表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/36

赤羽くんの過去

「……なんでこんなところに?」

 僕はあくまでも、水原さんがここに来るということを知らない風に接していた。昨日、井坂さんからのメールが無かったら知りえなかったから。

「水原さん、ここじゃ邪魔だから、何処か人気の少ない所に行こう?」

「うん! そうだね!」

 声色が弾んでいる。一体、どうしちゃったんだ? 僕が見なかった2年間、彼女に何があったんだ? 今まで知っていた筈なのに、急に不気味に感じてしまう。下校するクラスメートとは反対方向へ、行く当てもなく歩く。早く帰りたいのに、僕の意思とは反対に、彼女に引き寄せられるように歩いている。

 10分ほど歩くと、小さな駅に着いた。街中にしては珍しく寂れていて、おまけに無人駅だ。この時間だから、電車を待っている人はいない。

「ここにしようか」

「うん」

 目の前には、小屋のようなバス停。ここでも待っている人はいなかった。おまけに簡単なベンチもある。僕は既にへとへとで、腰かけて、話をすることにした。

「どうして、ここが分かったの?」

「幽霊から聞いたの!」

「……僕らがテスト期間中だってことも?」

「うん! 幽霊が教えてくれた!」

「あのね、こうやって言ってるけど、僕が信じてくれなかったらどうするつもり?」

「それはない。絶対信じるから」

「なんでそれも分かるの……」

「井坂 真白さんっていう人と知り合いなんでしょ? その子に頼んで、亡くなったお母さんの幽霊と会話したの、幽霊から聞いたから」

 やけに具体的で、何もかも筒抜けだった。どうして幽霊っていうのは、こうお喋りなんだろう。僕らは常に監視されてるってことなのかな……。そしてやっぱり、彼女は『視える』。小学生の頃には半信半疑だったけど、ここまで「幽霊から聞いた!」と言われると信じるしかない。途方に暮れていると、水原さんは目を輝かせて、僕と距離を縮めてくる。

「それにしても、水原さん、変わったね。2年前はあんなに縮こまっていたのに」

「私、馬鹿じゃないから、あれからずっと猫被って生きてるの!」

「幽霊が視えるの言わなかったり、本当はコミュ障ってことを隠したり?」

「うん! 皆に合わせて、頑張って生きてる! めっちゃ毎日辛いけど!」

 その割には、僕に対して満面の笑みで話している。きっと学校ではもっと話せてないんだろう。

「幽霊が視えても無視するし、しつこく構ってきても取り合わないようにしてるの。特に通学中のバス停前。あそ

こは酷い。なんでこんなにいるんだろうってくらい一杯いる!」

「そうなんだ……。というか、何処の学校行ってるの?」

「南中学校! 本当は義人くんと同じ東中学校に行く予定だったけど、あそこは死んでも行きたくなかったからさ!」

 顔は笑っているけど、所々に彼女の本性が出ているのがぞっとする。その後も僕らはほどほどに話して、いつしか日がオレンジ色になり始めていた。

「もうこんな時間……。今日はありがとう! テスト期間中なのにこんな下らないことに時間使ってくれて」

「いやいや、僕、なんだか嬉しくなった。もう会えないって思ってたから。水原さんも今はテスト期間?」

「うん。今日で最終日だったんだ! 明日からテスト返ってくるのが怖い! あ、そうだ! ID、交換しよ!」

 スマホを取り出し、緑のSNSを開く。コードを見せ合い、交換は一瞬で終わった。SNSのアイコンがオシャレ過ぎる。本当に、周りに溶け込んで生きているんだな……。

「じゃあ、僕はこれで。また会えたらいいね、水原さん」

「うん! でも最後に一ついい?」

「何?」

「会った時からなんかよそよそしくない? 前みたいに『真心』って呼んでも、良いんだよ?」

 一番触れたくない所に、最後に触れてきた。鏡を見なくても分かる。僕は今、恥ずかしさで耳まで赤くなってる。この事実は、他の誰にも知られちゃいけない。色々と過去が掘り出されるから、絶対に喋りたくない! とりあえず「うん」って言いたいけど、恥ずかしくて口から出てこない……。

「どうしたの? さっきまでめっちゃ饒舌だったじゃん」

「あ、あの、その……。久しぶり過ぎて、その、なんというか……」

「そんな恥ずかしがること無いのに。私と義人くんの仲じゃん!」

 そう言われると余計返答に困る! 「仲が良かった」のは事実だけど。ああ、もうこの際思い切って言ってしまおう! どうせここにいるのは僕ら二人だけだ。

「うん、良いよ、真心」

「やった! 嬉しい! じゃあまたね!」

 真心は、だいぶ嬉しそうに、少し照れながら、僕から走り去っていった。あの子の姿が見えなくなると、力尽きたようにベンチに崩れ落ちた。テストより疲れた……。

 女の子のことを名前で呼んだのは、後にも先にも真心一人だけだった。僕は勝手なポリシーがあって、人を名前で呼ぶのは、男女とも本当に仲良くなった人だけだと決めている。その唯一の女の子が、さっきまで水原さんって呼んでいた、真心だったんだ。


 僕はあの子が転校するまで、付き合っていたから。


 バレンタインには手作りチョコを貰ったし、初めて真心の家に上がった時は、しばらく何も出来なくてもじもじしていたっけ。ああ、次から次へと思い出が蘇ってくる。その度に不甲斐なさも思い出して、記憶から消し去りたくなってくる。

 思い出せばきりがなくなるから、もう家に帰ろう。早く明日のテストの復習しなきゃいけないし。恥ずかしさで汗ばんだ身体を無理矢理動かして、ゆっくり帰ることにした。ああ、今日は勉強どころじゃないかもなぁ……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ひきつづき、楽しみにしています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