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イジめの記憶

このお話には、少々センシティブな表現が含まれている可能性があります。苦手な方はブラウザバックをお願い致します。

※※※※※


 どうにかテスト初日を乗り切った。数学は相変わらずボロボロだったけど、他の教科はなんとかなった。これでお父さんに怒られることはなさそうだ。心配はされるだろうけど……。

 明日もテストだ。疲れている暇なんてない。これさえ乗り切れば、しばらく休めるんだ。クラスメートは「全然勉強してこなかった」とか笑って言ってるけど、私は騙されない。皆、目の色が違う。躓いた分を取り戻そうと必死になっている。私も皆に合わせて、あることないこと言ったけど、どうせ全部バレているんだろうな。今日も隈できたまま登校したし。今日も徹夜かな……。

 台所に行って、眠気覚ましのコーヒーを淹れようと部屋から出る。と、急に私の部屋が騒がしくなるのを感じた。後ろを振り向くと、そこには何やら深刻そうな表情をした緑さんが立っていた。

≪真白ちゃん、テスト期間中なのにごめん≫

「いいですけど、なんでそのこと知ってるんですか?」

≪椿さんから聞いたの。それに顔、普通じゃないよ? また眠れなかったんでしょ≫

「……そうです。ちょっとコーヒー淹れてくるので、待ってて下さい」

≪あいよ≫

 小学校の修学旅行でお土産に買ったマグカップに、コーヒーを注ぐ。ここ一週間で毎日飲んでいるような気がする。自分の部屋に上がると、緑さんはぐったりとして横になっていた。よくよく見ると、私に負けず劣らず疲れていそうな感じ。一体何があったんだろう。私は床に座ってコーヒーを飲む。

≪あ、戻ってきた?≫

「はい。両親も眠ったので、どうぞ」

≪えっとね、今日、真白ちゃんが通っていた学校に行ったの≫

「……何の目的で?」

≪今日、一人の男の子が高熱を出して倒れたの。赤羽くんと同じクラスのね。誰なのかは分からないけど、少なくとも赤羽くんではないみたい≫

「これだけなら、なんで私の所へ来るんですか? まさか、これにも幽霊が絡んでるとか?」

≪そのまさか。私と他2人の幽霊と一緒に、さっき正体を突き止めてきた!≫

「そうだったんですか……」

 この町は、どれだけ幽霊が生きている人に迷惑をかけているんだろう。でも、高熱を引き起こすなんて、これまでの幽霊の所業とはまた一味違う。緑さんは、溜息混じりに語り始めた。

≪犯人は男の子の幽霊だったんだけどね、なんでも、『僕は幽霊になったから、無敵になったんだ』って。イジめられて自殺したらしいんだけど、いじめっ子を根絶する為に、ここに居憑いているっぽいんだよね。私の言うことにも耳貸さなかったし、あのクソガキ……≫

「いじめっ子……」

≪あ、ごめん。真白ちゃんにこの話はダメだったかな?≫


 青野……。


 青野だ。


 絶対あいつだ。


≪どうしたの? 顔、怖いよ?≫


 あいつのせいで、私は壊されて、汚されて……。


≪ちょっと真白ちゃん、どうしたの!≫


 全身に鳥肌が立つ。あの光景が、あの悪夢が、脳裏に焼き付いて離れないものが、次々蘇ってくる。

 目がチカチカする。呼吸が速くなる。辛うじて保っている理性も破壊されかけていた。目をぎゅっと瞑って、歯を食いしばって、発狂しないように頑張った。だけど、緑さんの声が段々遠のいていく。


≪――――――ちゃん!≫



 気が付くと、私は1階のリビングで横になっていた。

「真白! 目が覚めたか!」

 お父さん……。まだぼやけてるけど、耳だけははっきりとしているみたい。なんでこんなところにいるんだろう。さっきまでは自分の部屋にいたはずなのに……。目を擦って起き上がると、お母さんも一緒にいるのが分かった。

「ごめん、びっくりさせちゃったかな……」

「”また”あんなに震えて、本当にびっくりしたのよ! フリースクールに通ってから見なくなったのに……」

 震えているお母さんの手には、ビニール袋に入った、私のマグカップ。落としちゃったのか、取っ手が割れている。私、どれだけ壊されればいいんだろう。悲しすぎて涙も出なかった。

「もう私は大丈夫だから。今、何時?」

「そろそろ3時だから、もう寝なさい。今日は休むか?」

「ううん、テスト受けなきゃいけないから。これ終わったら、休みあるし」

 ふらつきそうになるのを堪えて、ゆっくり階段を上る。お父さんとお母さんは、私の部屋までついてきた。私、そんなに顔色悪いのかな。確かに背中に嫌な湿り気を感じるし、重だるさも感じる。

「少し勉強したら寝るから、心配しないで」

「ダメ! もう寝なさい! 明日のテストが心配な気持ちは分かるけど、お母さんからしたら、真白がこのまま気分が落ち込んで、また倒れちゃうことの方が心配!」

「……ごめんなさい」

「7時には起こすから、今日はもう寝なさい」

 必死さが伝わってくる。そういえば、私が手首切った時もこんな感じだったな。その少し後に、イジめられていたのがバレたんだっけ。「おやすみなさい」も言わないで、倒れるようにベッドに横になる。私がベッドに潜るのを確認したのか、お父さんとお母さんはゆっくりと部屋から出て行った。


