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2,さらなる追放。

 


 思いがけずパーティから追放された翌日。

 集合住宅の我が家から出ると、お隣に住む冒険者クローイと遭遇した。


「おはよー、トラヴィス」


 クローイは同世代の冒険者で、空色の髪をツインテにした美少女。

 冒険者のクラスは盗賊。


 この場合の盗賊って、盗賊的なスキル保有者──という意味。

 なのだが、クローイは実際に手癖が悪い。パーティ・メンバーの財布をるのが趣味みたいな厄介者。


 先日もどこかのSランク・パーティから追放されたらしい。それでもクラウドコントローラーとしての腕は一流だから、すぐに次のスカウトが来るらしいけど。


「僕もパーティから追放されたよ、昨日」


「じゃ、あたしたち追放された同士じゃん。やったわね、トラヴィス」


「まさか僕が追放被害に遭うとは──君なら分かるけど」


「あのね、追放被害って事故と同じで、当事者になって初めて分かることってあるからね。追放されるプロのあたしが言うのだから、間違いないわよ」


「追放されるプロって……そこ、誇らしげに言うとこかな」


「で、今後はどうするの?」


「冒険者として活動は続けるよ。それが仕事だし。昔から言うだろ、働かざるもの食うべかざると」


≪来航の善≫で受けたクエストの報酬は、メンバーで均等に分けられていた。その貯えが残ってはいる。とはいえ、ここ王都の家賃は高いから。正直、余裕はない。


 しかし──いま思うと、ボーンからお金を受け取るときピンハネされていたのでは? 僕を『重荷』と考えていたならありえそうだ。

 まぁ今更言っても仕方ない。


「あたしが聞いたのは、新しいパーティの当てはあるの、という意味よ?」


「今のところはないよ」


「所属ギルドに仲介してもらうの?」


 ギルドに属していれば、自分に適したパーティを紹介してくれる。これが一流の冒険者だと、ソロになったとたん引く手数多なんだけどね。

 とにかく仲介を頼むのも、僕は乗り気じゃなかった。そもそも≪来航の善≫というパーティが、ギルドに紹介してもらったわけだし。


「次こそは、僕のスキルを理解してくれるパーティを紹介してくれるだろうか」


「トラヴィスのサポートスキルって、えーと、《ケチケチ》?」


「節約はケチケチじゃない」


 どうやらクローイも、《節約エコノマイズ》の凄みを理解できていないらしい。

 ただこれは仕方ないかも。《節約エコノマイズ》がどれほどパーティを強化するかは、実際に体験してみないと分からないのだから。

 ……そして中には、体験しても分からないという残念な人たちもいる。


 それにクローイとはギルドが違うので、パーティを組むことはない。

 複数ある冒険者ギルドが覇権争いしているのは、僕たちのような末端冒険者には傍迷惑な話だ。


「とりあえずギルド本部に行ってくるよ」


「それがいいよ。じゃ、またね~」


 クローイと別れた僕は、所属するギルド≪渚の剣≫へ向かった。

 さっそく受付に、新しいパーティを紹介してくれるよう要請。


 この時点では、乗り気ではないとはいえ楽観はしていた。

 アタッカーやタンクに比べて、ヒーラーやバッファーは数が少ない。

 つまりギルドとしても、僕はそれなりに貴重なわけ。ちゃんと次のパーティへの仲介を行ってくれるだろう、と。


 ところが──。


 受付さんは記録球で照会。記録球はマジックアイテムで、ギルド所属者の情報などがインプットされている。

 すると愛想の良かった受付さんの顔が変わった。


 赤い髪の、可愛らしい受付嬢さんだが──


「申し訳ございません、トラヴィス様。新しいパーティを仲介することはできかねます」


「え、なぜです?」


「トラヴィス様はすでに、≪渚の剣≫に所属されていないからです」


「あの……繰り返しますけど、なぜです? 僕はギルド脱退の書類にサインした覚えはないんですが」


「まことに申し上げにくいのですが──」


 と言葉では言いつつも、受付さんは躊躇いなし。同情の欠片もなし。どこまでも事務的に処理する。それが受付さん。


「トラヴィス様は、≪渚の剣≫を追放処分にされましたので」


「……………まって。なぜに?」


 ギルド追放は、余程のことがないとされない。僕が知る限りじゃ、クエスト中に臆病風に吹かれたタンク。またはパーティ・メンバーにセクハラした奴くらい。


「僕の追放理由は?」


「まことに申し上げにくいのですが──」


 ここで受付さんは、なぜか営業スマイルをした。


「追放理由は『戦力外』とのことです」


「……戦力外」


「『戦力外』という言葉がお気に召さなかったのでしたら、『無能』ではいかがでしょうか?」


 まって。この受付さん、ドSだよね。

 何となく受付台の名前プレートを見た。名前はリビーか。


「リビーさん。どういう経緯で、こんなことに?」


 簡単な話だった。

≪来訪の善≫から『トラヴィスは戦力として計算できない』という意見書が、上層に送られたのだという。


 ただ意見書だけで一発追放するには、条件が3つ。

 1,5人以上のパーティ規模であり、2,100日以上パーティとして共に活動し、3,全員の署名が入っている必要がある。

 今回は全ての条件がそろっていたので、僕は追放処分。


 かくして、僕は無所属の冒険者となってしまった。


 はじめはショックだったが、≪渚の剣≫を出てしばらくすると考えも変わった。

 もともと僕は、どこかのギルドに所属するのに向いていなかったのだ。これからはフリーランスとして、自由にやっていこう。


 ただ僕は骨の髄までバッファー。戦闘自体はできないので、戦ってくれる仲間が必要だ。

 じゃ、まずはアタッカーの相棒でも探そうか。




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