第二話:問題児
「冒険者組合内で騒ぎをおこすのは今後控えていただきたい」
そう言って渋い髭面をさらに渋面で顰めているのは、この王都冒険者組合の組合長、ジェファソンだ。
ジェファソンは組合室にある執務椅子に座りながら、深くため息を吐いて私達の方を一瞥し、細めのフレームをした眼鏡を持ち上げて言う。
「しかし、今回は相手の冒険者の方から先に、君達を挑発していたと証言がとれている。……受付のマリア嬢に感謝するんだね。この件は口頭での厳重注意のみで、君達への罰則などは特にないと思ってくれていい」
その言葉に、組合室のソファーに並んでいた私達は安堵の息を漏らす。
隣に座るメイドは、当然とでも言わんばかりに鼻を鳴らしていた気がしたが、何かの間違いだろう。
「君達に突っかかっていた彼らには、一時活動停止処分と警告をしておいた。……組合の模範となるべき銀級冒険者も混ざっていたようだからね。まったく、困ったものだよ」
先ほどよりも深いため息を吐きながら、ジェファソン組合長が愚痴を漏らす。
そして顔を上げたジェファソンは、私達を……特にアメラを興味深そうな目で見つめてくる。
「しかし、今日登録したばかりの鉄級冒険者が、銅級と銀級冒険者を投げ飛ばすとは恐れ入ったよ。もしかして、能力持ちの方なのかな? ……いや失礼、マナー違反だったね。何れにしても、将来優秀な冒険者が入ってきてくれたことを歓迎するよ」
ジェファソン組合長が立ち上がり、柔和な笑顔を浮かべながら手を差し伸べてくる。
私も立ち上がって烏面に胡散臭い笑みを貼り付けながら、彼の手を握って言う。
「そう言っていただけるとありがたい。彼女は少々力持ちでね。私も投げ飛ばされた彼ら同様苦労させられている。……今回は騒ぎを起こして申し訳なかった。彼女に代わり、私からも謝罪させていただく」
深々と頭を下げて謝罪する私からの言葉を受け取ったジェファソンは、軽快な笑み溢しながら頷き、私の肩を叩きながら答える。
「ははは。昨今は礼儀も知らない荒くれ者ばかり増えてきて困っていたところだったが、君のような礼節のある優秀な冒険者が来てくれて私としても嬉しいよ。マモン君と言ったかな? 今後とも、よろしく頼むよ」
そう言って機嫌の良さそうに笑う組合長に挨拶をし、私達は組合室から退出した。
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「はぁ〜。いきなり冒険者の資格を剥奪されるかと思いましたよ。師匠の女たらしもたまには役に立つことがあるんですね!」
冒険者組合から出たところで、息苦しさを解放したかのように大きく息をついたイズが安心したように言う。
その隣を堂々とした様子で歩く、騒ぎを引き起こした張本人であるアメラが、イズの言葉を鼻で笑いながら口を開く。
「ふん。いざとなったらこの建物ごと、私が息吹で吹き飛ばしてなかったことにしてあげましたよ。女たらしがいなくともどうとでもなりました」
物騒なことを言いながらまったく反省した様子のないアメラを白い目で見ながら、私は二人に今後の方針を説明する。
「……アメラ君には後で言うことがあるとして……。今後の方針について先に話しておこうと思う。私達が王都に来た目的は、ここにいると噂されている異世界人との接触だ。ここまではいいかね?」
こくこくと可愛らしく頷くイズと、不満げな表情でこちらを見てくるメイドを交互に見ながら、私は話を続ける。
「セシル君達から聞いた話では、王都冒険者組合に所属している金級以上の高位冒険者ではないかとのことだった。受付のお嬢さんの反応を見た限り、間違いないだろう」
私の言葉に驚いた様子でこちらを見ていたイズが、やがて感心したように尊敬の眼差しを向けてくる。
「ただ口説いていた訳ではなかったんですね!」
「……イズ。君には後でお仕置きが必要なようだ」
この子は私のことを何だと思っているんだ。
確かに美人の受付嬢と話せた時間はとても有意義であったが、下心以外にもちゃんと理由があるに決まっているではないか。
万年発情期のアー君とは違うのだよ。
サッと顔を赤らめてお尻を隠したイズの様子を隣で見ていたアメラが、私に侮蔑の視線を送り言う。
「……幼女の尻を叩くのが趣味とは、まさに悪魔の所業と言えますね変態」
「断じてそんな趣味はない」
私にそんな捻じ曲がった趣味はない。
というか他の悪魔達への風評被害にもなるからやめたまえ。
ルー君やサー君が聞いたら地の果てまで私のことを追ってきそうで怖い。
「……話を戻すぞ。我々はこれから高位冒険者との接触を図れるよう、冒険者としての地位を向上させなければならない。……組合で暴れるなど、悪印象を与えるような真似は今後控える必要がある」
責めるような口調で言いながら、チラリとアメラの方を一瞥し、私は話を続ける。
「そのためにはまず、冒険者としてのランクを上げなければならない。鉄級冒険者ではできることも限られてしまうからね。────依頼をこなして、高位冒険者の仲間入りすることを当面の目標としよう」
私の言葉を聞いて、二人がそれぞれ納得したように頷く。
高位冒険者ともなれば人族領でもある程度動きやすくなるだろう。
私の魔道具で完璧に隠しているとはいえ、彼女達が混血だと疑われた場合に誤魔化しやすくもなる。
それに私の仮面が有名になれば、いちいち職務質問されないで済むかもしれないからね。
そんな話をしていると、私達の元に一人の女性が近づいてくる。
綺麗に肩口で整えられたサラリとした黒髪に、魔力が込められた質の良い革服で身を包んだ、冒険者風の華奢な女性だ。
年齢は16、7くらいだろうか。
大人になる直前の可愛らしさと凛々しさを兼ね揃えた、整った顔立ちをしている。
やがて彼女が私達の前に立ち、私の方を一瞥して声をかける。
「────話は聞かせてもらったわ。貴方達、高位冒険者を目指しているんですってね。 良ければ私の仕事を手伝わないかしら?」
そう言って、黒髪の少女は私に手を差し伸べてきた。
お読みいただきありがとうございます。
真の紳士はジェファソン────
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