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15,アタッカー。

 


「あぁっ! なんか斬新なイメージが浮かんできましたよ、アニキ!」


「そのイメージに逆らわず乗っかるんだ。そうすればスキルを会得できる──」


 リビーは、ウォーハンマーを振り上げたところで──まだ動き出していない。

 スキル実行に時間がかかるので助かった。

 そうでなければ、チェルシーは間に合わなかっただろう。


「《爆裂撃》!」


 ついにリビーの攻撃スキルが実行される。

 対するチェルシーが会得した、タンクならではの防御スキルとは──


「《挑発》ですっ!」


 ……

 …………

 ………………いや、ここで《挑発》はないよね。

 確かにタンクならではだけども。


 僕はチェルシーの襟首をつかんで、自分の後ろへと引っ張った。

 かわりにリビーの《爆裂撃》と対峙。


 インパクトまでコンマ数秒。

 当たったら死ぬ。《ダメージの節約》では足りない。

 いま必要なのはバフではなく、デバフ。


 リビーを【エコ領域】に登録。

 同時に、リビーの『敏捷性を節約する』。

 つまり『動作を遅くさせる』。《遅鈍スロウ》と同じ効果だ。


 これまで【エコ領域】の節約はプラスに働くよう設定されていた。

 だが敵に対する【エコ領域】は、マイナスに働くように設定できる。

 バフとデバフを好きに切り替えられるのが、《節約エコノマイズ》の凄みだ。


《爆裂撃》の動作が一気に遅くなる。

 僕は余裕をもって後退し、回避した。


《爆裂撃》を解除したリビーが、ウォーハンマーの先端を大地に付ける。


「……わたくしの負けですね」


「いやルール的には、こっちの負けだよ。リビーさんの3撃目は受けずに回避してしまったわけだし」


「いえ、あそこまでお膳立てが整っていながら回避されるとは──やはり、わたくしはアタッカー失格ですね」


「そんなことはないよ。リビーさんの攻撃力は、Aランクパーティのアタッカーだって務まる」


 リビーは自嘲する。


「わたくしに致命的な欠陥がなければ、の話でしょう」


「いやそれは──」


「では、わたくしはこれで。出勤時間が迫っていますので」


 リビーは歩き去ろうとしたが、ふと立ち止まって、


「トラヴィス様。昨夜のご無礼をお許しください。どうやら≪来航の善≫は──そして≪渚の剣≫は大きな過ちを犯したようですね。

 あなたのサポートスキルは前例を見ません。あなたこそ、Sランクパーティのバッファーをも務まるでしょう。ギルド登録が成功することを祈っております」


「リビーさん。ウチのパーティには今、アタッカーがいないんだ。是非ともリビーさんに務めてもらいたい」


「ご冗談を。わたくしなど仲間にしても足手まといになるだけです。わたくしの敏捷性マイナスには、お気づきでしょう?」


「僕の《節約エコノマイズ》なら、リビーさんの敏捷性マイナスを相殺できるよ」


 しかしリビーは首を横に振って、


「これは生まれながらの呪いのようなものです。誰の力でも無くすことはできません。では失礼いたします」


 リビーが歩き去るのを見届けてから、僕はチェルシーを見やった。

 どうしてか、いまだに尻餅をついたままだ。


「どうしたのチェルシー?」


「アニキ……腰を抜かしちゃいました」


「気にすることはないよ。あんな迫力のある攻撃スキルを前にしたら、腰くらい抜かすさ。これから経験を積んでいけば、敢然と立ち向かえるようになる」


 するとチェルシーは涙目で、


「……あと漏らしちゃいました」


「……そうか…………どんまい」



 ★★★



≪エコの王≫のアタッカーは決まった。

 少なくとも僕の中では決まったのだけど、当人が了承してくれていない。

 さて、どうやって説得するものかなぁ。


 などと悩んでいたら、商業都市ランセに行っているクローイから手紙が届いた。

 大きなクエストを受注するため、まだ数日はかかりそうとのことだ。


 手紙の最後には、


『もうアタッカーはゲットしていると思うので、ガウトに仲介してもらって、近場のクエストでも攻略していてね』


 とあった。

 まだ仲間になってないよ、≪エコの王≫のアタッカーは。


 その午後。

〔ゴダール〕でコーヒーを飲んでいたら、ご近所のルイ夫婦に声をかけられた。

 しばらく雑談していると、旦那さんがプロポーズしたときの話になった。


 最初、奥さんには親が決めた婚約者がいて、その人と一緒になる予定だったらしい。そこを旦那さんが乗り込み、婚約者の前でプロポーズしたのだとか。

 大胆なことをする人もいるものだ。


「僕もやってみようかな。いやプロポーズじゃないですけど、似たようなことを」


〔ゴダール〕を出た僕は、まっすぐ≪渚の剣≫本部へ向かった。

 本部内に入り、受付嬢の前に立つ。


 リビーは驚いた顔で僕を見た。


「どうされましたか、トラヴィス様?」


 僕は片手を差し出した。


「リビーさん。僕たちにはあなたが必要だ。どうか、≪エコの王≫のアタッカーになってほしい。僕と来てほしい」


 周囲にいた冒険者やスタッフが、見世物でも始まったという顔で集まってくる。

 その中に、ライラの顔があった。≪来航の善≫で元気にやっているのかな。


 リビーは困った様子で、


「トラヴィス様。何度も申しますが、わたくしは──」


「冒険者にまだ未練があるから、あなたはウォーハンマーを手放していないんだ」


 リビーはハッとした顔で、僕を見返す。無意識のことで、当人も気づいていなかったらしい。この瞬間までは。


「返事をもらえるリビーさん?」


 リビーはやがて決意した表情で、僕の手を取った。


「わたくしでよろしいのでしたら──はい、喜んで」




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