 カーテン越しに、白んだ空が見える。もういい時間だもんな。結局私は眠れなくて、机に向かっていた。昨日より、テスト勉強が捗っているような気がする。というか、今まさにテスト期間なんだけど。

≪真白、ちゃん?≫

 妙な寒気が背中に走ったと思ったら、もう聞こえないと思っていた声が聞こえてきた。私はシャープペンを置いて、床に座る。

「……さっきはすみません。話している最中にこんなことになっちゃって」

≪私の方こそ、デリケートな話題にずかずか入り込んで、ごめんなさい≫

「そんなに悲しい顔、しないでください。それで、被害者は青野ですよね?」

≪……うん。真白ちゃんをイジめていたんだよね? その男の子が。意識が戻らなくて、今は病院に搬送されたみたいだけど、続報は全く聞かない≫

「そうなんですか」

 私はあまり状況を把握出来ていなかったけど、青野が罰を受けたという事実だけは分かった。でも、なんだろう。全く心が晴れない。寧ろ少しだけ、モヤモヤする。奴の顔は極力思い出したくないけど、今でも苦しみながら病院で治療を受けているんだろうな。

 私がよく見る悪夢にも、奴は出てくる。その度に私は、うなされ、寝汗でべたべたになる。罰を受けて欲しい。あわよくば牢屋に入って欲しい。そんなことを何度思っただろうか。でも流石に、「殺してやる」とか「死んでほしい」とか、そういう感情は抱かなかったな。なんでここまでされてそう思わないのかは、イジメられて1年以上経った今でも分からない。

≪真白ちゃん、ボーっとしているけど、本当に大丈夫?≫

「え? ああ。ちょっと考え事してました。もうさっきみたいなことにはならないと思うので、心配しなくても良いですよ」

≪それなら良いけど……。私が言うのもあれだけど、今日のテスト、頑張って!≫

「ありがとうございます。じゃあ、ちょっと寝ますね」

≪私も、帰って寝ようかな。墓地にいるおばあちゃん達、どうせ起きてるんだろうけど≫

 緑さんは、私に手を振るとスッと消えて行った。私は重たい身体をどうにか動かして、またベッドに寝転がる。さっきと違って、今度はあっという間に瞼が落ちていく感覚があった。そうか、私、疲れていたんだ……。欠伸をすると、私の意識は遠のいていった。


 テスト期間が終わった。始終眠かったけど、得意教科だったからどうにかなった。今日は何もしなくても良いとお母さんから言われたから、思いっきり昼寝でもしようかな。精神科の通院も無いし。学校から出る準備をしていると、あの子が降りてきた。

≪ご苦労様!≫

「それは目上の人が使う言葉。いつから貴女は私の先輩になったの? おチビちゃん」

≪酷い! 確かに私は小学生のままだけど、真白お姉ちゃんより先輩なんだもの! それに私には、橙野 灯っていうしっかりとした名前があるの!≫

「はいはい分かりました。私はもう帰るね。また来週。灯ちゃん」

≪つまんないの。またね。真白お姉ちゃん≫

 どうして幽霊ってこんなに元気なんだろう。ため息を吐いて学校を出る。今日は少し肌寒いから、早く帰って温かいお茶でも飲もう。テストという重圧から解放された私の足取りは、眠たさで重たい身体を易々と進められるほどに軽かった。


 いつもの公園に寄る。椿さん、私がテスト期間だって伝えたら、姿を見せなくなった。これも一つの気遣いなのかもしれないけど、緑さんみたいに、時々で良いから顔を出して欲しかった。幽霊に依存していることが異常なのは分かっているけど、今は親以外の年長者に、いまいち信頼を置けないんだ。でも椿さんは、私に向き合ってくれる。だから、誰もいない公園を通り過ぎる度に、椿さんがいるかどうか確認してしまう。

 今日は子どもの姿もない。感染症は少し落ち着いてきたっていうのに、みんな何処にいったんだろう。不気味なくらい静かな公園をあとにする。

 家に着いた。いつものように着替えて、リビングに向かう。この時間に幽霊の姿を見ないのは本当に久しぶりだった。お茶を淹れて、のびのびと寛ぐことも出来た。

「ふぅ……」

 思わず頬が緩む。夜中に気を失っていた時があったとは思えないくらいだ。思わずハッとする。でも、これで良いんだ。寧ろこれが当たり前なんだ。自然と笑顔になれるなんて、イジめられていた頃には考えられなかったんだから。こんな幸せな時間が、ずっと続けば良いのに。来週にはテスト返却という地獄が待っているんだろうけど……。


「……んぅ」

 部屋の中が薄暗い。少し長い昼寝をしていたようだった。飲みかけのお茶はすっかり冷めている。眠気覚ましのついでに食器洗うか……。ソファから起き上がる。

 と、背中に嫌な寒気が走った。この中に幽霊がいる。しかも、椿さんや緑さんとは全く別の。振り返ると、そこには女の子がいた。私が通って『いた』中学校と同じ制服を着ている。

「あの……、どちら様?」

≪いきなり押しかけてしまってすみません……。私、柏葉 水月と申します。貴女が井坂 真白さんですか?≫

「そうですけど、何の用ですか?」

≪中学校に住み憑いている、幽霊の件です≫

 何やら事情がありそうだ。私はカップをシンクに置くと、水月さんを私の部屋へと案内した。


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