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第十話:王都地下迷宮⑦

 私がアリーナ内を調べていると、唐突にこの階層内からイズ達の気配が消えたことを感じた。

 彼女達は観客席のある建物内を調べていた筈だったが、何かあったのだろう。


 私はアリーナの調査を一旦止めアメラの方を向くと、真剣な表情で口を開く。

 


「……イズ達の気配が消えた。ここの調査は一旦中止だ。彼女達の救出に向かう」


 

 私の言葉に一度頷いたアメラは、手に持っていた大きな瓦礫を床に投げ捨て、淡々とした口調で答える。



「了解しました、悪魔(ごしゅじんさま)。それで、場所はわかっているのですか?」


「いや、この第二十階層の外に出て行ったことしかわからない。消え方からして、恐らく転移だろう。……これから彼女達が消えた場所まで向かう。君も来てくれ」



 そう言って私はアメラの肩に触れ、彼女達が消えた場所へと転移魔術────魔法を起動させる。



 イズには特殊な探知魔術をかけているため、同じ空間に入ればどこにいようとも探れる。

 恐らくイズを探知できない理由は、迷宮が一定の階層を超えたら空間ごと切り替わる仕組みだからだろう。

 

 となると、最悪かなり深層まで転移したことも考えられる。

 迷宮内での死が、魂にどのような影響を及ぼすか不明な以上、急いだ方が良い。



 魔法が発動し、場面が地下室へ切り替わると、後ろで立っているアメラが私の顔を見て声をかける。


 

「……転移とはいつになく焦っていますね、悪魔(ごしゅじんさま)。……あの子が心配ですか?」

 

 

 周囲を警戒した様子で素早く見渡しながら、彼女が言う。

 

 私は目の前にある石扉を調べながら、彼女に背を向けたまま答える。



「……別に、あの子が心配なのではない。私が心配なのは、あの子の魂だよ」



 私がそう言うと、アメラは小さく溜息をつきながら石扉に近づいて呟く。



「その扉は、“試練の間”というものです。迷宮内で次の階層へ続く階段を守る部屋、といったところでしょうか。一度試練が始まったら、挑戦者が死ぬか試練が終わるまでは、誰も入ることはできません」



 アメラがそう言いながら石扉に触れ、調べ始める。

 


「……やはり、試練が始まっていますね。彼女達が死ぬか、試練が終わるまで出ることはできないでしょう」



 彼女の淡々とした言葉を受け、私は目の前の石扉に触れながら静かに目を閉じ、探知魔術を発動させる。

 


 しばらく真剣な表情でその場に立ち止まっていると、やがて持っていた杖を一度カツンと鳴らし、烏面をアメラの方へ向けてゆっくりと口を開く。



「……この空間の記憶を探った。サキ君の言葉によると、第七十五階層へと続く試練の間とのことだ」



 私の言葉を聞いたアメラが、目を逸らしながら言いにくそうに答える。


 

「……それがわかったところで、試練が終わらなければ中へは入れません。それが迷宮の理なのです。……たとえ転移の魔法でも、中へは入れません」



 珍しくしおらしげな彼女を前にして、私はくつくつと怪しげな笑みを浮かべながら、烏面を歪めさせる。


 そして再び石扉の方へと向き直り、左手を描かれている絵に添えながら言う。



「────そんなものがここの理ならば、私が全て奪い獲るまでだ」



 そう言って、私は消えたイズ達のことを考えながら、闇よりも深い漆黒の翼を広げた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「…………ここは……」


 目が覚めると、私達が最初に入ったアリーナのような場所で横になっていた。

 隣ではイズちゃんが苦しげな声を上げながら気絶している。



「イズちゃん! 大丈夫!?」



 私は倒れているイズちゃんに近寄ると、そっと肩を揺すって声をかける。


 転移は子供の身体に悪影響を及ぼす可能性があると聞いたことがあった。もしかしたら彼女の身に何かあったのかもしれない。


 心配そうにイズちゃんを覗いていると、やがて彼女はゆっくりと目を擦りながら、身体を起こし始める。



「……うーん。どこですか、ここ。……あれ、師匠は……」

 


