだったぜ。とんだ時間の無駄だ」
ここまで言われたら、仲間に入りたいなどと思うはずもない。
腹が立ったので勘定して、〔莫迦と金づる亭〕を出ようとした。
「おい節約がんばれよ。いっそのこと冒険者やめて、経理にでもなったらどうだ? Sランクのケチ経理になれるかもしれねぇぜ」
というゴツイ冒険者の発言と、仲間の爆笑が飛んできた。
〔莫迦と金づる亭〕を出たところで、クローイと鉢合わせした。
「あ、クローイ」
「へぇ、このお店のなか盛り上がってるのね。大爆笑が外まで聞こえてくるわ」
「笑いを提供したのは僕だけどね」
「トラヴィスが? お笑いの才能に目覚めたの? まぁいいわ。そんなことより探したのよ、トラ」
地味に名前を略された。
「僕に何か用?」
「あんたが≪渚の剣≫をクビになったと聞いたわけ。あんた、最高に運がいいわよ」
「うーん、いまのところそうは思えないなぁ」
するとクローイは、己をビシッと指さした。自信に満ちた笑顔。
「あたしもギルドをクビになったから、あんたと組んであげるわ。ね、最高に運がいいでしょ?」
「ふーん。どうしてギルドをクビになったの?」
クローイは無念そうに首を振り、
「金庫室の中で見つかったのがいけなかったわぁ」
つまり、ギルドの金庫室に盗みに入ったのかぁ。
それはクビになるわけだ。
「じゃ、クローイ。これからよろしくね」
「オーケー、トラ。よろしく~」
僕たちは握手した。
やっぱり名前を略されてた。
気に入って頂けましたら、ブクマと、この下にある[★★★★★]で応援して頂けると嬉しいです。励みになります。