第一話:冒険者組合
冒険者組合。
魔物の脅威から日々人々を守っている冒険者達に仕事を斡旋したり、そのサポートをしている組織だ。
人族領ならどの国にも存在しており、各国が合同で運営・出資している国際組織でもある。
その行動理念は“人類の平和”を掲げており、国内での魔物の討伐や迷宮の攻略、果ては薬草の採取までその依頼は多岐に渡る。
要するに魔物退治の専門家を主とした何でも屋だ。
冒険者組合は大きな都市なら大体どこにでも建てられており、各町や村からの依頼もそこにまとめられている。
そしてここ王都シュテルヴェルトでは、王国最大級の冒険者組合が建っていた。
国中の依頼がこの組合に集約し、王国で冒険者達が最も多く集まるこの場所は、国内で最大の賑わいを見せている。
冒険者はその実力ごとに七つのランク分けられており、自身のランクに見合った仕事が斡旋される。
その七つのランクというのは下から
鉄級
銅級
銀級
金級
白金級
真銀級
神金級
この7つに分けられており、白金級以上の冒険者は英雄として讃えられているそうだ。
だが、セシル達銀級冒険者のランクが低いかと言われるとそうではない。
白金級以上となると冒険者の中でも特別な存在であり、どの国にも数えるほどしか存在しないほど珍しくなる。
普通の冒険者は、基本的に会う機会などまずないとのことだ。
基本的には銀級が冒険者の上位であり、金級となると最上位のベテラン冒険者として扱われているようだ。
鉄級……駆け出し。
銅級……一般冒険者。
銀級……上位冒険者。
金級……最上位冒険者。
白金級以上……人の枠から外れた英雄。
認識としてはこんなところか。
セシル達が言っていた“英雄”という言葉は白金級以上の冒険者、またはそれに類する者達のことを指していたようだ。
人の枠から外れた強さを持った、一騎当千の者達のことで、強力な能力や魔術を使用できるらしい。
そのクラスにもなると、国から直接仕事の依頼がくるようになってくる。
世界に三人しかいない神金級冒険者以外は、ある程度所属した組合の国に縛られてしまうみたいだな。
「────以上が組合の説明となります。他に何かご質問などはございますか?」
王国最大級である王都冒険者組合の受付で説明を聞いていた私は、キチッと制服を着こなした育ちの良さそうなブロンドヘアの受付嬢に向かい、紳士的な笑みを浮かべながら答える。
「ふむふむ。非常に丁寧な説明で助かったよ。ではお言葉に甘えて、一つ聞きたいのだが……異世界から来たと言われている人物が組合に所属していると耳にしてね。その人物について詳しいことを聞いても良いかね?」
私の言葉に受付嬢が、申し訳なさそうにお辞儀をしながら謝罪の言葉を述べる。
「申し訳ありません。組合に所属する冒険者についての個人情報は規則で口外禁止となっており、私共からお答えすることはできません」
丁寧なお辞儀をしながら、駆け出しである私達にも礼節を持って仕事をこなす彼女を見て、私は感心したように頷く。
私は後ろに立つ彼女と正反対のメイドをチラリと見てから、にこやかな笑みを浮かべて答える。
「うむ。これは申し訳ないことを聞いた。私の方こそ無粋な質問をしてすまないね。とても丁寧な対応をしてくれる職員さんに出会えたことを嬉しく思うよ」
「まぁ、ふふ。嬉しいことを言ってくださいますね。それでは、こちらが冒険者登録完了のプレートとなります。最初は鉄級からですが、依頼をこなしていく内にランクも上がっていきますので、頑張ってくださいね」
彼女から冒険者プレートを受け取った私は、後ろで待っていたイズ達の元へ近づく。
そしてイズ達にそれぞれのプレートを渡そうとしたところで、彼女達から不満の声がかけられる。
「……師匠。あの受付嬢さんにデレデレしてましたよね? ……浮気は許しませんって言いましたよね?」
「途中で侮蔑の視線を私に向けていましたね悪魔。王国まで背中に乗せて運んであげた上に、組合の場所まで探した私に対してその目は何ですか? 踏み潰しますよ」
二人から責めるような視線で詰め寄られた私は、コホンッと一息ついてから話題を逸らそうと、依頼が貼られている掲示板の方を覗く。
「……そんなことより、これで晴れて我々は冒険者となった。まずは依頼をこなして早々にランクを上げなければ情報収集もままならない。これとかどうだね?」
私は掲示板に貼ってあった貼り紙から、適当に一枚を取り出して彼女達に見せる。
不満げな顔をしつつも、彼女達は私から差し出された依頼書を手に取って内容に目を通していく。
「……ええと、なになに。迷宮内の遺跡調査? 王都最大の地下迷宮で新たに発見された遺跡の詳細な情報を求む……。ってこれ金級以上からですよ!」
「はっ。迷宮と言っても所詮私の理想郷の劣化でしかないでしょう。何ですか、私の理想郷がこんな国の迷宮より劣っているとでも言いたいのですか悪魔」
そんな風に掲示板の前で騒いでいると、その様子を見ていた他の冒険者達が私達の方へ近づき、ニヤニヤと下卑た笑みを貼り付けながら声をかけてくる。
「おいおい。駆け出しの鉄級ルーキーが背伸びして、俺達を笑わせようとしてるぜ。ここは子連れの家族が来るような場所じゃねえんだよ。とっとと村にでも帰って畑でも耕してな!」
その言葉に周りにいた冒険者達が、ドッと笑い声を上げて嘲笑する。
ムッとした様子のイズを手で制し、私は努めて紳士的な態度で答える。
「これは失礼した、先輩方。まだ冒険者のルールに慣れていなくてね。この依頼書は戻しておくとしよう」
そう言って私が依頼書を掲示板に戻そうとすると、ガラの悪い冒険者達が周囲を囲み、嫌らしい笑みを浮かべながら言う。
「おいおいおい。先輩に対してそれだけか? せっかくアドバイスしてやったってのに、感謝が足りねえんじゃねえのか?」
「そうだぜ。そっちのメイドの姉ちゃん、エライ上玉だなぁ。俺達に一晩貸してくれたら、この件は水に流してこれからも仲良くしてやるよ」
下卑た笑みを浮かべながら、私の周りを囲む冒険者達が、アメラの身体に嫌らしい視線を向けジロジロと見てくる。
イズは私の服の裾をギュッと握り、不安そうにくっついていた。
そんなイズの頭を安心させるように撫でながら、私は小さくため息をつき、心配そうに呟く。
「……できるだけ穏便に頼むよ」
そして冒険者の一人がアメラの肩に手を触れようとした瞬間。
その男が組合の入り口に向かって、目にも止まらぬ速さで吹っ飛んでいった。
「わかりました。“できるだけ”穏便に済ませます」
にこやかに笑う美しい白髪のメイドから凄まじいほどの殺気が迸り、建物内を包み込む。
その竜の威圧に呑まれ動けなくなった冒険者達が、冷や汗をダラダラと流しながら腰を抜かしていく。
「私に下卑た目を向けたことを後悔させてあげます、糞虫共」
冒険者組合の入り口にまるで竜巻にでもあったように、周囲を囲んでいた冒険者達が殴り飛ばされて行った。
お読みいただきありがとうございます。
悪魔より悪魔してるメイド────
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