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真犯人、見つかっちゃった!

 校舎に行くまでの間は、水月さんの無機質な道案内しか聞こえなかった。今までは友達作るのなんて朝飯前だった筈なんだけど、今回は何処か近寄りがたい雰囲気を持っている女の子二人だ。今のところ、こうやって事務的な会話が出来るだけでも奇跡だ。こういうタイプの女の子は、私のような部外者が入ってくるのを良しとしない。実際、最初はめっちゃ警戒されていたし。

≪あの、もう少しで着きますよ≫

≪ん? ああ、ありがとう≫

≪どうしたんですか? 上の空ですよ?≫

≪ちょっと、考え事してて……≫

 サラさんだけじゃなくて、水月さんも、掴み所がなさそうで……。嘘と苦笑いで対処する。サラさんはついてきてはいるけど、あれからずっと無言だし、気難しい表情を崩していない。水月さんも、必要最小限のことしか話さないから余計空気が重い。ああ、早く道案内終わらないかな……。


 あれから5分くらい経っただろうか。水月さんが立ち止まる。

≪ここです……≫

≪ここでしたか。市立露草中学校。生きている時、ここに行かなくて正解でした≫

 露草中学校……。初めて見る。見た目はごく普通の中学校なんだけど、なんだか異様な雰囲気を感じる。校門に近づいていくにつれて、背中に嫌な汗が滲むのが分かった。

≪さあ、行きましょう。どの教室か案内して≫

≪はい。緑さんも行きますよ?≫

≪うん……≫

 壁をすり抜け、水月さんに導かれるように歩いていく。階段を上ると、2年生の教室がある階に着いた。何もなさそうなのに空気が重く感じる。この感じ、やっぱりいる。水月さんの話は、嘘ではないことは分かった。

≪どの教室?≫

≪……ここです。ここから先は、緑さんとサラさんだけでお願いします≫

≪いいけど、どうして? 何か事情がある……≫

≪分かった。二人だけで行きましょう。緑さん≫

 ちょっと強めに私のことを制止するサラさん。声は小さかったけど、あまりの迫力に、≪はい≫としか言えなかった。水月さんは深く一礼して、私たちを見送る。

≪あの、サラさん……≫

≪今は目の前のことに集中してください≫

≪……はい≫

 どうも水月さんには、人に話したくない秘密があるようだ。このことを聞くのは、後ほどということで……。私は教室の中を確認する。

≪あ……、この人かな≫

 隅っこの席に座る、一人の男の子。こんな時間に生徒さんなんている筈が無いから、彼が犯人だってことは間違いない。今回の件は、割とすんなり終わりそう。そんな甘い考えが、ほんの少しだけ心の中に芽生える。私たちは、直ぐに男の子の所へ向かった。

≪こんばんは! 君、こんな時間に何してるの?≫

 いつも通りを意識して、男の子と接触を図る。明るく接していけば、警戒もあまりされないだろうから。でも、男の子は一向に顔を上げてくれない。やっぱり年頃の男の子の幽霊だもの、一筋縄ではいかないか……。というかサラさんは、≪行きましょう≫とか言った割に、遠くで見てるだけだし。

≪あのぉ、聞こえてますか? お姉さん、君のことを知りたくてここに来たんだけど……≫

 時間だけが過ぎていく。聞いているのか聞いていないのか分からない態度取ってるし。なんだか介護士時代を思い出すんだけど、それはそれ。笑顔が引きつっているのが自分でも分かるけど、それはそれ! 兎に角粘り強くいかなきゃ。何か証言を得なきゃ、赤羽くんたちの今後に関わる。

 でも、10分経ってもこんな感じ。もしかして、この子は私の話を最初から聞こうとしていないのか? 段々苛々してくる。よくよく見てみると、斜に構えた態度取ってるし、女だから舐めてるような感じにも取れる。可愛げが無くなってくる。サラさんは私のことを、憐れみに近い眼差しで見つめるだけ。おい、ヘルプミーだよ。なんでここでずっと見てるだけなのさ! 念を送っても、助けに来てくれる気配は微塵も感じられない。

≪ねえ、聞こえてる? 君に話しかけて15分以上経ったけど、いつまでもそうしているつもり? お姉さん、気が長い方じゃないからさ。単刀直入に言うけど、今日、ここで男の子が熱出して倒れたってのを聞いたんだけど、君がやったんだよね?≫

 このままだったら1時間経ってもこいつは黙ったままだと思ったので、いきなり深く聞いてみた。だってそれしか思いつかないんだもん!


 と、男の子の視線が動いた。それとほぼ同時に、私の方に顔を向けてくれた。


≪ああ、そうだよ。あの糞野郎は僕が手を下したんだ!≫

≪ようやく口を開いてくれて嬉しいよ。これで無視したら、武力行使に出るところだったんだから≫

 相変わらず人を浅い所で舐めた態度が苛々させるけど、とりあえず進展した。もっと深く聞こうと、私は話し方を考えながら情報を引き出すことにした。

≪というか凄いね。命に関わる技を健常者にかけられるなんて、相当未練があるんだね≫

≪僕は、この学校の連中にイジメられたから自殺したんだ。だから、イジメを撲滅させない限りは消えないよ≫

≪凄い心意気! 私の知り合いにもいじめられてフリースクールに通っている女の子がいるんだけど、その子にも聞かせてあげたいなあ。きっと惚れるかもよ? 君はイジメ被害者にとっての英雄だ!≫

 奴の顔が徐々に緩んでくる。そして、話に覇気が宿ってくる。これだ。今のところ順調だ。サラさんは私のやりたいことを察したらしく、奴から見えないように話を聞いている。

≪名前、なんていうの?≫

≪藤 津斗夢。享年14。中学2年生の時にイジメに遭って、そのまま不登校。嫌がらせの為に、ここで首吊って死んでやった! イジメた連中の名前書いた遺書も一緒に!≫

≪私は篠田 緑っていうの。藤くん、君をイジメた連中はどうなったの?≫

≪ニュースで見たけど、賠償金払えって言われた後、自己破産したみたい。でもこれだけじゃ全然足りなかったから、僕が手を下してやったんだ!≫

≪へえ! どんなふうに?≫

≪そいつの家に行って、父親の心臓を止めてやったのさ! そいつの慌てっぷりったらなかったよ! 結局、死んじゃったけどね。そいつ、1か月後に母親と心中してさ!≫

≪凄い! 復讐出来たんだ!≫

≪まあね。でも、こんなの大したことない。もっといじめっ子を地獄に叩き落してやりたくて、ここにいるのさ≫

 奴は胸を張って、とんでもないことを次々喋る。私は無条件でそれを褒める。でも正直、私は冷汗が止まらなかった。こんな仕打ちしてもなお足りないなんて、彼の執着は異常だった。褒めるにも限界があるけど、奴みたいなタイプは、持ち上げないと大事な情報を喋ってくれない。内容を聞く度に吐き気がする。人としての品性を疑う。正直、こんなどす黒い感情を持っていたら、イジメられるのも無理ない気がしてきた。奴はそれに全く気付いていないどころか、イジメている連中が全て悪いような物言いで話しているけど……。


 奴の自慢話は、外が真っ暗になるまで行われた。




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