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第十六話:試練の間⑥

「粉々に潰したと思ったのですがねぇ……。一体どんな能力(スキル)を使ったのです?」



 ダンテが私を険しい目で睨みつけながら言う。

 

 そんなダンテの態度を見て、私は首を傾げながら不思議そうな顔で答える。



「……? 君は、私が能力(スキル)を使ったように見えたのかね?」



 そんな私の馬鹿にしたような態度を受け、ダンテは怒りに顔を歪ませ、大きく肩を震わせる。


 そして、先ほどよりも速い速度で拳を振るい、その豪腕で殴りかかる。



「教える気がないのでしたら! もう一度化けの皮を剥ぐまでです!」



 ダンテの鋭い拳が私の身体を殴り潰し、クレーターをさらに広げる。


 グシャリ、と肉が弾ける音が鳴ると、ダンテが拳を上げた跡には先ほども同じ血溜まりが残っていた。



「それで終わりかね?」



 肩に立った私が耳元で語りかけると、ダンテは驚いた表情でとっさに自身の肩を殴り飛ばす。



「残念ながら、それは私ではない」



 頭上に立った私が足元にいるダンテへと杖を向け、魔術を発動させる。



「<黒雷球(トニトルス)>」



 小さな黒い塊が杖から放たれ、バチバチと放電しながらダンテの頭の中へと入っていく。



「ギ、グガガガガガガガガガァァァァァァ!!!」


 

 バチン、と破裂するような小さな音が鳴ると、ダンテの全身を黒雷が蝕み、その身体に蛇が這ったような痣をつけていく。



「ギィ…ザマァァァァァァァァァ!!」



 黒雷に蝕まれたダンテが上空に浮遊する私を掴み、そのまま地面へと叩きつけようとする。



「<強制変成(メタモルフォース)>、<人身交換(エクスチェンジ・ワン)>」



 私は近くにいた巨人の一人を変成させ、私の姿と同じに変える。

 そして影武者となった巨人と自分の位置を交換し、私はダンテの手から離脱する。



「君のママゴトに合わせた単純な手だがね。こういう絡め手は脳筋には有効だ。……サー君から逃げるときに、ベル君に向けて良く使っていたよ」



 私は肩をすくめながら、おどけた様子でダンテに言う。


 黒雷に焼かれ、身体中爛れているダンテがこちらを睨み、忌々しげに口を開く。



「……小賢しい。小物の知恵というのは本当に虫唾が走りますねぇ。タネが割れてしまえば、そんな小細工なぞ怖くはないのですよ!」



 ダンテが咆哮をあげ、周囲の魔力が乱されていく。

 

 ……ふむ、魔術封じの呪いをもつ咆哮か。

 確かに私の体内の魔力が乱され、思うように魔術が発動できなくなっている。



「これで小細工は封じました。もうあなたに逃げ場はありませんよ!」



 残った巨人達が私の方へ迫り、一斉に拳を振るってくる。


 私は巨人達の方へ身体を向け、彼らへと持っている杖を突きつけ禍々しい魔力を解放する。



「────<魂強奪(ソウルテイカー)>」



 私は自身が使える魔術の中でも、最も得意とする魔術を使用する。


 私の方へ迫っていた巨人達が一瞬で事切れ、その巨体が地面へと倒れていく。



「ば……馬鹿な! 何故魔術が使える!? それに、その魔術はなんだ!?」



 ダンテは一瞬のうちに巨人達が葬られたのを見て、驚愕の声を上げ後退する。


 私はそんなダンテの方を向き、烏面を歪ませながら答える。



「君の魔術封じの呪いは、ちゃんと発動しているとも。だが……私を誰だと思っている?」



 私は自身の悪魔の翼を広げ、黒コートをたなびかせながら言う。



「地獄の大君主────悪魔の王たる私に、その程度の呪いが通じるわけがないだろう」



 その言葉を聞き、ダンテがピタリと動きを止める。

 


「……悪魔の……王……だ、と……?」



 私の言葉に動揺したダンテが、恐怖に顔を歪ませながらこちらを見る。


 その間にも周囲を囲うようにしていた巨人達はすべて魂を抜き取られ、私の手の中へと収まっていく。



「何をそんなに驚いている? この世界にも、悪魔はいたはずだが……」

 


 私は最初に出会ったヤギのような悪魔を思い出しながら言う。


 いや、あれは悪魔だったのだろうか。

 悪魔にしては知性も少なく、弱すぎたように思えたからな……。


 そんなことを考えていると、ダンテがこちらを弱々しい目で覗いてくる。



「魂を操る力……あなたは、もしや……悪魔王なのですか……?」


「……悪魔の王かと聞かれれば、そうだ。私は大罪を司る七君主の一柱。強欲の悪魔、マモンだ」



 私の言葉を聞き、ダンテが額から汗を流しながらこちらを仰ぎ見る。


 先ほどの傲慢な態度が嘘のように怯え始め、私の烏面をおどおどと覗いてくる。



「ま、まさか……マスターと同じ、悪魔王だとは思いませんでした。ご、ご無礼を謝罪致します……どうか、お許しを……」



 巨人の姿のままダンテが恭しげに頭を下げる。


 私は唐突な態度の変化に内心驚きながらも、ゆっくりとダンテの顔を見下ろして口を開く。



「ふむ。……マスターと言ったな。その悪魔の名は?」



 私が普段あまり出さない低い声で話すと、ダンテはその大きな肩を震えながら、頭を深く下げて答える。



「も、申し訳ありません……。マスターの名は、存じ上げないのです。ほ、本当です!」



 私は怯えているダンテを見ながら、元の世界にいた頃の他の悪魔達を思い出す。


 ……そのマスターとやらが何者なのかはわからないが、私のいた世界の悪魔達だと考えるのは早計か。


 この世界の悪魔にも、王と呼ばれる存在がいるのかもしれない。



「……そうか。なら、用済みだな」



 私はゆっくりと左手をかざし、ダンテの方へと向ける。



「ま、待ってください! 私はこの階層をマスターより任されているのです! 私を殺せば、マスターと敵対することになりますよ!」



 怯えた様子で言うダンテに向かい、私は烏面を傾げながら平然とした様子で答える。



「……ふむ。なら、丁度いいな。そのマスターとやらを探す手間が省ける」


「ど、どうかお待ちを────ガァァァァァァ!!」



 そう言って私は左手から影の手を飛ばすと、ダンテの心臓を貫いていく。


 そしてダンテの魂を取り出すと、私の手元へと引き寄せる。



「待てだと? ……君はあの子になんて言っていた?」



 私はダンテの魂を掴みながら、地獄の底から発せられたような低い声で言う。



「……あの子を痛めつけると、そう言っていたな? 私のイズ(もの)に、傷をつけると。────そう言っていたな?」



 ダンテの魂が震えるように揺れ、苦痛と恐怖の感情が私の中へと流れ込む。



(痛い痛い痛いぃぃぃぃぃぃ!! どうか、どうかお許しをおおおおおお!!)



 私はその負の感情を心地よく感じながら、ダンテの魂を徐々に握りしめていく。



「許せるものか。私は、私のものを誰にも奪わせない。……だからこそ、私は全てを求めるのだよ」



 パキンッ。


 粉々に砕け散ったダンテの魂が、キラキラと闘技場へと舞い落ちていく。


 私はそれを眺めながら、自身が言った言葉を思い出す。



「…………ふむ。これでは、完全に保護者だな……」






 私はアリーナからこちらを見上げるイズを横目で見て、アメラとの会話を思い出し、烏面を顰めながらゆっくりと彼女達の元へ降りていった。



 


 

 

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