1,追放。
パーティ全員に集合がかかった。
僕は一足先に集合場所≪骨休み亭≫の席にいて、エールを飲んでいた。
集合の理由は察しがついている。
ついにうちのパーティも流行りの追放をする気になったのだろう。
となると誰が切られるのだろうか。
まずうちのパーティ≪来航の善≫は、6人構成。
アタッカーが2人、タンク、ヒーラー、バッファー、クラウドコントローラーが各1人ずつ。
どの役割の者がクビになる?
消去法で見てみよう。つまり大事な役割から除外していく。
まず僕が担当するバッファーはどうか?
僕が唯一使えるスキルは、僕だけのユニークスキル《節約》。
これはパーティ全体を【エコ領域】にすることで、全てを節約してくれるチートスキルだ。
たとえば、消費MPを節約する。80消費する魔法だったら、【エコ領域】では30くらいで済む。
敵から受けたダメージだって、節約できる。通常なら致命傷レベルでも、【エコ領域】では軽傷で済むのだ。『ダメージ量を節約する』ことで。
一方で、ヒーラーによる回復効果も節約されてしまうのでは? という心配もあるだろう。
だけど【エコ領域】では、全てはパーティにプラスの形で節約される。
よって回復魔法の場合は、『回復するために必要な回復魔法を節約』できる。
つまり簡単に言うと、【エコ領域】の中では負傷が回復しやすい。当然、ヒーラーへの負担は少なくなる。
うーむ。自画自賛になってしまうけど、補助系のスキルとしてはチートクラスでは?
みんなも頼もしく思っていてくれているはずなので、僕が切られることはないだろう。
なら誰だろう?
まずヒーラーはパーティに不可欠だ。
ではクラウドコントローラーはどうだろう?
敵への妨害があれば戦術も立てやすいので、とりあえず切られることはないか。
残るはアタッカー2人とタンク。
アタッカーの1人であるボーンは、パーティ・リーダーなので追放はない。というか追放するほう。
となると、ボーンでないほうのアタッカーの騎士ダンか、タンクの盾使いジョー。
2人ともいい奴なので、できればクビになって欲しくない。
とはいえ、『追放』されるとしたら、この2人のどちらか。
アタッカーは最悪1人いれば十分だし。タンクも、【エコ領域】がそもそもダメージ軽減効果があるので、とくにいらない。
残念だ。
彼らが追放宣告を受けるとき、僕はどんな顔をしていればいいのだろうか。
10分後にはパーティ全員が揃っていた。
ボーンは単刀直入な性格。さっそく切り出してきた。
「実はな、今回集まってもらったのは他でもない。このパーティに不要な奴を追放処分することにしたからだ」
追放あるあるに入った。
たいてい追放される奴は、その時まで『不要の烙印』を押されていることに気づかないものだ。
僕は同情の眼差しで、ダンとジョーを見た。
するとダンとジョーも僕を見ていることに気づいた。こっちは憐れみの眼差しで。
ボーンが言った。
「というわけだ、トラヴィス。お前には悪いが、≪来航の善≫から去ってもらおう」
トラヴィスとは、僕のことだ。
うーん。この展開は予想していなかった。
いや、これもまた追放あるあるかぁ。
まてよ。ということは、ボーンたちは僕の《節約》の有難さに気づいていなかった?
そんなことありえるかな?
「念のため聞くけど、なぜ僕が追放?」
ボーンたちは互いに顔を見合わせた。そこには『コイツ、理解できてねぇのかよ』という軽侮が感じられた。
代表してボーンが言う。
「あのな。お前はバッファーなのに、オレたちの攻撃力を強化することも、武器に属性を付加することもできねぇだろ」
「ちょっと待って。攻撃力や防御力の強化は、ちゃんとやっているじゃないか。確かに一般的なバッファーのやり方とは少し違うかもしれないけど」
《節約》の効果で、結果的には攻撃力UP・防御力UPになっている。
ダメージを受ける量を節約する→防御力UP。
敵を倒すまでの攻撃の数を節約する→攻撃力UP。
するとボーンが溜息をつく。
「お前の《節約》っていうスキルか? あれな、何の意味があるんだ? 半年間、試しにお前を使ってきたが、何のプラスになったのか分からん」
すると他のパーティ・メンバーも同意でうなずいた。
ダンとジョー(さっきまで同情するはずだった相手)が言う。
「節約して、どーして攻撃力UPになるんだよ? 攻撃力が減るだけじゃね?」
「そうだ。それによ、防御力を節約したらダメージが増えるだろ」
眩暈がしてきた。
この人たち、《節約》の原理を理解できていないのか!
おかしいなぁ。前にちゃんと説明したはずなんだけど。信じたくない。信じたくないけど……おバカ、なのかな?
「けど──マイナスだと思っていたなら、どうして僕を半年間も同行させていたんだ?」
ボーンが言いにくそうだ。
その代わりに、クラウドコントローラーの灰魔導士ビーバが言う。嘲笑いながら。
「てめぇという『重荷』を同行することで、効率よくパーティのレベルを上げていたんだろうが」
「もしかして──この半年間、難易度の低いダンジョンばかり攻略していたのは、そのためだったの?」
「ま、そーいうことだ。だがオレたちもレベルを上げたからな。お前という『重荷』を無くしたことで、どれだけの力を発揮できるか今から楽しみだぜ」
「あのさ。あまり難易度の高いダンジョンには、いきなり挑まないほうがいいよ」
僕の【エコ領域】を失えば、≪来航の善≫の全体戦力がダウンするのは確実。
そんな状態でヤバめのダンジョンに入ったら、全滅は確実。
一応、忠告はしておこう。
これで最後の役目は果たした。
僕は席を立った。
だが立ち去る前に、何か言い残していこう。
「あのさ、節約は大事だから」
カッコ良く決めたつもりだったが、返ってきたのは大爆笑だった。
もしかして僕は、ずっと陰でバカにされていたのか。
徒労感。
この半年間の僕の貢献はなんだったんだ、まったく。
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