第三話:黒髪の少女
「……君は?」
私が訝しげに目の前に立つ黒髪の少女を見ると、彼女は花が咲き誇るような可愛らしい笑みを浮かべて答える。
「申し遅れたわね。私はサキ。金級冒険者よ。よろしくね、変態さん」
私の紳士キャラがいきなり崩壊の危機を迎えていた。
……聞かれていたのか。
彼女────サキの言葉に、後ろで見ていたイズが小さく吹き出して笑う。
アメラも珍しく機嫌良さげに微笑しながら、私の方に蔑視の視線を投げかけてくる。
……君達二人、後で覚えておけよ。
「ゴホンッ! 誤解があるみたいだが私は変態ではなく、紳士だ。そこは間違えないでくれたまえ」
「変態紳士ですね!」
ゴツン! とイズの頭を杖が叩く音がした。
うー、と言いながら頭を抱えて悶えている彼女を無視し、私は着ている黒コートを整え話を続ける。
「……それで、金級冒険者殿が駆け出しの鉄級冒険者である私達にどのようなことを頼みたいのかな?」
私達のやりとりを見て、後ろを向いてクスクスと笑っていたサキが、こちらに顔を向き直し答える。
「ふふっ。ああ、ごめんなさいね。思っていたよりも話しやすそうな人達で良かったわ。……実は先程の騒動を私も見ていてね」
チラリ、と片目でアメラの方を見ながらサキが言う。
どうやらアメラが絡んできた冒険者達をチリ紙のようにぶん投げていたシーンを目撃していたらしい。
私は何故か優越感に浸った顔をしているメイドへ責めるような視線を送り、サキの言葉に頷いて話を続けるよう促す。
「あなた達が実力者なのは、あれを見て分かったわ。……銀級冒険者が赤子のように投げ飛ばされていたしね。その実力を見込んで、私とパーティを組んで仕事をしないかって話よ。悪い話じゃないでしょ?」
サキの言葉を聞いた私は、考えこむように顎に手を置きながら彼女の顔を覗く。
確かに悪い話ではない。
金級冒険者である彼女と一緒に仕事をすることで上位の仕事をこなすことができ、冒険者のランクを手早くあげることができるだろう。
しかし、それには一つ疑問が残る。
「……何故、私達なんだ? 実力者を探しているとしても、組合に来たばかりの私達より他の信用における見知った冒険者を誘うのが普通ではないかね? 金級ともなると、それなりにツテもあるだろう」
私の言葉を受けた彼女は、聞きにくいことでも聞かれたかのようにヒラヒラと手を振り、苦笑いをしながら答える。
「私も最近王都に来たばかりなのよ。知り合いもこっちにはいなくてね。基本的にソロか即席のパーティしか組んでこなかったから、仲間だっていないわ。要するに、ボッチ同士仲良くしましょうってこと」
肩をすくめて苦笑いを浮かべる彼女を見て、私は目を細める。
……嘘は言っていないようだが、何か隠していそうだな。
まぁ、私達としてはメリットの方が大きい。
ここは素直に誘いを受けておくとするか。
「ふむ。そういうことならよろしく頼むよ。私の名はマモン。魔術師だ」
烏面に怪しげな笑みを貼り付けながら差し伸べた私の手を握り、サキが可愛らしく微笑んで頷く。
「ええ、こちらこそよろしくね。……あなたがリーダーでいいのよね? そちらの方々も紹介してくれるかしら」
私は後ろを向き、未だに頭を抱えて痛がっているイズから紹介していく。
「彼女はイズ。私の……まぁ助手みたいなものだ」
「師匠! そこはちゃんと弟子って言ってくださいよ! ……って、それより痛いので早く治癒してください! 撫で撫でしながら治癒魔術をかけることを希望します!」
私は後ろでギャーギャー喚くイズを無視してアメラの方を向く。
相変わらず機嫌の悪そうな顔をしている彼女を横目で見ながら、続けて紹介していく。
「彼女はアメラ。性格に難ありの不良メイドだ。実力は確かなので、戦闘では役立ってくれるだろう」
「誰が不良メイドですか悪魔。私ほど敬虔に神を敬い、慈悲深い者はおりませんよ」
不機嫌そうな声でアメラが後ろから文句を言ってくる。
聞こえていないと言わんばかりに私はサキの方へ身体を向き直し、肩をすくめて言う。
「────以上だ。彼女達が迷惑をかけると思うが、改めてこれからよろしく頼むよ」
「ええ、よろしくね。マモンさん」
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宿についた私は、今日出会った三人の駆け出し冒険者について考える。
一人は怪力を持った口の悪いメイド。
一人は何の力も持ってなさそうな子供。
そしてもう一人は────
「……彼が、私と同じで何も能力を与えられなかった、異世界からの転移者」
王都に来る途中、私が出会った同郷の異世界人から聞いた話だ。
何処からその情報を仕入れてきたのかは知らないが、世界で3人しかいない神金級冒険者からの言葉だ。信用しても良いだろう。
「……私とは、全然違うわね」
彼は常に堂々としていた。
組合でガラの悪い冒険者達に絡まれていたときも、仲間のメイドが暴れ出したときも、金級冒険者である私が話しかけたときも、彼の心は凪のように微塵も動揺していなかった。
まるで自分を害することができる者は、誰もいないとでも考えているかのように。
唯一動揺していたのは、私が変態だと言ったときくらいだろうか。
「……変な人」
彼は魔術師だと言っていた。
きっと、私と同様に何も能力を持たない彼は、この世界で生き残るために必死に魔術を習得したのだろう。
それが彼の自信の根拠なのだろうか。
だとしたら、お笑い草だ。
「……魔術を覚えただけで生き残れるほど、この世界は優しくはないわ」
確かに魔術師は希少な存在だ。
この世界でも、才能ある限られた者にしか習得することができない。
だけど私は、魔術師が強力な能力持ちに呆気なく殺されてきた場面を幾度となく見てきた。
「……まぁ、考えても仕方がないわ。近いうちにわかることだし、ね」
そう言って私はベッドに横になりながら、彼らが持っていた遺跡調査の依頼書を眺めていた。
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黒髪元女子高生現る────
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