第八話:王都地下迷宮⑤
「うわぁ……すっごい大きいですね! 師匠!」
目の前の巨大な遺跡群を見て、イズが感嘆の声をあげる。
他の階層と比べてもかなり広めな空間のようで、人間が作ったとは思えないほどの大きな遺跡が辺り一面に建ち並んでいる。
中央には一際大きな円状の遺跡が建っており、朽ちた壁が城壁のように周りを囲っている。
その姿はまるで────
「まるでコロッセオね」
サキが中央に佇む巨大な遺跡を見てボソリと呟く。
ローマ帝政期に建造された円形闘技場、コロッセオ。
私もうろ覚えであるため正確な様相は覚えていないが……確かにそれに酷似しているように思う。
彼女が何故その名前を知っているのかは気になるところではあるが……それは後にしておこう。
古めかしい朽ちた外装とは裏腹に、どこか神聖さを感じさせる闘技場を遠目で観察しながら、この階層に着いたときから感じている違和感を口にする。
「……やはり、あまりにも大きすぎるな」
他の遺跡群もそうだが、その全てが圧倒的に巨大なのだ。
扉にしても階段にしても余りにも大きすぎる。
およそ人間が使用することを考えて造られてはいない。
「竜でも住んでいるのでしょうか。ここまで大きいとなると、人間の遺跡ではないでしょう。周囲に魔物の気配は感じられませんが……」
アメラの言葉に私は頷き、中央にあるコロッセオへと歩みを進める。
カツカツと杖が朽ちた石畳をつく硬質な音が辺りに響き渡り、その音を聞いたサキ達が私の後ろをついて来る。
「ちょっと、先頭に行くのはいいけど危ないわよ?」
「ここまでサキ君には助けられてばかりだったからね。見た限り罠はないようだし、私が先頭を歩こう」
少しは良いところを見せないとね、と呟きながら私は堂々とした態度で歩き続ける。
サキは一瞬不安そうな顔をしたものの、そのまま私のすぐ後ろを無言で付いてきてくれた。
何かあってもすぐに私を助けに入れる位置取りだ。
道中ある程度彼女の人となりは理解したが、やはり根が真面目なのだろう。
駆け出し冒険者である私達のことを常に気にかけてくれている。
イズ達もそんなサキの後ろに並んで歩き、周囲の遺跡群を見て目を輝かせている。
「竜……か。恐らくここは竜ではなく……」
「何か言いましたか師匠?」
私が中央の遺跡を見ながら呟くと、いつの間にか後ろにいたイズがひょこっと顔を覗かせながら聞いてくる。
「……いや、何でもない。……行けば何かわかるだろう」
そんな私の言葉を聞き、不思議そうな顔をしたイズの頭を軽く撫でながら、私達は中央に佇むコロッセオへと足を進めていった。
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闘技場の中は外から見るよりも広かった。
中央にあるアリーナを歩いていた私達は、闘技場内の荘厳な雰囲気にあてられ、思わず息を飲む。
周囲を見渡すと、私達のいるアリーナを1階から4階までぐるりと囲むように観客席が配置されており、まさに見せ物目的として造られたことが窺えた。
その巨大な観客席を見渡したイズが、感嘆の声をあげながら私のコートの裾を引っ張っている。
「師匠! こんな広い建物に入ったのわたし初めてです! これならどれだけ走り回っても怒られませんね!」
そんな風に屈託のない笑顔を向けて言うイズを横目で眺めながら、私はアリーナ内を注意深く観察する。
ざっと見渡しただけではあるが、ただの闘技場跡地のように見える。
使われなくなってから数百年の時が経っただろうことが窺える、古めかしい闘技場だ。
だが、老朽化している見た目に反して、観客席やアリーナには少し前まで使われていたかのような痕跡があった。
サキは迷宮内で階層が入れ替わることがあると言っていた。
……もしかしたらこの迷宮内のどこかで使用されていたのかもしれないな。
「とりあえず、二手に分かれて探索しましょう。危険を感じたら速やかにここに戻ること。組み分けは……そうね。私とイズちゃん、マモンさんとアメラさんでどうかしら?」
サキの言葉に頷く私達だったが、アメラだけは凄く嫌そうな顔でこちらを見てくる。
……いや、私も嫌だよ?
だが迷宮に関してはサキ君の方がプロだ。
彼女にイズを任せた方が安全だろう。
私達二人なら何かあったとしても死ぬことはないだろうからね。
「うむ、それでいこう。私達はこのアリーナをもう少し調べるとしよう。」
「なら、私達は建物内を調べるわ。何か見つけたらすぐに知らせに来て」
私は周囲の観客席を見て目を輝かせているイズを横目で見て、サキにしか聞こえないほど小さな声で言う。
「……イズのことを頼んだよ」
「ええ、わかったわ。……安心して。あなたに代わって、私が必ずあの子を守ってあげるから」
サキは私の顔を見て軽く微笑むと、闘技場に目を奪われているイズを連れて、観客席の方へと歩いていく。
イズが元気良くこちらに手を振り、その姿がどんどん小さくなっていくと、やがて彼女達の姿は建物に隠れて見えなくなった。
「……よかったのですか? あの子と一緒に行かなくて」
建物内に入っていったサキ達の方を見つめながら、アメラが呟く。
彼女の言葉に私は肩をすくめ、おどけた様子で答える。
「私は別にあの子の親ではない。……過度な干渉はあの子にとって、あまり良くないよ」
私がそう答えると、アメラはため息を一つ吐き、いつも通り侮蔑の視線を私に向けて言う。
「……あの子は、あなたのことをそう思ってはいませんよ」
そう言って私を見つめる彼女の視線は、心なしかいつもより柔らかく感じた。
お読みいただきありがとうございます。
メイドの目にも変化が────
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