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第九話:王都地下迷宮⑥

 観客席がある建物は思った以上に複雑だった。

 入り組んだ階段は崩壊した外壁の瓦礫でいくつか塞がれており、まともに通れる道を探すのも一苦労だ。

 

 イズちゃんと一緒に通れそうな通路を探しては、瓦礫に埋もれて行き止まりになっている道で立ち往生し、引き返している。



「……思ったより老朽化がひどいわね。ここも行き止まりみたい」



 途中から崩落して進めなくなっている階段の前で、私は疲れたように小さく溜息をつきながら呟く。

 そんな私の後ろで辺りを見回していたイズちゃんが、何かに気づいた様子で私の背を叩いてくる。



「サキさん、あれって闘技場の下へ繋がってませんか?」



 イズちゃんが指を差している方向を見ると、瓦礫に埋もれて見えにくくなっているが、確かに下へと続く階段がそこにはあった。


 私はイズちゃんの方を向き、彼女の頭を撫でながら答える。



「でかしたわイズちゃん。崩落の衝撃で壊れたみたいだけど、あれは元々隠し階段だったみたいね。僅かに石床でカモフラージュされていた跡があるわ」



 頭を撫でられて嬉しそうにしているイズちゃんを尻目に、私は来た道を引き返して隠し階段のある方へと歩みを進める。


 その後ろをイズちゃんがぴったりと付いてきて、疑問に思った様子で声をあげる。



「師匠に知らせなくてもいいんですか?」


「先に少し中の様子を確認しましょう。奥が深そうなら一度戻る必要があるけど、ただの地下倉庫かもしれないしね」



 そう言って先に進みながら、私はふとすぐ隣後ろで歩いているイズちゃんの方を振り向き、道中考えていた疑問を口にする。



「……ねぇ、イズちゃん。マモンさんってどんな人なの?」



 私の言葉に一瞬キョトンとした顔をしたイズちゃんだったが、すぐに満面の笑みをこちらに向けて答える。



「師匠はちょっと抜けてるところもありますし、意地悪で、カッコつけたがりですけど……でも、とっても優しいです! 私は師匠のことが大好きですよ!」



 底抜けに明るい笑顔を向けるイズちゃんに、私は優しい笑みを返しながら、彼のことを考える。


 烏面を付けた魔術師、マモン。

 ここに来るまでに何度か魔物と戦ったが、彼の魔術師としての力は底が知れなかった。


 基本的にはイズちゃんのサポートに徹していたものの、彼は襲いかかる魔物を敵として認識していないかのような堂々とした立ち振る舞いで、全て蹴散らしていった。


 何らかの能力(スキル)だろうか?

 だけど、仮に彼が能力(スキル)を所持しているのなら、私が持っている迷宮産の魔道具《異能を呼ぶ鈴》が鳴るはずだ。


 となると、彼が能力(スキル)を与えられなかったという神金級(オレイカルコス)冒険者の話は、やはり本当の可能性が高い。


 

「イズちゃんは彼のことが本当に好きなのね。……マモンさんが魔術師として凄いことはここへ来るまでに分かったわ。……彼は何か能力(スキル)を所持しているの?」



 自然な様子で私はイズちゃんに問いかける。


 冒険者にとって、相手の能力(スキル)について聞くことはマナー違反だ。

 能力(スキル)は場合によっては切り札となるほどの強力な力である。

 

 それが強力であればあるほど、他人にはなるべくどんな力か知られないようにするのが基本だ。


 イズちゃんは駆け出しの冒険者である上に、まだ子供だ。

 冒険者や世間の常識には疎いだろうと聞いてみたのだが……。



「うーん、師匠は能力(スキル)についてはよく分からないって言ってました。私の常識とは異なったものだー、って」


「……そうなのね」



 イズちゃんは特に何も警戒せず、私の質問に答える。

 

 ……やっぱり、彼は私と同じで能力(スキル)を与えられなかったのか。


 彼が単純に魔術師として強いのだろうか。

 ……妹のように、生まれつきの天才なのだろうか。

 