 寝ぼけた表情で周りを見渡すイズちゃんを見て、私はほっと一息をつきながら声をかける。



「どうやら私達はここに転移させられたみたいなの。身体は大丈夫? どこか具合が悪いところとかない?」


「えと、大丈夫です! 転移酔いに耐性がつく魔道具を師匠から預かってますから!」



 明るい笑顔を向けながら私を見てイズちゃんが言う。

 その様子に安心しながら、私は今の状況を確認していく。



「……ここは私達がいたアリーナに似ているけど、こっちの方が新しく造られたみたいね。老朽化して崩れた跡がないわ」



 観客席の方を見ると、綺麗に整えられた石床と外壁が並んでいた。

 空席だった椅子には石像のようなものがズラリと並んでおり、嫌な視線を感じさせる。

 

 アリーナも塵一つないほど磨かされており、手入れが行き届いている印象を受ける。

 誰かがここを管理しているのは間違いないだろう。



「恐らくここは、第七十五階層に行く────」


「やって参りました、挑戦者ーーー!! いやいや、久しぶりの挑戦者に小生も興奮しております!!」



 チリーン。

 何処からか鈴のような音がアリーナに響く。

 突然の声に驚いて上を見上げると、観客席の奥にある特等席の中で、マイクを片手に持った男が声を張り上げていた。

 オールバックの長い黒髪に青白い肌をした、目に隈がある不健康そうな男だ。


 男はそんな私達の方を見てニヤリと笑うと、マイクを口元にあてながら声をあげる。



「ようこそおいで下さいました。小生の名はダンテ。この試練の間を守護する門番でございます」



 一礼しながら話しかけてくる男を見て、私の頬に冷たい汗が伝う。

 

 ……やっぱり、ここが第七十五階層へ行くための試練の間か。

 最悪だ。となるとこいつを倒さない限り、ここを出ることはできないだろう。


 私が警戒しながら不健康そうな顔をした男───ダンテを見つめていると、彼は不気味に微笑みながら口を開く。

 


「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。久しぶりのご客人です。いやいや、丁重にもてなすに決まってるじゃありませんか」



 特等席から私達を見下してくるダンテを注意深く観察しながらも、私は辺りを見渡して逃げられそうな場所を探す。


 後ろにいるイズちゃんは不安そうな顔をして、短杖を握りながらダンテの方を見上げている。



「いやいや、逃げられませんよ。この部屋からは小生の許可がない限り出られません。それよりも、ひとつ小生とゲームをしましょう」



 ダンテと名乗った男が私達の方を見下して、ニヤニヤと笑いながら言う。

 私は男の動きを警戒しながら、続きを言うように促す。



「ルールは簡単です。これから挑戦者である貴方達には、この闘技場で小生の下僕と戦ってもらいます。見事撃破した暁には、この階層から帰してあげましょう」



 大仰な身振りで宣言するようにダンテが言う。

 私は訝しげな目を男に向けながら、腰の剣から手を離さずに声をかける。



「……私達がそいつに勝てば、ここから出してくれるのね?」


「ええ、約束しましょう。ついでに地上へ送ってあげても良いですよ?」



 男の言葉を受け、私はその場で考えるように立ち止まる。



 ……嘘である可能性の方が高い。

 だけど、状況は絶望的だ。かつての神金級(オレイカルコス)冒険者でさえ勝てなかった敵とまともに戦って、私が勝てる訳がない。


 そして奴が現れたとき、《異能を呼ぶ鈴》が鳴っていた。

 つまりあいつは何らかの能力(スキル)が使える筈だ。

 それなら、奴が用意した敵と戦う方がまだ勝算はあるだろう。

 

 ……能力(スキル)がない私に、勝てるだろうか。

 隙をついて、自分だけでも逃げるべきではないだろうか。


 ……いや、私は彼にあの子を守ると約束したのだ。

 逃げることはできない。



 私は後ろにいるイズちゃんの方をチラリと覗き、やがて意を決した様子で答える。



「……わかったわ。でも、約束して。あなたが用意した敵を倒したら、必ず帰すって」


「しつこいですねぇ。小生の名にかけて約束しましょう。いやいや、勝てればですが、ね」



 そう言って嫌らしい笑みを浮かべたダンテは、闘技場の方へ手をかざし高らかに宣言する。



「さぁ、試合の始まりです! 貴方達と対する小生の忠実なる下僕はこいつだぁぁぁ!!」



 彼が宣言すると、アリーナを小さな影が覆う。


 やがて影が大きくなりアリーナ全体を覆ったかと思うと、何者かが空から飛来して、轟音をあげながら着地する。



「不死身の巨人────盲目のエピアルテス!!」






 そして目の前には、扉の絵と同じ四本の足を持つ巨大な人間────巨人が立っていた。






お読みいただきありがとうございます。

現れる迷宮の番人────


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