17,ロッコ洞窟へ。
「≪エコの王≫に入ってもらうということで──まずは会費をいただきます」
と僕が切り出すと、チェルシーがどん引いた。
「アニキ! 会費って、そんな殺生な話がありますか!」
「あります。ここにあります。あのね、チェルシー。ギルド登録に向けて、≪エコの王≫メンバーは5万クレジットを払う決まりなんだ。僕も払った、クローイという仲間も払った。だから君も払うんだ」
チェルシーは財布を取り出し、逆さにして振った。ハエしか出てこない。そしていい笑顔。
「空っぽでーす」
「……」
僕たちがいるのは〔莫迦と金づる亭〕のボックス席。
遅めの朝食を取りながら、今後の話し合いを行っていた。
もう1人の出席者であるリビーが5万クレジットを出す。
「う! さすが姐さん、そんなアッサリと出すなんて──」
「ギルドスタッフは高給取りでしたので。それとチェルシー様。姐さん呼びはおやめください」
「じゃあチェルシーの分は僕が出しておくから。いつか返してよ」
「あー、それはダメですよアニキ! 友達から借金だけはするなと、故郷のおっ母の教えです。仕方ないですね。へそくりを出しますよ、出せばいいんでしょ出せば」
「いや生活が困窮しそうなら、別に今じゃなくていいから。どうせ目標金額500万までは、遥か遠い道のりなんだから」
「クローイという方が、クエストを取りに出かけられているのでしたね」
「そうだよ、リビーさん。クローイに任せておけば大丈夫──」
一瞬、僕の脳裏を懸念がよぎる。
リピーとクローイって、何だか性格の相性悪そう。
いやいや、きっと仲良くなるさ、大丈夫。
「こほん。というわけで、次の議題に移ろうか。クローイが戻るまでまだ時間がある。だから僕たち3人で、試しのクエストをやってみたらどうだろう。リビーさんは実戦の感覚を戻すために。チェルシーは経験値を積むために。連係も見たいしね」
「手配師に頼まれるのですね?」
そこらへんのこと、リビーはよく知っている。
一方チェルシーは不思議そうなので、僕が説明した。
「アニキ、手配師のクエストでもクリアしたら、アタシは冒険者になれるんですか?」
「えーと、どうなんだろうねリビーさん?」
「手配師によるものでも合法なクエストでしたら、冒険者証は受け取れます」
非合法クエストというと、ようは犯罪のことだ。貴族の家から金品を盗むとか。
気の早いチェルシーがガッツポーズを取る。
「ついにアタシも冒険者になるときが来たんですね!」
リビーはサンドイッチを齧りながら、冷ややかに言う。
「替えの下着はお持ちになったほうが良いですよ、チェルシー様」
チェルシーが僕を恨めしそうに見る。
「バラしたんですねー、アニキぃ」
「いやバラしてない。僕は無実だ」
「チェルシー様。あの朝は冷えましたので──湯気がたっておりましたよ」
★★★
その後、僕たちは手配師ガウトの武具店に向かう。
ガウトは僕の顔を見るなり、尋ねてきた。
「クローイの奴はどこに行ったんだ?」
「えーと。ちょっと所用で王都の外まで」
クエスト交渉のため商業都市ランセまで行ったことは、一応は隠しておこう。
ガウトはどうでもよさそうに鼻を鳴らした。それから《情報開示》を発動。
「お前さん、ロッコ洞窟には行ったことあるか?」
「ありますよ、≪来航の善≫時代に。第5深層までですけど。鋼鉄蜘蛛が手ごわいんだ」
「ああ。だがそいつが出るのは第3深層から下だ。今回は第2深層に生息している昼鋼草の採取クエストだ」
「手ごろなクエストですね、ありがたい」
「ああ何でも先日、どこかのBランクパーティがしくじったらしくてな。昼鋼草の採取のはずが、欲を出して第3深層まで降り、夜鋼草を狙ったそうだ。
そしたら鋼鉄蜘蛛に遭遇してやられたらしい。で、再クエストがオレのところに回ってきたってわけだ。お前さんは変な欲は出さねぇだろうな?」
「安全第一が≪エコの王≫の信条ですよ」
というわけで採取クエストを受注。
僕たちは準備を整えてから、ロッコ洞窟へ向かった。
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