第五話:王都地下迷宮②
王都地下迷宮は王国建国時から存在する由緒正しいダンジョンだ。
建国期から続く600年の歴史に恥じないその広大なダンジョンは、未だ全てを解明できてはいないほど奥が深い。
王都地下迷宮、第七十四階層。
それが600年にも長きに渡って冒険者達が挑戦し続け、到達できた最終階層だ。
それ以降の階層は未だ未知の領域とされ、誰一人として生きて帰ってきたものはいない。
今では第七十階層以降の攻略を、国が禁止令を出しているほどだ。
その理由は、かつて挑戦した神金級冒険者がそこで息絶えたからだ。
魔族との戦争で人類の守護者と呼ばれる存在である、神金級冒険者の命を失うことは、そのまま人類の危機に直結する。
それ故に、以降この迷宮は第七十階層を最終地点として攻略済みであると、一般的には伝えられているとのことだ。
「────公式では、その神金級冒険者も戦争で亡くなったことになってるわ。今では各国が、世界に七人しかいない人類の守護者達の迷宮への挑戦権を剥奪しているの。彼らの死は、国民にも強い動揺を与えてしまうから」
私達の先頭を進むサキが、いつでも動けるよう周囲を警戒しながらも不満そうに言う。
人類の守護者。
彼女曰く、人類最強の七人を総称した言葉とのことだ。
現存する神金級冒険者三名もその中に入っている。
人類の守護者という言葉を聞く限り、こちらの世界では魔族側である悪魔の私とはあまり相性は良くないだろう。
なるべく関わらないようにしたいところだ。
そんなことを考えながらサキの後ろを歩いていた私が、彼女の目を見て尋ねる。
「……その説明を私達にするということは、今からその第七十階層以降に行くということかね?」
私達は今、彼女に先導されて第十階層を歩いている。
第一階層同様、苔の生えた石壁が続く迷宮を歩いていた私達だったが、そこまで深いとなると一度地上に戻る必要があるだろう。
私の言葉を聞き一瞬キョトンとした顔をしたサキだったが、すぐに軽快な笑い声を上げて答える。
「あはは。そんな訳ないじゃない。私達が行くのは、第二十階層で新しく発見された遺跡よ。この調子なら半日もあれば着くことができるわ」
その言葉を聞き安心したようにほっと息をつくイズを尻目に、私は彼女をうかがう。
彼女はひとしきり笑った後に、ゆっくりと腰の剣に手を当てながら、鋭い目をして呟く。
「……でも、迷宮では稀に階層を入れ替えることがあるの。この王都地下迷宮で入れ替えがあったということは聞いたことがないけど……新たに発見されたということは、その可能性もあるわ」
サキの真剣な表情に、イズは息を呑んで再び緊張の表情を浮かべる。
その様子を見たサキは満足したように微笑み、剣を抜きながら言う。
「ま、入れ替わっていたとしても、深層の魔物が出てくることはないんだけどね。要はもう少し緊張感を持った方がいいってこと────よっ!」
一閃。
彼女が剣を振ると同時に、壁から飛び出すように現れた影のような魔物が一薙ぎで斬り捨てられる。
倒れた魔物は光の粒子となって消滅し、そのまま迷宮内へと溶け込んでいく。
「ま、魔物!」
イズが慌てた様子で声を上げると同時に、私が渡した短杖を構える。
しかし、石壁内を影の魔物が走り回っているため狙いがつかず、困惑した様子で短杖を揺らしている。
「イズ、私が動きを止める。そこを狙いなさい」
私は杖を地面につくと同時に魔力を流し込み、壁の中を這いずり回っていた影の魔物達を外へと追い出す。
そして私の魔力に侵された魔物達は、痺れたようにその場で痙攣を始める。
その様子を見ていたイズが一度深呼吸をした後、一つずつ呪文を確かめるように詠唱を始める。
やがて詠唱が完成し、目の前の魔物へと彼女は魔術を発動させる。
「────<爆発>」
イズが唱えると、痙攣していた魔物達を中心として爆発が包み込む。
轟音が鳴り響き、爆風が石を散らしながら私達を襲っていく。
爆心地の最も近くにいた術者のイズは、アメラが彼女の前に庇うように立ってくれたことで怪我はない。
私も事前に防壁の結界を張っていたため、埃一つ付いていなかった。
「ちょ、ちょっと! こんな狭い通路で範囲魔術を発動させるなんて馬鹿じゃないの!? 何考えてんのよ!?」
砂埃で汚れたサキが、怒った様子で少し離れた位置から文句を言ってくる。
イズがしょんぼりとした様子で「ごめんなさい」と小さく謝っている。
彼女は爆発の直前に気付いて距離をとっていたようだ。
流石は金級冒険者といったところか。
セシル君ではそのまま吹き飛ばされていただろう。
「ちょっと何よその目は! 師匠のあなたがあの子を止めないとダメでしょう! っていうか爆発の前に警告しなさいよ!」
美しく整った顔立ちを怒りで顰めながら、サキが半目で責めるように私の顔を下から覗き込んでくる。
うーん、何故私が怒られているのだろうか。
爆発させたのはイズだというのに。
確かに止めなかったが、私は悪魔だよ?
面白そうだし黙って見ていようとか思っても、それは仕方ないことだろう。
「……もしかして、面白そうだから黙っていたとか言わないでしょうね?」
「……いや、そんなことはないよ」
疑わしげに私を見つめてくるサキから逃げるように、私はアメラの方を向いて誤魔化す。
イズを庇い爆発の直撃を受けた彼女だったが、傷一つなく平然とした様子でこちらに侮蔑の表情を向けてくる。
「メイドを盾にさせるなんて、まさに鬼畜の命令ですね悪魔。いつも私が逆らえないことをいいことに、やりたい放題ですね」
お前の方がやりたい放題やってるだろう。
それにその言い方は変な誤解を生むからやめなさい。
案の定、アメラの言葉を私の隣で聞いていたサキが、顔を赤らめながら私を睨み、責めるような口調で言う。
「……あなた達ってそういう関係だったの? ……もしかして本当に変態────」
「いや待ちたまえ。アメラ君とは主従関係にあるが、それ以上でも以下でもない。君が今考えていることは全くの誤解だ」
訝しげに私を見ていた彼女だったが、真摯な私の言葉を受け、やがて安堵したように首を振りながら答える。
「……そうよね。そういう関係には見えないもの。変な勘ぐりをして悪かったわ」
「そうですよ! 師匠はわたしにゾッコンですから!」
おい馬鹿。せっかく話が落ち着いたというのに蒸し返すのはやめなさい。
満面の笑みでこちらを見てくるイズとは裏腹に、隣で冷たい目を向けてくるサキ君の視線が痛い。
アメラ君なんてゴミでも見るような目でこちらを見つめている。
「ゴホンッ! 冗談はさておき。……魔物も動きが活発化してきているようだね。ここからはより一層、警戒して進むとしよう」
「……ええ、そうね。あと十階層なんだから、気を引き締めてよね」
彼女の冷たい視線を受けながら、私達は迷宮の奥へと足を進めて行った。
お読みいただきありがとうございます。
爆発系魔法少女降臨────
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