 そんなことを思いながら暗い顔をして歩いていると、私の様子を見て心配そうな顔をしたイズちゃんが声をかけてくる。



「大丈夫ですか? ……わたし何か気に触ることでも言ったでしょうか」



 不安そうにしながらも私のことを心配してくれるイズちゃんを見て、私はすぐに何でもないかのように笑みを返す。



「ううん、何でもないわ。ごめんね、気を遣わせちゃって。ほら、足元危ないから気をつけて」



 そう言って、私はイズちゃんの手を握ると隠し階段の方へ誤魔化すように歩いていく。



 ……自分で自分のことが嫌になる。


 こんな幼い女の子を騙すような聞き方をして、あまつさえ心配させるなんて。


 ほんと、嫌になるわ。



 まだ少し心配そうにしているイズちゃんを連れながらそんなことを考えていると、私達は目的の隠し階段前へと辿りつく。

 


「<風撃(ショックウィンド)>」


 

 私が風魔術で瓦礫を吹き飛ばし、隠し階段の中へ入れるように周りを掃除する。


 イズちゃんが若干つまんなそうな顔をしていたが、こんなところで爆発魔術を使われたら地下施設そのものが埋没してしまう。

 そんな顔をされても困る。



「それじゃあ、中に入るわよ」



 私が先導して足元を確かめるようにゆっくりと階段を降りていく。

 腰にかけていた携帯用ランプを手に持って灯りをつけると、螺旋状に下へと続く階段が見える。


 入り口からでも底が見えるくらいの浅さであったため、イズちゃんに合図をしてそのまま下へ降り続ける。



「……なんだかドキドキしますね」


「油断しないで。罠があるかもしれないから絶対に私より前に来ちゃダメよ」



 好奇心に心を躍らせている様子のイズちゃんを手で制しながら、一つずつ静かに階段を下っていく。

 やがて何事もなく地下へと降りると、目の前には何かの絵が書いてある大きな石の扉があった。



「……うーん、何でしょう。 足が四つある人の絵?」



 イズちゃんが首を傾げながら、訝しげに石扉を見つめて呟く。


 隣で彼女の言葉を聞いていた私は、その扉の前で硬直したように立ち止まっていた。

 額からは嫌な汗が流れ、瞳孔は広がり、息遣いも荒くなっている。

 


「第七十五階層へと繋がる階段がある……試練の間……」



 王都地下迷宮の情報は、この都市に来たときからある程度仕入れていた。

 200年前、神金級(オレイカルコス)冒険者がこの迷宮で息絶えた話も組合長から直接聞いた話だ。


 組合長の話では、途中で引き返したパーティメンバーの手記が残っていたらしい。

 第七十四階層の奥にある試練の間に入ったきり、彼らは二度と帰って来なかったという話だ。

 

 私も組合長にお願いしてその手記を見せて貰っていたのだけれど……その中に試練の間についての記述があった。


 試練の間とは、次の階層へと続く階段を守護する門番がいる部屋のことだ。

 一度は入ったら門番を倒すまで出ることが不可能で、部屋の扉には必ず門番の絵が描かれている。


 今ある迷宮は誰かしらが既に討伐済みのため、実際に門番と戦ったことがある者はごく僅かだ。

 それこそ白銀級(プラチナ)以上の冒険者しかいない。

 私だって、門番と戦ったことなどない。


 ────そして手記には、第七十五階層へと続く試練の間の扉は、四本の足を持つ人の絵が描かれていたとあった。

 その扉は、転移門であるとも。



「サキさん、この扉全然開きません。押しても引いてもビクともしませんよ」



 ハッとして正気に戻ると、イズちゃんが疲れた様子で扉の前に寄りかかるようにして立っていた。



「イズちゃん! 危ないからこっちに来て!」


「え────」



 私が叫ぶと同時に、少女の身体を眩い光が覆う。

 とっさに私は手を伸ばし、光の渦から彼女を引き戻そうとその手を掴む。



「やば────」






 一際大きな光が放った後、地下室には誰もいない暗闇だけが残った。



お読みいただきありがとうございます。

彼女達の行く先は────


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